9節・1P
この日、彼はバイトで会えないので、千絵と彩子は2人で帰り、途中、彼と行くいつもの喫茶店に寄った。彩子は珈琲を飲みながら、ぼそりと言った。
「私、好きになったみたいなの?」
千絵はビックリして彩子の顔を見た。
「誰を?」
千絵は嫌な予感がして驚いた。
「判ってるでしょ、松本さんよ」
「えー!」
千絵は驚き、頑(かたく)なな表情になった。
「この前、タイプじゃないって言ってたじゃない?」
「そのときはそう言ったけど、やっぱり段々好きになったみたいなの?」
彩子はゆっくり喋った。彩子の性格を知っていたので、千絵は腰を抜かさんばかりに驚いていた。小さい頃から千絵の物を何でも欲しがっていたし、人の物がよく見える性格なのだ。今までは取り替えていたが、今度は物ではなく、人なので無理な話だった。
まさか彼氏にまで手を出すつもりなのか?でもそれはないだろうと納得した。
「私と彼は、もう切っても切れない関係になったから」
「えー!もうやっちゃったの?」
「まだやってないけど、彼も私の事好きって言ってくれてたし」
千絵はすねた顔をした。
「一回でいいから彼とデートさせて」
彩子はすねた顔で言った。
「ダメ。絶対ダメ」
千絵は強く言った。
「一回デートすると諦めるから」
「今回は絶対ダメ」
強く言い放した。彩子は何をしでかすか判らない人なので、1回デートしただけで状況が変わるのが怖かった。
「彼、あなたの事、好きって言ったんでしょ?」
彩子は下手に出て、優しい口調で喋った。
「うん」
千絵は強気で言った。
「それなら、私と1回くらいデートしたからって彼の気持ちが変わったりしないはずよ。それとも私に取られると思ってるの?自信ないの?」
「そんな事はないけど、でも絶対ダメ」
千絵は少し自信を失い、弱々しく言った後、強く言い放った。今までは彩子にいろんな物を取られていたけど、今度は絶対取られないと固く心に思った。
「私を不幸にしているのは、全部あなたよ」
千絵はそう言いたかったが、言葉を飲み込んだ。
「判ったわよ」
彩子が静かに言うと、千絵はホッと胸をなで下ろした。