8節・2P
もう少し近くにより、彼のすぐ近くまで来ていた。
「どうしよう。ここまで来て引き下がれない」
どんどん心臓は高鳴っていた。
「苦しい」
心臓が破裂しそうだった。そして更に近づいて、わざとぶつかり、千絵は持っていた本を落とした。顔は真っ赤で周りなど見えてなかった。
「あ、ごめんなさい」
慌てたふりをして本を拾った。恥ずかしくて顔が見れない。
「あ、昨日の?」
「あっ、偶然」
男が気づいてくれたことに安心し、慌てて顔を上げ、偶然を強調した。
「昨日は有難うございました」
真っ赤になりながら頭を下げた。
その後、2人は喫茶店に入った。テーブルには2つのコーヒーが置かれ、2人の間に暫く沈黙が流れた。沈黙を破ったのは千絵の方だった。
「勉強熱心なんですね?」
「俺、家庭教師しているから、そのために見ていたの。勉強熱心なんかとは違うよ」
2人笑った。千絵は男と一緒に喫茶店に来れたことに喜んだ。
「君は何年生?」
「私、1年生です」
「じゃ、1つ違いだ」
「学部は?」
「英文学科です」
「じゃ、僕と一緒じゃない」
「本当ですか?」
千絵は驚き、目を輝かせながら男を見た。男の名前は松本伸一で、千絵より1つ年上だった。
「あーそうだ、今度よかったら、ドライブに行かない?」
「えー、でも、いいんですか?」
「免許取ったから、ドライブ行きたくて、うずうずしてるんだけど、一緒に行ってくれたら嬉しいな」
「はい」
千絵は下を向いて、顔を赤らめ、静かに返事した。