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   6

 

 家に帰ってきたのが夜の8時だった。玄関を開けると、母が出迎えに来てくれた。

「今日は、お父さんまだ帰ってないから。ゆっくり夕食食べれるよ」

「あー、ごめん。夕食食べてきたから、今日はいい」

「あら、飲んできたの?」

 酒の匂いをぷんぷんさせている早苗を見て母が言った。

「うん」

 俯き加減に答え、母に夕食食べてくる事を伝えなかった事に、申し訳なく思った。

「でも食事いいときは電話でもしてね。無駄になるから」

「ごめんない。今度はちゃんとする」

 そう言いながら母に笑顔を向けると、母も笑顔を向けた。

「お風呂なら沸いてるから」

「うん、ありがとう」

 そう言うと階段を上がり、部屋に入った。

 その後、酔いを晴らすために風呂に入った。温かい風呂に入ると血液循環がよくなり気持ちよくなってきて、楽しかった事を思い出した。手を繋いで帰ったときの温もりを今も憶えている。それを思い出すだけでも笑顔になれた。

 

 早苗が風呂から上がり、リビングでテレビを見ていると父が帰って来た。もう少し遅くに帰ってくると思っていたのに、父は早く帰ってきたから、焦ったが、このまま部屋に移動すると嫌っているようで、また文句言われると思ったので、その場に暫く居る事にした。

 父が食事をしていると、早苗は緊張していたが、気にも留めてないふりをしてテレビを見ていた。

「もう別れたのか、あの男とは?」

 父は話しかけてきたので、早苗は緊張した。

「まだ別れてない」

「明日にでも別れてこい。もし自分で言えんのやったら、お父さんが言ってやるからな」

「いいよ!」

 早苗は父の発言に驚き、また喧嘩にならないうちに、すぐに部屋に行った。でも父なら、広瀬の所に行くかもしれないと思ったので、不安が残り、追い込まれたような気分になった。

 

 部屋に入ると、そのまま布団の中に潜り込んだ。

「なんで別れないと行けないのよ」

 でも父の性格を考えると、どうしたらいいのか悩んでしまう。

「私は広瀬君の事が好きなのよ。何で別れないと行けないの。別れないから」

 悩んで悩んで、苦しくなり、涙が出てきた。

「もう父にうるさく言われるのも苦しい。私はどうすればいいの?もう死にたい」

「広瀬君に別れようなんて言えないよ」

 色々考えると苦しくなって来た。

 

 早苗は広瀬を忘れる為に、世界一周の豪華客船に1人で乗っていた。綺麗な船、綺麗な服装、大勢の客、大勢の乗組員、色々な施設がある豪華客船だ。

「広瀬君とは、もうこれで会えないし、会っては行けないのよ。私は広瀬君を忘れる為に旅に出るの」

 そう言いながら出発間近のデッキの上から、大勢の見送りの人を眺めていた。周りの人は大勢の見送りの人がいて、楽しそうにしているのに、早苗には誰も見送りに来てくれる人がいなく、1人でポツンとしていて、周りの楽しそうな表情を見ていると寂しくなってきた。みんなは楽しみの為に豪華客船に乗っているのに、早苗は苦しさから逃れる為に豪華客船に乗ったのだ。

 そのとき大きな銅鑼(ドラ)の音が響き渡った。その音と共に、豪華客船は動き出し、陸から離れた。その銅鑼が鳴った瞬間、早苗の心の中は、いたたまれないくらいの寂しさに包まれた。

「これで広瀬君とは2度と会えない」

 そう思いながら、胸の奥が張り裂けんばかりになり、ボーっと離れゆく埠頭を見ていると、広瀬が人混みの中を走って船を追っかけている姿が目に飛び込んできたので、急に嬉しくなった。小さく見える人の中に広瀬の姿をハッキリ確認する事が出来、涙が出てきた。

「広瀬君」

 早苗は埠頭に向かって大声で叫んでいた。涙を流しながら、

「やっぱり、私には忘れる事なんか出来ない。広瀬君に会いたい。抱きしめて欲しい」

 しかし無情にも、船は埠頭を離れ、広瀬はどんどん小さくなっていき見えなくなった。早苗は悲しくて、ずっと陸を見ていたが、見えるはずもない。そして胸の奥は寂しさで、どんどん苦しくなってきた。

「やっぱり帰りたい。広瀬君に、また会いたい」

 そう思い、涙を拭きながら、船の方に振り向いた瞬間、広瀬が立っていた。

「あ!なんで」

 早苗は振り返った所に広瀬が立っていたので、息が止まるくらいの驚きを感じた。

「僕の胸に、飛び込んでおいで」

 広瀬は優しい笑顔で、早苗にほほえみかけていた。

「うん」

 明るく、そう答えると、広瀬の胸に思いっきり飛び込んだ。早苗は本当に嬉しかった。

「やっぱり広瀬君とは離れる事が出来ないんだわ」

 そのとき目が覚め、夢だと気づいたが、目は涙で溢れ、幸せな気持ちに包まれていた。

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7へつづく