12節・3P
「すぐに退院できるから」
看護婦はニコニコしていた。千絵はそれとは裏腹に不安になってきた。自分が行くところがないことに気づいたのだ。
「これから、どうやって過ごせばいいのだろう。退院と言われても、行く当てもない。また手首を切って、もう少し、ここにいさせて貰おうかな。それとも病院の屋上から飛び降りて、本当に死のうかな」
そう考えると、また暗くなった。彩子も松本も、後藤家は、みんな怒っているだろうな。育てて貰った人に対して、恩を仇で返すような事をしてしまったのだから。自分のしたことに反省をした。
松本はどうしているのだろう。もともと嫌われているかもしれないが、もう取り返しの付かない事をしてしまった事に悔やんだ。彩子の結婚式をむちゃくちゃにしてしまったのだ。なんであんな事をしてしまったのだろう。あのまま我慢していれば、豪邸に住まして貰う事が出来たはずなのに。2人とも、今頃新婚旅行かな。私の言った事を忘れて、楽しく過ごしてくれているかな。
「でもあの家には、もう帰れないな」
そしてパパのことも気になった。
「パパはどうしたのだろう。とうとう最後まで、会う事が出来なかった。家を飛び出した以上、あの家にも戻れないし、パパと会うチャンスを切ってしまった事になる」
「もう一生パパとは会えないんだわ」
そう思うと、やってしまった事への反省の念で涙が出てきた。死んでいたら、もう悩まずに済んだのに。また同じ事の繰り返しだと暗くなった。死ぬ事も出来ない自分に対しても情けなく思った。