3節・1P
アパートでの暮らしも1年が過ぎ、明るい未来の見通しは未だ立たない。いつまでこの生活が続くのだろう。娘は、そんな事に悩むような子ではなく、元気に明るかった。
「今日は、何の料理?」
「今日はごちそうよ。お肉よ」
「エー本当。久しぶりの、お肉だね」
キッチンに立って料理を作っているママの横で、娘ははしゃいだ。
「すぐ作るから楽しみに待っていてね」
「うん」
千絵は元気に頷き、勉強を始めた。ワンルームなので、勉強するのも、食事をするのも、寝るのも全て同じ部屋だった。娘は、普段食事をする丸テーブルに教科書とノートを開き、勉強をしていた。千絵は努力家で、苦しい生活を送りながらも、成績は優秀な方だ。
クラスでも明るく、みんなの人気者だった。昔レストランで言ったように、苦しさにめげるような子ではなく、家でも学校でも明るかった。丸テーブルに向かい、学校で出された算数の宿題と国語の宿題をしていた。女の子なので算数は苦手だったが、国語は好きで、本を読むのも好きだった。1時間くらいで宿題を片づけると、社会の本を開き、予習をしていた。パパが遅く帰るようになり、退屈な時間が長くなったので、その時間を勉強に充てたお陰で、成績も上がっていった。
千絵が勉強に集中していると、キッチンの方ですごい音がした。音の方を見るとキッチンでママが倒れていた。
「ママ、大丈夫?」
千絵は心配そうに近づいた。
「大丈夫よ」
その言葉とは裏腹に、ママの意識は次第に遠のき、意識を失った。
「ママ、ママ。どうしよう?」
千絵はおろおろするばかりで、どうしていいか判らない。ママは暫く前から体調を悪くしていたようだが、心配しないようにパパと千絵には隠していたのだ。
「ママ、ママ」
何度呼んでも、返事がない。
「どうしよう、救急車呼ばないと」
千絵は慌てて、119番に電話をし、そしてママが居なくなったときの恐怖を感じ泣いていた。
「ママを助けて。速く、急いできて。ママが死んじゃう」
泣きながらも必死に受話器を掴み、用件を伝えた。電話を切ると、ママの方に近づいていった。
「ママ、大丈夫?救急車呼んだから、死なないでね」
千絵は倒れたママの横で泣きじゃくっていた。