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    20

 

 早苗は家のリビングのソファーに、泣きながら、下を向いて座り、その前のソファーに父は威厳ある態度で座っていた。

「お前は、どうしてお父さんの気持ちが分からないんや。お父さんはお前のことを考えて、あの男と別れろと言っとうのに、どうしてそれが判らんのや」

 早苗は下を向いたまま顔を上げず、垂れ下がった髪で顔を隠し、泣いていた。

「もう2度とあの男とは会うな。判ったな」

 威厳のある口調で言った。

「また会ったとしても、すぐに捕まえに行くからな。それよりも、お前はもう大学行かんでもいいから、明日からでも、うちの会社の仕事を手伝え。それがお前にとっても最善の策や」

「いいか聞いているのか!?」

 返事のない早苗に強い口調で言った。

「もう悪いことは言わんから、あいつとは会うな。いいな!」

 それでも早苗は下を向いて泣くだけだった。

 そのとき早苗は広瀬が車を追っかけて転んだこと気になっていた。

「大丈夫かな?」

 心配だったが連絡が取れない。必死になって追っかけてくる広瀬を思い出したら、自分は愛情に包まれているんだと嬉しくなった。

 早苗が家に戻ってからは、部屋に閉じこもりっきりで一歩も出てこなくなった。お母さんが食事が出来たと呼んでも、下りてこなくなった。そしてお父さんにいくら言っても無駄だと思ったので、

「こうなったら、また家を出ればいいんだ」

 そう思うと、また家を出る計画を立てていた。

 

 広瀬は悲しさで、もう朝の9時を過ぎているのに学校に行く気力が湧いてこない。考えるのは早苗と過ごした楽しい日々ばかり。贅沢な暮らしはしてないし、ごく普通の生活を送っていたのだけれど楽しかったし、幸せだった。

「もう一度、あの幸せが戻ってきたらどんなにいいことか。でもここに早苗さんが来たところで、また連れ戻されるだけ」

「それに僕と一緒になっても、早苗さんは幸せにはなれないし、苦しめるだけ」

「このまま早苗さんのことは忘れて、早苗さんと出会う前の生活に戻した方がいいのかも知れない」

「もう早苗さんのことは忘れよう」

 

 早苗は早苗で、部屋に閉じこもったまま、また広瀬の事を考えていた。朝から晩まで広瀬のことで頭が一杯で、広瀬の事を片時も忘れる事が出来ない。

「広瀬君どうしてるかな?」

「私のせいで迷惑ばかりかけて。私と付き合うから広瀬君を不幸にして、苦しめてしまうのよ」

「でも、どうしたらいいの?私は今、広瀬君に会いたくて、会いたくて、しょうがない。あんな感じで引き離されたから、また会って謝りたい」

「広瀬君の事を、すごく愛している。広瀬君は、私をこんな気持ちにまでさしてくれた」

 もうお父さんと顔を合わせるのが嫌だったので、部屋に閉じこもってトイレ以外は部屋を出てない。お腹も空かないし、風呂にも入ってない。ただ広瀬と会うことばかりを考えていた。

 

 早苗が家に戻ってから3日が経った。いつものように2階の部屋に閉じこもっていると、父がいきなり入って来た。

「出て行ってよ」

 早苗は抵抗したが、父は出て行かない。

「お前も、もう大人なんやから、お父さんの言うこと判るやろ」

「判らないよ。全然判らないよ」

「何だと!」

 早苗が切れながら言ったことで、父の顔つきが変わった。

「早く出て行ってよ」

 早苗は怒った。

「明日からお父さんの会社で働け」

「嫌よ。何で私がお父さんの会社で働かないといけないの」

「お父さんの会社で働き、お父さんが見つけた人と結婚して、お前を幸せにしてあげたいんや」

「私を幸せにしたいとか何とか言って、自分が幸せになりたいんでしょ」

「それは誤解やで」

「私の幸せを願っているなら、もう少し私のしたいようにやらせてよ」

「何処の馬の骨か判らない人間と付き合うのはやめろ。あんな男と結婚しても、あの男はお前を幸せには出来んぞ」

 そう言うと父は、言う事を聞かない早苗の髪の毛を掴んだ。父は早苗がいくら言っても聞かないので苛立っていたのだ。

「広瀬君の事を悪く言わないでよ。離してよ」

 早苗は広瀬の悪口を言われたことに腹を立てて、泣いた。

「絶対にお父さんのいいなりになんかならないし、お父さんの会社では働かないから」

 娘の怒りに、父も怒り、掴んだ髪の毛を引っ張った。

「やめてよ」

 そう言うと早苗は父の胸を思いっきり押すと、父は倒れた。倒れた父に、早苗は近くあった本を投げつけた。本を投げた勢いで、早苗はまた家を飛び出した。

 広瀬の悪口を言われた怒りと、分からず屋の父への怒りで、涙を流しながら走った。早苗のキラキラとした涙と、サラサラの髪は、風で後ろに流れていった。頭の中には広瀬のことしかなかった。

「私を判ってくれるのは、広瀬君しかいない。私を愛してくれるのは、広瀬君しかいない。私を幸せにしてくれるのは、広瀬君しかいない。私も早く家を出て、独り暮らしをしたい。そしてあの分からず屋のお父さんとも別れたい。そしたら、こんなにも悩まずにすむのに」

 家を勢いよく飛び出し、勢いよく走ったので息切れがし、途中、外灯の下で休憩をした。静かな夜で、車の通る音だけがした。

「広瀬の家までは後5分くらいだ。もう少し頑張って走ろう」

 早苗には、広瀬だけが唯一の救いだった。

「もし私が今、広瀬君の家に行ったらビックリするかも知れない。きっと驚いて、私を優しく包み込んで、もう二度と離さないと言ってくれるかも知れない。私を愛してくれるのは広瀬君だけ」

 しかし、この後、早苗の思い描いた通りにはならず、それとは逆に地獄に行く事になった。

 

 広瀬のことだけを考え、走っているとアパートの前に立っていた。下から見上げると部屋の電気がついていて、階段を上がりながら、胸の鼓動は高鳴っていった。

「もう少しで広瀬君に会える」

 そう思うと、足は緊張し、胸の鼓動も高くなっていった。

「これは初めての感じ」

 広瀬君と知り合って1ヶ月以上が経つのに、始めての感覚だった。よほど嬉しいんだと自分で実感した。そして震える指で家のベルを鳴らした。

 すぐに広瀬が家から出てきた。早苗は嬉しさのあまり、広瀬に抱きついた。

「ずっと会いたかった。ずっとずっと広瀬君の事を考えていたのよ」

 早苗はニコニコしながら言った。しかし広瀬の表情は冴えない。目を合わせず下を向いたまま、しどろもどろだった。

「どうしたの?私が来て嬉しくないの?」

 そう言うと広瀬はボソリと答えた。

「早苗さんの事、忘れてた」

「え!」

 あまりの言葉に早苗は倒れそうなくらいビックリした。自分は24時間、広瀬のことを考えていたのに、広瀬は自分のことを考えてくれてなかったという事にびっくりした。

「私のこと忘れたの?」

「僕、好きな人出来た見たい」

「え!」

 またまた驚く返事に、早苗は開いた口がふさがらないくらいの驚きを憶えた。

「え!それ本当なの?」

「うん。ごめん」

「私の知ってる人?小泉絵美さん、芝田美幸さん?」

「いや。早苗さんの知らない人。昨日、誘われて合コンしたら、そこで知り合った子と意気投合して、ホテルまで行ってしまった」

 広瀬は相変わらず目を合わせなかった。

「・・・」

 早苗は、あまりのショックで肩の力は抜け、瞳孔は開いたまんまだった。そしてアパートの階段をトボトボと下りて行った。

 広瀬は、肩を落として歩いている早苗の姿を見送った。早苗の姿が見えなくなるまで、ずっとずっと見ていた。ずっと見ていたかったのだ。最後のお別れに、ずっと見ていたかったのだ。早苗は後ろを振り返ることなく、来た道を歩いて帰った。

 

 広瀬は部屋に戻ると、悲しい表情を浮かべた。本当は早苗に会いたくて会いたくて待ちこがれていたのだ。そのときに現れたので、思いっきり抱きしめ、愛したかった。しかし自分と付き合っても幸せにはなれないと悟り、お父さんの決めた人の方が幸せにしてくれると思ったので別れようと決心した。それに親の反対を押し切って、結婚しても幸せなんて待ってない。待っているのは地獄だけだ。だから会いたい、抱きしめたい、愛したいと言った全ての感情を押し殺して、早苗を追い返したのだ。でも名前くらい呼んで、思いっきり抱きしめてあげればよかった。後悔の念と、心と裏腹のことをした事で涙が流れてきた。これで本当に、一生会えないかも知れにない。そう思うと悲しくなってきた。

 早苗は広瀬が温かく迎え入れてくれ、思いっきり抱きしめてくれると思っていたので、追い返された事が、あまりのショックだった。自分はずっと広瀬の事を考えていたのに、広瀬は自分のことを全然考えてくれてなく、おまけに浮気をしていたと言う事が信じられなかった。あんなに会いたい会いたいと思っていたのに、広瀬との間に感情の温度差があったのはショックだ。

「今まであんなに愛してくれていたのに、今まであんなに優しかったのに、やっぱり自分と居たら不幸になるって悟ったのよ。私は嫌われないようにずっと我が儘は言わなかったし、これからも言わないつもりなのに。広瀬君が言う事ならなんでもするつもりだったのに。もう私の事は愛してくれないの。広瀬君は唯一の頼みの綱だったのに。私はどうしたらいいの?やっぱり私は、不幸を呼ぶ女よ。広瀬君の事なんか幸せには出来ない。もう生きていても人に迷惑ばかり掛けるし、生きている価値なんてない」

 早苗はあまりのショックに、何処をどう歩いたのか判らなかった。

 

 広瀬が1人で部屋で落ち込んでいると、またチャイムの音が鳴った。少しの後悔もあったので、早苗が戻ってきてくれたことが嬉しかった。今度は温かく迎え入れてあげようと思い、急いで玄関を開けると、怒りに包まれた早苗の父が立っていた。

「娘を帰せ!」

 そう言うと広瀬の胸ぐらを掴んで、揺すった。家も知られているし、お父さんが来るのは当然かと思ったが、広瀬はお父さんの迫力に怖じ気づいた。

「早苗さんは、さっき来たけど帰りました」

「嘘つけ」

 広瀬が黙っていると、お父さんは部屋の中にどかどかと入ってきた。少し見渡すと全体が見えるくらいの小さな部屋なので、居ないことはすぐに判った。

「どこに隠した?」

「さっき帰ったから、もうすぐ家に着く頃だと思います」

 そう言うと、お父さんは急いで出て行った。

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21へつづく