13節・1P
千絵は亜紀子の仕事を終えるのを待ち、亜紀子の家に行った。手前にキッチン、風呂があり、奥は8畳ほどのワンルームマンションだ。真ん中にテーブルが置いてあり、テーブルの下のみ絨毯が敷かれていた。他にテレビがあるくらいで、ほとんど何も置かれてないシンプルなものだ。2人は絨毯の上に座った。
千絵は、やはり暗く、腕には、まだ包帯が巻かれたままで、傷が痛む。
「小学生の時あんなに明るかったのに、どうしたのよ?」
その言葉に千絵は泣き出した。亜紀子には自分の全部を知って欲しかった。辛かった事を全て、人に知って欲しかった。辛かったときに現れた亜紀子の優しさに、涙が止まらなかった。そして、自分の全てを話そうと決意した。話す事で、少しでも重荷がおろせるように感じたのだ。
「私は10歳までは何不自由なく幸せに暮らしていたの。明るく、生きる事が楽しく、いつもニコニコしていたわ」
亜紀子は頷きながら聞いた。
「その頃は、私も知ってるわ」
「でも不幸は突然やってきたの。それは雨の日で雷もなっていた日なんだけど、それから雷が鳴ると怖くなるの。それはパパが連帯保証人になった事が不幸の始まりだった。そのパパの友達が夜逃げしてしまった為に、私たちが借金を背負わないと行けなくなったの」
千絵は涙を拭きながら、とぎれとぎれに話した。
「私たちは住んでいるアパートを追い出されて、安アパートに住んだの。でもそれも長くは続かなかった。・・ママが死んだの」
千絵は泣きながら、言葉を詰まらせながら喋った。それを聞いた亜紀子は驚きの表情を浮かべた。
「大丈夫!言いたくなかったら、それ以上言わなくていいよ」
千絵は涙を拭きながら、全部を知って欲しかったから、続きを喋った。
「でも亜紀子には聞いて欲しいの。亜紀子の事を私は親友と思っているの。ここまで優しくして貰ったのも久しぶりに嬉しかった」
「うんうん」
優しく頷いた。
「そしてママが死んでからは、もっと辛くなったの。その安アパートを出て行き、パパと一緒に公園で寝る事になったの」
「公園で?」
「でも幸い1日だけだったけど。次の日、芦屋の豪邸に黙って入り、庭で寝ていると、それが家の人にばれて怒られたんだけど、事情を話すと、家に招いてくれたの」
また泣き出す。
「親切な人が、いるんだね」
「でも、パパは迷惑かけれないと思い、私だけ置いて、出て行ったの」
「それでパパは今どうしているの?」
「未だ(いまだ)に会ってない」
「えー、10年間以上も会ってないの?!」
千絵は頭を縦に振った。
「じゃー10年間パパもママも無しで生きてきたの」
また泣き出した。
「さぞ辛かったでしょうね」
亜紀子は千絵の気持ちを察して、慰めた。
「それからは、芦屋の豪邸の人が私の親代わりになってくれたの」
「それは良かったね」
「もしその人たちが居なかったら、私は、もうこの世にはいないわ」
「それなのに、どうして自殺なんかしたの?」
「そこの娘とは同じ年で、仲が良かったわ。でも1つだけ欠点があったの」
「欠点?」
「すぐに私の物を欲しがるの」
「例えばどんな物?」
「食べ物に始まり、服や、そして彼氏まで」
「彼氏まで!」
その言葉に亜紀子は驚いた。
「私が好きだった人をとって結婚してしまったの。だから私は、その腹いせに結婚式のスピーチで全てをぶちまけ、気づいたら式場を飛び出していたの」
「いくらお世話したからって、彼氏まで取るなんて許せないわ」
亜紀子は自分の事のように怒った。
「その後の事は、良く憶えてないの。気づいたら病院のベットの上だった」
「辛い人生だったのね」
亜紀子が泣き出した。
「それだけで表彰ものだよ」
亜紀子は千絵を励ました。亜紀子は一緒に泣いていた。泣きながら、ビールを持ってきた。
「今日は飲もう。そして明日から第二の人生のスタートよ」
そう言うと、2人は乾杯した。