11節・1P
5年の歳月が流れ、千絵と彩子は大学を卒業し、パパの会社で仕事を手伝っていた。貿易関係の仕事で、大学で専攻した英語を活かして外国との取引をしている。
この日は彩子は会社を休み、松本との結婚を明日に控え、家の中が慌ただしかった。連絡漏れはないか、スケジュールを確認し、ママと彩子は全てを再確認し、夕方頃、やっと落ち着いた。
でも、この結婚は千絵にとっては、辛い事だった。もう5年も経っていたが、いつも松本の事は頭の片隅にあった。たまに彩子が家に連れてきたりすると、顔を会わす事もあり、その時は非常に辛かった。いつか自分と寄りを戻す事が出来ると信じていたのに、その願いも虚しく、叶わない夢となった。
そしてパパが出て行ってから、一切の連絡もない。もうパパとの記憶も薄らいでいるが、自分が今後、どうするのか考えると不安になってくる。
「お茶でも入れるね」
ママがお茶の準備をすると、彩子はソファーに腰を下ろし、お茶を飲みながら、やっとホッとする時間がやってきたと思った。
「とうとう明日ね。こんな早く嫁に行くとは思わなかったわ!」
ママの言葉に、彩子の目からは涙が出ていた。
「でも、暫くはパパの仕事手伝って、お金稼ぐわ」
お茶をすすりながら、くつろいでいると電話が鳴り、ママが受けた。少し話した後、
「彩子、電話よ」
そう言うと彩子が電話を受けとった。
「交通事故!?」
彩子は電話を受けとると、いきなり驚いて大きい声を出した。それを見てママは、せんべいを囓っている手が止まり、心配そうに振り向いた。彩子は電話を切ると、またソファーに座って、お茶を飲んだ。
「交通事故、起こしたの?」
ママは心配そうに聞いた。
「交通事故と言ってもたいしたこと無いのよ。全治1週間くらいなんだって」
「なんだ驚かせないでよ」
「でも明日、彼女にスピーチ頼んでいたから、穴が開くのよ」
「あ、そうか。今から代わりを探すのは大変よ。誰か、代わりいないかな?」
「探してみる」
彩子は煎餅を囓り、お茶を飲みながら、誰か変わりになる友達を考えていた。
「そうね、千絵ちゃんに頼んだらどう?今から探すのも大変だし、あの子なら友人代表でいいんじゃない」
「そうね、いい考えね。帰ってきたら言ってみる」
そう言うと2人は残りのせんべいを食べ、お茶を飲んだ後、散らかしたものを片づけ、ママは夕食の準備をし、彩子は部屋でくつろいだ。
しかし千絵がスピーチを引き受けた事で、千絵は更なる不幸を招く事になり、地獄を見る事になった。