12節・4P
「おはよう」
看護婦は明るかったが、千絵の気持ちは暗かった。退院の話しを持ちかける事が怖かったのだ。
「あなた、もしかして、館林千絵じゃない?」
千絵はビックリして顔を上げた。
「同じ小学校だった。あー、やっぱり」
「私、松野亜紀子よ」
「あー、そう言えば、あのころの面影が残ってるわ」
千絵は知り合いに会った事に、喜びを隠せなかった。天涯孤独の身になったと思ったら、こんな所に救いの手を差し伸べる人がいたのだ。その時の嬉しさはひとしおだった。
「今どうしてるの?」
千絵の顔が曇った。
「あ、変なこと聞いたね」
「私、今は親元離れて独り暮らししているの」
「へー、頑張ってるんだ」
「でも実家は、すぐ近くなんだけどね」
「私は・・・」
途中まで言いかけるが言葉が詰まった。
「言いたくなければ、言わなくてもいいのよ」
「小学校の時、あなた事情も言わずに急に転校したでしょ。あの、お母さん亡くなった頃よ。ときどき思い出していたけど、こんな所で会うなんて思わなかったわ。ずっと近くにいたのね」
千絵はママの死によって急に転校を余儀なくされた。言えない事情を思い出して、暗くなった。しかし亜紀子は優しかった。昔の面影を残し、どこか懐かしく、ホッとさせてくれる人だった。