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 夏休みも10日過ぎた8月1日、僕は朝の10時前に、JR三ノ宮駅のホームに、母と一緒に立っていた。僕は小学校3年生で内田俊助と言い、短パン姿で、背中にはリュックサックを背負い、野球帽をかぶっていた。僕と母の前には10人程の列が出来ていて、静かに電車が来るのを待っていた。

 これからの1ヶ月間を香住(かすみ)にある親戚の家で過ごす為だ。香住は兵庫県だが、神戸とは反対側の山陰にあり、母の姉が住んでいる。海も近く、風光明媚で、のんびり、落ち着いた所だ。退屈な夏休みを、そこで過ごしたいというので、母は姉に頼んで、1ヶ月間だけお世話になる事になった。

 母は40歳で、姉は3つ上の43歳だ。10年前に結婚していて旦那さんと一緒に住んで居る。2人は、その旦那さんの実家近くの家で、空いている家を借りて住んでいた。香住にも僕と同じ小学校3年生の子供が居て、2人はとても仲が良かった。お互い神戸に来たり、香住に行ったりはしたが、1ヶ月間過ごすのは今回が初めてだ。だから僕は内心、心がウキウキしていたが、そのウキウキする気持ちを抑えて、大人と混じって列にきっちり並び、電車を持っていた。

 

 特急はまかぜが静かに、ホームに滑り込んできた。そのとき僕の心は最高に喜んでいた。流線型のボディーに、初めて乗る特急が目の前に止まった事に興奮していたのだ。走って電車に乗り込みたい気持ちだったが、まだ扉は開いてない。興奮を抑えた。特急はまかぜは大阪が始発で、三ノ宮駅は2つ目の駅だ。終着駅は香住、浜坂、鳥取と乗る列車によって違う。

 特急の扉が開いたときも、興奮する心を抑えるのが大変だった。でも急いでも仕方がない。僕は指定席券を持っていたからだ。前の列に付いていき、特急に乗り込むと、背中のリュックサックが少し揺れた。列車に一歩踏み込んだ所で、後ろを振り向き、母に笑顔を見せた。

「気をつけていってきてね」

 僕に優しく言ってくれた。

 電車に乗り込んだときの匂いや、豪華さに、僕は興奮した。指定席券の番号を見ながら、席を探すと、すぐに見つける事が出来た。車両の真ん中辺りの、窓側の席だった。その窓から母の姿が見えたので、僕は嬉しそうに笑顔を見せた。暫くすると、隣にはスーツ姿のサラリーマンが座った。

 エンジンのかかる音と振動が車体に伝わってき、扉の閉まる空気音がし、僕の鼓動も高まってきた。静かに特急はまかぜが動きだすと、僕は嬉しそうに母に手を振った。そして次第に電車は速度を速め、母は離れていった。

 特急はまかぜは三ノ宮駅を発車すると、山陽本線を突っ走り姫路に向かった。座席にちょこんと座っている僕は、リュックサックを膝の上に載せていた。座席は大人サイズなので、小学生3年の僕にとっては少し大きかった。退屈を紛らわす為に、窓から見える流れる景色をズーッと見ていた。

 でも初めての特急、初めての旅行は興奮が大きかった。香住は1人で行った中では、一番遠い所だ。小学校3年生の1人旅に関しての不安や緊張はなく、興奮が勝っていた。香住で暮らす1ヶ月間の事を考えると楽しくてしょうがなかったのだ。松沢誠と久しぶりに会える、久しぶりに遊べると思うと、うれしくてしょうがない。今年の夏休みは楽しい事だらけだ。そして実際、最高の夏休みを過ごすことが出来たのだ。

 姫路に着いたのは1時間ほどしたときだ。姫路と言えば、国宝であり、世界遺産でもある姫路城が有名である。最初に砦が築かれたのは1333年で、その後、何度も拡張され今の姿になった。そのため大天守と3つの小天守からなる。姫路を更に西に行くと、赤穂浪士で有名な赤穂がある。姫路より西の相生(あいおい)から赤穂線に乗り換えて、播州赤穂で下りた所だ。赤穂城跡や大石神社、赤穂民俗資料館などがあり、海にも近く、温泉も湧いているので、海を望みながらの露天風呂も楽しめる。赤穂は兵庫県だが、岡山に近い所に位置する。

 特急はまかぜは姫路を出ると、進路を北にとり、播但線(ばんたんせん)へと入った。文字通り兵庫県の南西の播磨(はりま)と、但馬牛で有名な兵庫県の北側の但馬(たじま)を結んだ線だ。そして播磨と但馬の東側に位置するのが、黒豆などで有名な丹波だ。

 播但線を進むと、山陽本線とはうって変わって、車窓からは田圃など自然の風景が多く見られるようになり、のどかな感じが伝わってきた。

 膝の上で抱えるようにしていたリュックサックから水筒を取り出し、そこからジュースを飲んだ。香住までは170km程あり、3時間くらいかかるので退屈しないように、母が持たせてくれた。そのジュースを飲みながら、時々カンカンと聞こえる、踏切の音を聞いていると、のどかな感じがした。太陽の光は強く、田圃を照りつけ、その緑が反射して見えた。

 特急はまかぜは、播磨から但馬に入ると、和田山より播但線から山陰線に変わる。和田山の近くの出石(いずし)は出石そばが有名で、もともと信州から伝わったものだ。室町時代には城下町として栄え、小京都と言われる町並みが今も残っている。

 城崎(きのさき)まで来たとき、やっと海が近づいてきた。城崎は関西では有名な温泉地で、川沿いの柳並木と、浴衣姿、外湯巡りと独特の情緒を感じさせる。だから文人に愛され、ここを舞台にした文学作品も多い。

 城崎を抜けると竹野、香住で2駅目で、20分ほどで着く。香住の次の駅、浜坂から奥に入った所には、NHKで放送された「夢千代日記」で有名な湯村温泉がある。

 

 電車が香住に着くと、僕は長旅で少し疲れていたが、興奮で駆け足になっていて、背中のリュックサックを揺らしながら、改札を抜けた。

「しゅんくーん」

 改札を抜けると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえ、辺りをキョロキョロさせた。伯父さんが居るのが目に入ってきて、ぴょこんと頭を下げると、リュックサックを揺らしながら、伯父さんのもとに走って行った。近くに伯父さんの白のセダンが停まっていて、僕は助手席にちょこんと座った。

「神戸からだと長かったでしょ」

「うん。でも外見てたら楽しかった」

 そう言って笑った。伯父の名前は松沢直樹で、仕事は農業をしている。

 車は海岸線を走った。この辺りは良港で、冬はカニ、夏はイカなどの魚介類が美味しく、旅館、民宿も多い。途中から奥に入っていき、1時間程走ると家に着いた。さすがに僕も疲れ、家に着いたときには昼の2時になっていたので、お腹も空いていた。

激安ドリンク、箱買い、まとめ買い(コーヒー、紅茶、炭酸、スポーツドリンク、ジュース、水、酢、栄養ドリンク)
 1缶50〜80円くらいの激安ドリンクを始め、安い商品が多数あります。破損時の返品代引き決算(着払い)もありますので、安心してご利用ください。休日、買い物に行く時間も省け、重い物を運ばなくても、家まで持ってきてくれるのも、嬉しいですよね。


2へつづく