12節・1P


 千絵は気づいたら披露宴を飛び出して、街をさまよっていた。綺麗な衣装は汚れ、ストキングは敗れ、ヒールは脱げ、裸足で歩いていた。しかし千絵は歩くのをやめず、行く当てもない街を放浪していた。

「もう、あの家には戻れない。誰も身内がいない。どこにも行く当てもない。私は天涯孤独になってしまった」

 ポケットからペンダントを取り出し強く握りしめていた。

「パパ助けて」

 涙は溢れた。

「もう、どうすることも出来ない」

 やってしまった事への後悔の念が募った。やらなければ良かった。しかしああでもしないと、自分の気持ちが収まらなかった。ペンダントを強く握りしめると、

「パパごめんなさい」

 そう心の中で呟き、千絵は街の真ん中でナイフを取り出し、自分の手首に刃を入れた。大量の血が血しぶきとなり吹き出し、服や辺りを真っ赤に染め、そのままアスファルトに倒れた。

「きゃー」

 一気に人だかりが出来ていた。

「これで良かったのよ。私の人生苦しかったけど、考えようによっては幸せだったかもしれない」

 千絵の意識は薄らいでいく。

「これで死ねるのよ。ママの元に行けるのよ」

 そう思うと不思議と安らぎの顔に変わっていった。そして安らぎの表情とは裏腹に、これより千絵にとっての苦しい人生の第2幕が切って落とされたのだ。

 動かなくなった千絵の回りには人だかりが出来、救急車のサイレンが大きな音を鳴らしながら、近づいて来た。


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