11節・2P
千絵は夜、ベットに入ったまま、泣いていた。今でも松本の事を忘れることが出来ないのだ。結局2人の間は修復することなく、彩子と結婚することに至った。自分の好きな人を送るために自分がスピーチしないと行けない事は辛い。
「彩子はどうして、こんな試練ばかり与えるのよ」
松本が羽を広げて、自分の元から飛び立って行く姿が思い浮かんだ。
「不幸な私と居ても、お互い不幸になるだけよ。これでよかったのよ。松本の幸せを考えると、この方がよかったのよ」
自分に言い聞かせた。こんな状況で、どうスピーチしていいか判らず、スピーチの内容など浮かんでこない。浮かんでくるのは、楽しかったときの事と、彩子に松本を取られた悔しい思い出、別れてからの辛い人生。考えれば、考えるほど涙が止まらず、枕を濡らし、いつのまにか眠りについていた。
しかし奇妙な夢を見た。
「あ、パパ」
夢の中にパパは自然な形であられた。ずっと一緒に暮らしていたような感じで、普通に接していた。その後、パパはどこかに行ってしまい、千絵は不安になった。暫くするとパパは男の人を連れて戻ってきた。それは松本だった。千絵の前まで松本を連れてくると、松本と千絵を握手させた。夢はそこで終わり、まどろんでいると、激しくドアを叩く音がした。
「早く準備して。もう出かけるから」
その声で、一瞬に現実に引き戻された。
「あー、しまった。スピーチ何も考えてない」
悔しさと緊張で食欲もない。彩子とも顔を合わせたくなかったので、朝食も食べない事にした。その空いた時間でスピーチの内容を考えるが、考えれば、考えるほど悔しさが募るだけだ。何も浮かんでこない。
家族揃って、パパの車に乗って式場に向かった。幸せそうな彩子の顔を見たくなかった。パパ、ママ、彩子は幸せそうな会話をしているが、千絵はうつむいて、1人静かにしている。
「今日は彩子の結婚式なんだから、もっと明るくしてよ」
ママは、松本を奪ったいきさつを知らない。ママに悪気はないのだが、悔しさが募る。
「私の気持ちを知って欲しい」
そう思うと、更に暗くなった。