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 今日は父が、たまたま早く帰ってきたので、父、母、早苗はテーブルを囲って夕食を食べていた。今日は天ぷらと刺身とみそ汁で美味しかったが、3人の間には沈黙と嫌なムードが流れていて楽しくない。

 早苗はエビの天ぷらを口に入れると、音がしないように静かに噛んだ。母と2人きりの時の食事は楽しく話も弾むが、父が居るときの食事は、いつも暗くて楽しくなかった。

「男とはもう別れてきたのか?」

 沈黙を破るように父はしゃべり出した。また父の説教が始まると思うと、食事も喉に通らず、美味しくない。早苗は楽しくない会話をしたくなかったので無視をした。

「お父さんの話を無視するのか!」

 父は無視された事に怒っていた。父が怒るから娘も心を閉ざすの悪循環だった。しかしこの悪循環を断ち切る事はそう簡単ではなかった。

「お父さんの話を無視するなら食べるな。誰が稼いできて、食事が出来ると思っとんや」

 そう言うと父の怒りは爆発し、娘の料理を腕でひっくり返したかた思うと、食器ごと床に落ちた。皿は割れ、料理は床の上に散乱し、むざんな料理を見た早苗は悲しい気持ちになってきた。どうして父は、こういう事が出来るのか、早苗には理解出来なかったからだ。

「おとうさん、ちょっとやりすぎよ」

 母が止めに入ったけど、父の怒りは収まらなかった。娘は泣きだすと、階段を走り、2階の自分の部屋に閉じこもった。

「おとうさん、そこまで怒らなくっても」

 母は息を荒げに説得すると、父も少し気持ちを落ち着けた。その後、母は散らかった天ぷらと刺身を拾っていると、何か悲しい気持ちになってきた。楽しいはずの食事の時間が、一瞬のうちに修羅場と化した。

 

 早苗は床に膝を置き、ベットに顔を伏せて泣いていた。涙は溢れんばかりに出てきて、父への悔しさがこみ上げてくる。

「どうしてああいう性格なの?」

 広瀬と楽しく過ごしても、一瞬で楽しさが吹っ飛ぶ。それを繰り返していると、暗くなってくきて、生きているのも嫌になってくる。

「どうして、あの父の下に生まれてきたの?」

 変える事の出来ない運命を呪わずにはいれなかった。自分ではどうする事も出来ない悔しさがこみ上げてくる。父に性格を変えろと言っても無理な事だと判っている。今まであの性格を何十年と続けてきたわけだし、あの性格も板に付いてきている。ちょっとやそっとで変わるものではない。自分自身、依存心の強い性格を変えようとして変えれない事を痛感しているのだ。父の下に生まれた事に、腹立たしさと、悔しさで涙が止まらなかった。

 1時間くらいしたとき、父への悔しい気持ちを抑える事は出来ないが、ある程度泣き、気持ちが収まった。そのとき部屋のドアをノックして、母の声が聞こえた。しかし早苗は涙で濡れた顔を上げるのを躊躇った(ためらった)。暫くすると部屋のドアが開き、

「食事、ここに置いておくから。さっきのは床に落ちて食べれないので、何とかあり合わせでつくったから」

 その言葉を早苗は顔を上げず、耳で聞いていた。

「お父さんも、ちょっと言い過ぎなのよね。後で言っておくから、冷めないうちに食べて」

 母が言って、父が直るとは思わないが、母の優しい言葉には、いつもホッさせられる。母は料理のお盆を早苗の部屋の床に置くと、ドアを閉め、階段を下りた。

 早苗は顔を上げない事で母に対して悪い気持ちはあったが、娘の気持ちを察して無理強いしない母の優しさに泣けてきて、悔しい気持ちも次第に収まっていった。

「どうしてお母さんは、あんなに優しいの」

 そう思うと、救われた気持ちになれた。

 顔を上げて、涙を拭くと、母が作ってくれたチャーハンと、みそ汁がお盆の上に置いてあった。その優しさを思うと、また涙が出てきた。

「お母さん、ありがとう」

 そう言いながら、涙を拭いて、お盆を自分の前まで持ってきて、スプーンでチャーハンを食べた。

「美味しい。母の料理はいつも美味しい。愛情がこもっているんだわ」

「本当にお母さんの下に生まれて来てよかった」

 そう思うと、また涙が溢れてきた。悔しい涙と、優しさに包まれた涙と2種類の涙を一瞬のうちに味わった。

「私も、結婚して、子供が出来たら、お母さんのようになりたい」

 そう思うと、また涙が溢れてきた。チャーハンをパクパク口に入れながら、うれし涙も一緒に口に入り、チャーハンはしょっぱく感じた。

 

 早苗は美味しそうにチャーハンを平らげたとき、携帯の着信音が鳴った。広瀬からのメールが届いたのだ。

「今日、暗い顔していて心配だったのでメールしてみたけど、大丈夫?」

 早苗はそのメールを読んだとき、暗い表情をしていた事がばれている事に気づき、そして心配してくれていた事に感謝した。

「私は、いつも広瀬君にも、お母さんにも守られているんだ」

 そう思うと、力強い気持ちが湧いてきた。さっき泣いて暗くなっていた気持ちが嘘のように、晴れ渡ってきた。

「心配掛けてごめんね。明日は、明るい表情の私を見て」

 そう入力して、送信した。送信した後、何か心温まるような気持ちがいつまでも続いた。

「私も、こんなことにめげては行けない。また明日から頑張ろう」

 さっきまでの暗い気持ちは晴れ、明るい気持ちになれたのだ。

 

 風呂に入り、顔を鏡に映すと目は腫れていた。しかし気持ちは明るかった。

「私も、もっと強くならなきゃ」

 そう自分に励ますと、笑顔がこぼれた。そして30分ほど湯船に浸かって、広瀬との楽しかった思い出を思い出していた。

 パジャマに着替えて、ベットに入り、天井を見ながら、明日笑顔で広瀬と会っている自分を想像すると、また笑顔がこぼれた。

「明日は、絶対に元気に過ごすぞ」

 そう言うと、すぐに眠りにつき、安らかな表情を浮かべていた。

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5へつづく