8節・5P
千絵が授業を終え、人混みに混じり校舎を出ると、校門の前で人混みの流れの中に松本が立っているのが見え、嬉しそうに駆け寄った。
「ごめんなさい」
「俺も今来たとこ」
千絵は喜びを抑える事が出来ずに、松本の腰に手を回し、抱きついた。すっかり昔の明るさを取り戻していた。
「みんな見てるから」
校門の前の坂を授業を終えた生徒が大勢歩いていたので、松本は照れくさそうにしていたが、少し嬉しかった。
2人はまた学校の近くの喫茶店で腰を落ちつけた。
「お前の家、金持ちなんだな?」
その言葉に千絵はうつむいた。
「私、居候なの」
「居候?そう言えば、表札と名前違っていたもんな」
そして千絵は、好きな人に自分のことを全部話そうと誓った。
「私、パパもママもいないの。小学生のときにパパが借金の肩代わりをしないと行けなくなって、一夜にして貧乏になったの。そして、その後、ママもすぐに死んでしまい、パパは今でもどこで暮らしているのか判らないの!」
千絵は今にも泣き出しそうな顔になっていた。それに松本は慌てた。
「あー、ごめんな。嫌なこと思い出させて」
「でも好きな人に知って欲しかったから全部喋ったの」
「俺も金持ちと言うことで、つき合っていたわけじゃないから」
そう言うと千絵は笑顔を取り戻した。しかし松本には疑問が残った。
「パパどこにいるか判らないって、どういう事?」
「パパ、私をあの家に置いて出て行ったの」
「娘を置いて出て行くなんてひどいな」
その言葉に千絵は敏感に反応し、慌てて否定した。
「あのときの事情を考えると仕方なかったの」
「本当に、何処にいるか判らないの?」
松本は心配そうに聞いた。
「うん。もしかしたら今頃、死んでいるかもしれない」
パパの行方を考えると、急に寂しくなり、目から涙が流れていた。