5節・7P


 2人は朝食を済ますと、慌ててリビングに置いた鞄を持ち、玄関を出ようとしていたとき、ママが近づいてきた。

「今日は、お弁当作れなかったから、食堂で食べて」

 2人の手に500円づつを渡した。

「ありがとう」

 千絵はお礼を言った。足には、まだ痛いたげに包帯が巻かれていた。ヒリヒリ痛むと共に自分が情けなく感じてくる。

 遅刻しそうだったので急いで学校に向かった。夏用の紺の制服を着て、日差しが地面に落ちる坂道を走り、朝から暑かった。

 2人は同じクラスで授業を受けていた。午前中の授業も終わり、昼休みのチャイムが鳴ると、彩子は急いで教科書を片づけ、千絵の席まで来た。

「千絵、パン買いに行こ」

「私いい」

 千絵は首をたれたままで答えた。

「500円貰ったでしょ」

「私、食欲ないから」

「どこか、調子悪いの?じゃー、私1人で買ってくる」

 千絵は昨日のやけどの事で落ち込んでいると思っていたので、あまり強く言わなかった。しかし彩子が食堂に向かうと、千絵は嬉しそうにした。

「これで、やっと新しい服が買える。服3着しか持ってないから嬉しい」

 千絵はお腹が空いているのを我慢して、少しずつお金を貯めていたのだ。周りの生徒がお弁当を食べている姿を見ると、我慢するのは少し辛かったので、俯(うつむ)いてジーと座っていた。最近の千絵は、頭をたれ、俯いていることが多い。

 暫くすると、彩子が引き返してきた。

「ねー、100円貸して」

「え!」

「今度返すから、100円だけ貸して」

「絶対よ!」

 千絵は顔を上げると、少し怒っていた。服が買えると思って楽しみにしていていたのに、彩子の今までの行動を考えると、本当にお金を返してくれるか信用出来なかったのだ。

 彩子がパンを買って戻ってくると、机を囲んで仲のいい友達5人で食事をしている。千絵は、その中には入らず、すぐ横で椅子に座ったまま、俯いて、暗かった。

「だけど、佐々木君カッコいいね」

「私は、どうも思わないけどね」

 千絵は女の子どうしの会話を、横で聞いていた。小学生の頃は千絵と彩子は仲良く姉妹のようだったが、中学になった頃から変わりだし、彩子は行動的で友達も多いが、千絵はどんどん暗くなり友達の輪に入らなくなってきた。不幸になった事への辛さ、後藤家への遠慮、彩子の我が儘など色々な要素が集まり、10歳の頃までは、あんなに明るかったのに、今ではそれを見る影もない。

 そのとき千絵のお腹が鳴った。お腹に手をやり、顔を赤らめ、誰かに気づかれてないか、周りをキョロキョロしたが、誰も気づかれてなかったので安心した。

「それより、もうすぐ夏休みよ」

「やったー、私したいことが一杯あるのよ」

「私は、親とフランスに行くの」

「いいな。彩子は?」

「私の所は、パパが忙しいから、今年も無理みたい」

 その話しを聞きながら千絵は家族と年に1回行っていた旅行を思い出した。そう言えば、あれから旅行に行ってないなと思った。

 9歳の時に行った、伊勢が懐かしかった。あの頃は楽しかったな。将来に対しての不安も何も無かった。パパもママもいたし、毎日が楽しかった。いつも幸せで、今こんな生活をするなんて夢にも思っていなかった。その頃の事を思い出しながら、泣きそうになっている涙を必死に堪えた。

「あの頃に戻れるなら戻りたい。そしてもう一度やり直したい」

 そう考えていると、どんどん暗くなっていき、一筋の涙が頬をつたった。周りに気づかれないように頬の涙を手で拭った。


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