10節・6P
今日は千絵と彩子が先に校門の前で待っていた。
「もう帰ってよ」
今度は彩子が千絵に言っていた。
「私、あんな形で別れるの嫌よ」
「後は私が何とかするから、早く帰って」
そのとき校舎から松本が出てきた。松本は2人に気づいたのか笑顔を見せた。校門に近づいてきたとき、彩子に笑顔を見せたが、千絵を一瞥(いちべつ)することもなかった。昨日の彩子の言葉を全て信じていたのだ。
彩子は、松本の腕に抱きつくと、千絵を無視して2人で歩き出し、取り残された千絵は後ろから声をかけた。
「松本さん、昨日は勝手に帰ってすいませんでした」
松本は振り向かずに、彩子が振り向いて睨んだ。さっさと帰って、と言いたげだった。
千絵は1人取り残されて悲しい気持ちになった。
「松本さん、どうしたんだろう?どうしてあんなに変わってしまったんだろう」
千絵は悲しくなり、校門の前でしゃがみ込んでしまい、暫く悩んでいた。どうして1日で、あんなに変わってしまったか、自分には思い当たる節がない。考えても、考えても判らず、暗くなるだけだった。しゃがみ込んだまま、無気力に鞄から携帯を取り出すと、彼にかけた。
2人が喫茶店の席に着くと同時に、松本の携帯が鳴っていた。
「誰から?」
「千絵だ」
彩子は松本の携帯を奪うと、優しさのかけらも見せずに電源を切った。
「出ないな!」
何回かの着信音の後、松本が出ない事で不安を感じ、泣きそうになった。そして呼び出し音が切れる音を聞いて、ガクッと落ち込んでしまった。そして重い腰を上げると、駅に向かいトボトボと歩いた。一時の幸せな気持ちも、今はかけらも残っていない。幸せだっただけに、そのギャップがキツく感じた。