7節・3P
家のソファーでくつろぎながらも、男の事が脳裏から離れなかった。
「お姉さん何か落としましたよ」
と男の言葉を何度も復唱して、照れていた。あのときの、見つめ合った瞳が脳裏から離れない。
「これこそ大学生活なんだ。やっぱり大学に行って良かった」
男が行ってしまった後でも、千絵はいつまでも喜びを噛みしめていた。
「今度いつ会えるかな?」
今度大学で会えるのが待ち遠しくてたまらない。
家のリビングで座っていてもニコニコしていた。彩子がテーブルに座ってジュースを飲んでいたが、そのときもニコニコしていた。そんなとき、ジュースを持って彩子が近づいてきた。
「何かいいことあったんじゃない?」
「ないわよ」
「あったでしょ?」
「ないわよ」
「あったでしょ?」
「ないって」
彩子には暫く内緒にしていたかった。こんな素敵な人が同じ大学にいたってことを、まだ自分だけのものにしていたかったのだ。
布団の中に潜ってからも、男の事が脳裏から離れなかった。普段はパパの事ばかり考えているのに、その日はパパは一度も登場しなかった。
「あの人、何の学部なんだろう。何年生かな?」
「どこに行くと会えるんだろう?」
「明日、探して見よ」
「私にも、ついに春が来たのね。今まで死なずに生きてきて良かった」
そう思うと、今度はうれし涙を流した。