2節・1P


 この日は雨が激しく降っていて、パパは遅くなっても帰ってこなかった。まさにこの日、このとき、不幸の警笛が鳴ったのだ。そしてこれは、単なる序奏に過ぎなかった。

 夜もふけて、パパはいつになく帰りが遅い。雨も降っているし、ママも千絵も心配になってきた。

「パパ遅いね」

 ママは言った。千絵も心配そうにしている。そのとき、

「ピカッ」

 稲光が光り、少し遅れて雷が鳴った。

「ママ、怖い」

 千絵は耳を両手でふさぎ、床にうずくまった。窓から見える外の景色は真っ暗だった。

「パパ、大丈夫かな?」

 そのときドアの開く音がした。

「あ、パパだ!」

 千絵が玄関の方に喜んで迎えに行くと、パパは黒い雨合羽に包まれ、雨の滴を垂らしながら部屋に入って来た。息を切らせながら、首をもたげていて、様子が、どこかおかしい事にママも千絵も気づいた。

「どうしたの?」

 パパは、それには答えなかった。雨合羽に隠されて表情は判らないが、雨合羽を脱ごうとせず絨毯をびちょびちょにしているのに気づかない事に、何か大変なことがあったのは確かだ。

「大変だ。もう終わりだ!」

 初めてパパは声を発した。ママは予想はしていたが、パパの悲痛な叫びに、恐怖を感じた。

「どうしたの、パパ!」

 ママは少し心配した表情を浮かべ、パパの顔を覗き込んだ。

「田中が失踪したんだ」

「あら田中さんとこ大変」

「大変なのは田中だけじゃないんだ。うちも大変なんだよ!」

 パパは、せっぱ詰まっている感じがした。

「どうして?」

 しかしママは意味が分からないので、あっけらかんとしていた。

「あいつの保証人になってるんだ」

「えー!そんな話聞いてないわ?!保証人になっているという事は、うちが支払わないと行けないの?この家のローンもまだ終わってないのよ。どうやって返すのよ」

 ママは血相を変えた。

 そのとき閃光と共に雷が大きく鳴り、稲光が黒い合羽を着たパパを浮かびあがらせた。

「キャー、怖い」


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