15節・3P
亜紀子が仕事が休みの日に2人は三宮に出かけた。
「沢山買ったね」
亜紀子の買った服の入った紙袋で両手がふさがった。千絵も2つ袋を手伝って持っていた。
「今日はつき合ってくれたので、千絵にも服を買ってあげるわ」
「えー!いいの?」
千絵は嬉しそうに喜んだ。
「いつも同じ服じゃ困るでしょ」
「嬉しい。いつか返すわ」
「出世払いでいいよ」
千絵はいろいろ服を見て回り、グレーの気に入った服を取り出した。
「これなんかどう?」
千絵は自分の胸に服を当てた。
「それよりも、もっとパッと明るい服にした方がいいんじゃない」
亜紀子は店に掛けてある服の中からピンクの服を持ってきた。
「夏なんだから、これくらい明るいのが丁度いいよ」
千絵は10歳の時の誕生日を思い出した。そう言えば、あのときはパパにピンクのワンピースをプレゼントして貰って喜んでいた。それが、いつの間にか、グレーなど暗めの色を着るようになっていた。
「そうね。ピンクでも着て、気持ち入れ替えようかな。試着してみる」
明るく言うと、試着室に入った。ピンクを着るだけで千絵のふさぎがちの目はパッチリ開き、子供の頃の明るさが戻ってきた。
「すごく似合うよ。それにしよ」
亜紀子も、明るくなった千絵を見て喜んだ。
両手には買った服の入った紙袋で一杯になった。
「早く帰って試着してみよ」
「うん」
2人は嬉しくて、急ぎ足で家路に向かった。歩いていると、亜紀子の目に宝くじ売り場が目に入った。
「あ、そう宝くじ買おうよ」
「宝くじなんか、いいよ。お金ないし」
「当たったら千絵の言っていた一戸建ての家が買えるよ。当たっても取らないから」
「当たるわけ無いよ」
「お金は出世払いで返してくたらいいから」
強引に宝くじ売り場に行き、10枚ずつ宝くじを買った。
「これは千絵の分」
「いいのに」
そう言ってすねた。そしてまた急ぎ足で家路に向かった。暫くすると、今度は千絵が足を止めた。ショーウインドーが目に入ったのだ。ウインドーのマネキンには綺麗な服を着せ飾られていた。ここは11歳の時、目を輝かせて見ていたウインドーだった。そのときと服装は違うが、今も同じように服が飾られていた。そのことをすっかり忘れていたが、そこを通った瞬間、あのときの事が脳裏に鮮明に蘇った。お金がなく、何も買う事が出来なかったが、目を輝かせながら自分がその服を着て、踊っている姿を描いていた。
「将来金持ちになって、こんな服を着る」
と誓った。でもあれから約15年近く経っているのに、何も変化がない。ウインドーを見ていると、あの当時の事を思い出して涙が溢れてきた。あれはママが死んだ直後で、住んでいる所を追い出され、前の日公園に泊まり、翌朝、パパと一緒に三宮に来たのだ。2人は住む所もないので放浪していて、その日の夜、豪邸の人と知り合う事になった。それが悲劇を招いたのだ。それからの人生がこんなに辛いものになるとは、そのとき想像してなかった。
それからすぐにパパは居なくなり、未だに消息不明だ。ママが死んで、パパとも別れ15年近くになる。明るかった小学生の時に、今の現実を想像する事など出来るはずもなかった。
「どうしてこうなったの?なぜ私だけが不幸なの?」
声にならない声で叫んだ。亜紀子も、ときどき突然泣きだす千絵を見る姿にも慣れてきた。また昔の事を思い出したのだろうと察しが付くようになり、千絵を優しく抱きしめた。それに千絵は温かさを感じ、更に涙が出た。