9節・3P


 この日は、本当に、どう帰ってきたのか憶えてなかったが、パパに貰ったペンダントをしっかり握りしめていた。玄関を開けると、千絵は倒れた。倒れるときの大きな物音を聞いて、ママは走ってきた。

「どうしたの、千絵ちゃん、びちゃびちゃじゃない。傘はどうしたの?」

 千絵は傘を差さずに手に持っていた。それをママは見て、不思議に思った。

「この子は、どうして何時も濡れて帰ってくるの?」

 その横で千絵の意識は、どんどん遠ざかっていった。



「まー、すごい熱」

 ママが千絵の頭に触れたとき、すごく熱かった。千絵を部屋のベットまで連れて行くと、寝かした。

「1日2日、寝ると治ると思うわ」

 そう言うと苦しそうな表情をしている千絵に布団をかぶせ、部屋を出た。

 ベットの中で千絵はうなされていた。黒いレインコートを着たパパが迫ってくる。

「千絵、もう終わりだ。もう終わりだ。もう終わりだ。もう終わりだ・・・」

 パパは何度も同じ事を繰り返し、それを聞いている千絵は苦しそうな表情をしている。

「パパやめて」

 そう叫びながら、寝汗をびっしょりかいていた。それでも黒いレインコートのパパは、また迫ってきた。

「もう終わりだ。もう終わりだ」

「パパやめて」

 千絵は叫ぶが、パパの幻影は迫ってくるのをやめない。そのたびに千絵は苦しそうな顔をする。10歳の時の恐怖が、まだ拭い切れてないのだ。



 ママと彩子はベットの横で立っていた。

「さっきから、ずっとうなされているのよ」

「昼間は元気だったのに、どうして、こうなったの?」

 彩子はママに聞いた。

「雨の中、傘も差さずに帰ってきたのよ」

 そう言われると、彩子は責任を感じた。

「お医者さんは、どう言ってたの?」

「注射打ったから、すぐによくなるって言ってたわ」

「よかったじゃない」

 顔をひきつりながら、心は安心した。そのとき千絵は突然、上半身を起こしたので2人はビックリした。

「もう終わりよ。もう終わりよ」

 千絵の脳裏では、パパの言葉と、松本を彩子に取られると言った妄想が、朦朧とした脳でダブったのだ。

「千絵ちゃん、大丈夫よ。注射打ったから、すぐ治るわ」

「死んだらどうしよ」

 苦しそうにしている千絵を見て、彩子は泣きそうになっていた。

「馬鹿ね、風邪くらいで死ぬわけないでしょ」
 ママは叱った。


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