2節・2P


 千絵がそばで黙って聞いていて恐怖を感じないわけは無かった。小さいながらも大変な事が起こったのは判ったし、パパのこんなに困惑した態度を見たのは初めてだったので、取り返しの付かないことが起こったと言うのは想像が付いた。

「もう、この家も売らないと行けない」

 パパは無表情で、うなだれたまま言った。

「田中さんの借金いくらあるの?」

 ママは金額を聞いて少なければ、まだ胸をなで下ろせると、恐る恐る聞いてみた。

「5000万だよ。あいつの工場が潰れてしまったんだよ」

 ママは腰を抜かさんばかりに驚いた。そして取り返しのつかない事が起きたと言う事を理解した。

「もうダメだ。これからどうやって生きていっていいか判らない」

 娘の顔までもが恐怖でこわばっていた。

「私、もう学校、行けないの?」

 千絵は不安そうな表情を浮かべた。パパは千絵にまで迷惑掛けたと思い、黙り込んでしまった。

 パパが座っていた所は雨水で濡れていた。この日の夜は、雨と雷が止む事はなかった。

 暫くすると家族はマンションを売り、安アパートに住むことになった。あの日の、この一件で、千絵の人生はどん底へ落ちてしまったのだ。輝いていた瞳に、陰りが見え始めたが、それでへこたれるような子ではなかった。家族が心配しないように明るく振る舞っていた。しかし、その努力もむなしいものとなっていった。不幸はこの一件では終わらなかったのだ。


前ページ
次ページ

目次
粗筋(トップページ)

パソコン・トップページ