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 朝、学校のカフェには関洋一、井上勇二に、小泉絵美、芝田美幸が既に座っていた。そこに遅れて、広瀬が入って来た。

「おはよ〜」

 小泉絵美が元気に挨拶を返してくれた。

「今日も、早苗さん来てないぞ」

 関洋一がそう言うと、広瀬の表情が曇った。

「昨日、早苗に会いに行ってきた」

「うん、それで、どうだった?」

 4人は心配そうに、広瀬の顔を見ていた。

「それが、学校辞めたいらしくて」

「学校辞めたい!」

「何かあったのか?」

 4人とも驚きの表情を隠せなかった。

「それが僕にもよく分からなくって。それ以上聞いても何も答えてくれなかったから」

「早苗さん、最近様子おかしかったからね。私たちに言えない、何かがあったのよ」

「何があったんやろう?」

「何があったかは直接聞いてみないと判らないね」

「明日、学校休みなので、食事に誘って聞いてみるよ」

「うん。それがいい」

 芝田美幸がそう言うと、みんなの表情も明るくなった。

 

 広瀬は昼頃、自宅のベットで目を覚ました。休日とあって、昼まで寝ていた。目を覚まして、顔を洗っていると、お腹が鳴った。時計を見ると12時を過ぎていた。

「後で、早苗さんを誘って、食事に行こ」

 そう思いながら、歯を磨いた。

 広瀬はベットの端に座ると、携帯で早苗に電話を掛けた。暫くすると元気のない早苗の声が聞こえてきた。

「どう、元気になった?」

「うん」

 そう言いながらも元気のない返事が返ってきた。

「今から食事に行かない。この前行って、早苗さんが良かったって言ってたミモザで」

 広瀬は早苗を喜ばせようとして言った。

「う、うん」

 早苗は何とも曖昧な返事をした。

「大丈夫?」

「・・・判った」

 早苗は広瀬に、なかなか別れることを切り出せないので、食事に行ったときに切り出そうと思った。

「じゃー、家まで来てくれる」

「うん」

 学校も広瀬の住んでいるアパートも早苗の家も三宮にあるが、広瀬の家の方がミモザに近いので、早苗に来て貰うことにした。

 

 広瀬は早苗を待っている間、ベットに横になりテレビを見ていた。

「早苗さんは、この前ミモザの料理美味しいって言ってくれてたし、喜んでくれるかな。また前のように明るさを取り戻してくれるかな」

 広瀬は早苗とは裏腹の事を考えていたが、早苗の気持ちには全く気づいてなかった。それどころか広瀬は少し心配はあったけど、前行ったとき美味しいって言ってたから、そんなに心配はしてなかった。

 1時間くらい待っていると、早苗はやって来た。20分くらいの距離なのに、1時間もかかっていたのは支度に時間がかかったのか、来ることを躊躇ったのか、広瀬は少し引っかかったが気にしないふりをした。

 2人は手を繋いで店まで歩いたが、早苗は別れる事ばかりを考え、広瀬は喜ばせる事ばかりを考え、2人の心に隔たりがあったので、楽しい会話があるはずもない。楽しませようとする広瀬にとって2人の間に気持ちの隔たりがある事は苦痛だった。

 店は旧居留地なので、異人館に近い広瀬の家からは20分くらいかかる。夏になるに従い、日差しもキツくなってきて、周りはカッと明るくなっていた。外の明るさに反比例して、早苗は相変わらず暗い。

 別れることを切り出したいが、いつ切り出していいのかなかなかいいタイミングが見つからなかった。でも本当は好きなのだから、別れることは苦痛なのだ。なぜ別れないと行けないのか、なぜ父の言うことを聞かないと行けないのか、考えると腹が立ってくる。自分も全てのことを忘れて、明るくなりたかったが、昔のように、何もかも忘れてデートを楽しむ事は出来なかった。

 2人の間には沈黙がずっと流れていて、広瀬は早苗の暗い表情を見ていると、話しかけるのを躊躇った。そうして、あまり話しもしない内に店に着いた。

 

 店は相変わらずの反響ぶりだ。着いたとき昼の2時なのに、休日ともなればウエイティングが出ていたので、暫く待たされてから、席に着いた。

 2人の間には相変わらず沈黙が続き、広瀬は楽しく話しかけるタイミング、早苗は別れを切り出すタイミングを計っていた。お互い違う事を考えている2人の仲に会話が成立するはずもなかった。広瀬は何とか早苗を楽しませようとしているのに、別れを切り出そうとしている早苗の表情は暗いままだった。

 暗い表情で食べていても何を食べているのか判らない。前来たとき、美味しく感じたものも、美味しく感じなかった。パンを囓りながら、スープを飲み、確かに美味しいけど、何か感動がない。前のような楽しい気持ちが湧いてこないのだ。

 その後も、淡々と静かに食事をし、周りでは楽しそうに会話が弾んでいるのに、広瀬と早苗との間には会話がない。周りから見ると、別れ間際のカップルに見えた。そして、ほとんど喋ることもなく淡々と食事を終えた。

 

 店を出ると2人は、また静かに歩き出した。

「私、ここで帰る」

 駅まで近づいた所で、早苗は別れた。沈黙状態で歩いているのが苦痛になってきたので、途中で別れた。今日、別れを切り出そうと思っていたのに、切り出せなかった事に、自分を卑下した。

 もう少し歩いてから別れてもいいはずなので、広瀬は引き留めようと思ったが、引き留めるまもなく、早苗はさっさと帰っていった。1人残された広瀬は寂しく感じたが、そのままアパートにトボトボと帰った。

 ふられたような気分になった広瀬は、暗い表情でアパートに向かった。広瀬が1人でトボトボ歩いていると急に雨が降り出してきた。そして早苗が傘を持ってないことが気になると、広瀬は慌ててアパートに傘を取りに帰った。

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9へつづく