8節・6P


「本当にご免ね」

 松本は慰めた。千絵は松本の前で泣いたら行けないと思うと、余計に悲しくなった。

「今日は帰ろうか」

 変な雰囲気になってきたので、2人は喫茶店を出た。喫茶店を出たとき、雨が降っていた。

「そう言えば、今日夕方から雨って言ってたな」

 千絵は鞄から折りたたみの傘を取り出した。

「今日傘持ってきてないから入れてくれる」

「うん」

 千絵は急に笑顔になり、嬉しそうにした。松本は本当は傘を持ってきていたが、一緒に入りたかったから嘘を言ったのだ。千絵の肩に手を回して、小さい傘に一緒に入った。千絵は涙を拭きながら、嬉しそうだった。

 駅へ向かっていると、次第に雨が激しくなってきて、小さい折りたたみの傘に2人は入りきらず肩が濡れた。雨が激しくなるに従い千絵の様子がおかしくなってきた。唇が震えだし、次第に恐怖の顔へと変わった。松本の前で変な顔は出来ないと、必死に押さえようとするが、抑えようとすると余計に恐怖はつのった。千絵の表情から笑顔は消えていた。それに気づいた松本は不思議に思った。

「どうしたの?」

「少し気分悪くなっただけ。私、先に帰る」

 そう言うと松本を1人残し、千絵は慌てて駅に走った。好きな人に変な顔を見せたくないのと、雷が鳴る前に先に帰りたかったのだ。

「どうしたんだろう」

 1人取り残された松本は呟いた。さっきパパの事を突っ込んで聞いたのが悪かったのかな。そう自問自答し、鞄から傘を取り出すと、駅までの少しの距離を歩いた。帰る途中、どうしても千絵のさっきの行動が脳裏から離れない。

「嫌われたのかな?」

 千絵の行動を気にしながら、トボトボと歩いた。



 電車の中で、千絵は怯えた表情を抑えるのに必死だった。ポケットの中に入ったペンダントを握りしめ、雷が鳴らないように祈った。

「パパ、家に帰るまでの間、助けて」

 必死に祈っていた。そのとき松本の事を考える余裕もなかった。目をつむり、苦しそうな表情を浮かべ、外の景色も見れない。早く帰ることばかりを考えていた。

 祈ったかいがあったのか雷も鳴る事もなく、次第に雨もやんだので、千絵も気持ちが落ち着いてきた。電車を降りた頃には雨は、すっかりやんでいた。気持ちが落ち着くと、松本の事が思い出され、急に不安になってきた。変な顔見られたんじゃないかと不安だった。松本を置いて帰ったことよりも、そっちの方が気になった。

「でも明日、話せばいいか?」

 そう思うと、また笑顔に変わった。


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