3節・4P
パパは涙で濡れた目をこすりながら、ママの居る病室に入り、明るく振る舞った。
「あ、パパだ」
真っ先に気づいたのは千絵だった。
「今日は仕事早いのね」
「仕事少し落ち着いてきたから」
パパは悲しみを抑える口調で喋った
「ママの好きなオレンジジュース買ってきたよ」
「有難う」
パパと医者との会話は、ママも千絵も知らなかった。
「それでママ何の病気なの?」
千絵は、ママに近づくと、純粋な疑問をぶつけた。パパは動揺し、それを悟られないようにするが、どこか不自然だった。しかし千絵には、全く悪気のない純粋な質問で、本当の事を隠している自分を罪深く感じた。しかし、これこそ嘘も方便だと自分に言い聞かせ、2人に嘘を付いた。
「ストレスから来る疲労だって」
「へー、最近、ママ悩んでいたからね」
「でもたいしたことなくって良かった。ママが死んだら、私どうやって生きていったらいいか判らない」
「千絵を残して死ねないわ」
「大したこと無くって良かった」
千絵は目を輝かせていた。
パパは側で聞いているが、2人の会話に参加することが出来なかった。治ると信じている千絵のあどけない表情に、目頭が熱くなり、涙がこぼれそうになるのを必死で堪えた。
「ママが退院したら、ディズニーランド行こうね」
借金が原因でディズニーランドに行く話は、ずっと延期になっていたのだ。
「千絵が3年も前から楽しみにしてたからね。今度こそ絶対行こうね」
パパは涙を抑えることに必死になり、2人に悟られないように静かに部屋を出て、トイレに向かった。
トイレの洗面の鏡に顔を写すと、また目が腫れていた。さっき涙が出ききったと思っていたが、また涙が溢れてきた。水で顔を洗い、水滴を顔から滴らしながら、
「ママ、ご免。俺が保証人になったばっかりに。俺はママに何て、お詫びしたらいいんだ。俺が代わりに死ねば良かったんだ」
そう言うパパの目からは、涙が止まらなくなっていた。