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 広瀬と早苗が通っている学校は三宮駅の山手で、広瀬が住んでいるのも学校の近く。広瀬の家を西に行けば早苗の家があり、歩いて20分くらいの距離だ。電車で行く事も出来るが、早苗の家から一旦南に下りて電車に乗り、また三宮駅で降り、広瀬の家に向かって北へ上がるよりは、まっすぐ歩いた方が速い。

 授業が始まる前に、いつも6人で学校にあるカフェに集まって話しをしている。いつも集まるのは関洋一、井上勇二に、小泉絵美、芝田美幸、そして広瀬と、早苗だ。広瀬以外は、全員関西の出身だった。

「おはよ〜」

 広瀬がカフェに入ると、関洋一、井上勇二に、小泉絵美、芝田美幸が座ってコーヒーを飲んでいた。

「あれ、早苗さんはまだ来てないの?」

 広瀬は周りをきょろきょろして言った。

「今日はまだ来てないみたい」

 小泉絵美は言った。

「昨日、何かあったの?」

 芝田美幸がすぐに言った。

「どうして?」

 広瀬は不思議そうに聞いた。

「いつもなら、もう来ているのに、今日は遅いから」

「いや、別に何もないけど」

「たまたま遅れているだけやで」

 関洋一が口を挟んだ。

「そうね。そんなに心配することじゃないね」

 芝田美幸は笑った。

「あっ、こっちこっち」

 井上勇二が早苗を見かけたので呼んだ。

「ほんと心配するほどの事じゃなかった」

 早苗はブルーのノースリーブに白のふんわりしたスカートを穿いていて、コーヒーを持って、広瀬の前を通り過ぎるとき、広瀬は視線を送ったが、それを無視して、小泉絵美の隣に座った。それを見た5人は少しビックリした表情を浮かべた。普段ならみんなの視線を気にして恥ずかしそうに広瀬の隣に座るのに、それがなかったからだ。暫く、シーンとした空気が流れた。

「あ、おはよ〜」

 小泉絵美は、この空気を変える為に声を掛けると、早苗も挨拶をした。広瀬も少し驚いた表情を浮かべ、昨日嫌われる事をしたかなっと記憶を呼び戻したが、家の前で笑顔で別れたはずだった事を思い出した。

 授業のチャイムの音で一斉に立ち上がり教室に向かったが、早苗は広瀬と顔を合わせるのを躊躇(ちゅうちょ)するように、距離を置いて歩いた。それに対して、広瀬は何だか不安になってきた。結局、教室に戻るまで話しをする事もなければ、目を合わせる事もなかった。

 

 教室に入ると広瀬,関洋一,井上勇二は隣通しに座った。少し離れたところに早苗,小泉絵美、芝田美幸が座った。

 隣に座った関洋一が広瀬に話しかけた。

「早苗さんの様子、何かおかしくなかったか?喧嘩でもしたんか?」

「喧嘩なんかしてないよ。昨日、家まで送ったし、笑顔で別れたし」

「ほんまか?」

 井上勇二は怪しそうな目で広瀬を見た。

「ほんまやで」

 広瀬も関西弁で弁解するように答え、少し不機嫌になった。でも早苗の行動は何か気になり、授業は上の空で、早苗の事ばかりを考えていた。

 広瀬は早苗を一瞥すると、早苗は授業を聞きながらノートをとっていた。別に変わった様子はない普段通りだ。広瀬は勇気を出して早苗にメールを送る事にした。

「何かあった?」

 そう入力すると、送信した。

 暫くすると早苗の携帯に着信音が流れた。それに気づいた小泉絵美が言った。

「誰から?」

 早苗がメールと開くと広瀬の名前が表示された。

「あ、広瀬君からだ!」

「何て書いてあるの?」

 小泉絵美と芝田美幸は嬉しそうに、早苗の携帯に顔を近づけた。それに対して、早苗は少し鬱陶しく感じた。

「何かあった?」

 芝田美幸が読み上げた。

「あ、そう。そう言えば、早苗、何か態度おかしかったよ。今日は広瀬君の事、一回も見てないし」

「そんな事無いよ。いつもと変わりないよ」

「え、そうかな?」

 芝田美幸は笑顔で早苗の顔を覗き込むと、早苗は少し戸惑ったが、広瀬に返事を書いた。

「何もないよ。さっきはごめんね。挨拶もせずに」

 着信音で広瀬はメールを開いた。それを聞いた、関洋一と井上勇二は、女の子と同じように広瀬の携帯に顔を近づけた。広瀬も少し鬱陶しそうな顔をした。

「何もないよ。さっきはごめんね。挨拶もせずに」

 井上勇二は読み上げた。

「シー。声が大きいよ」

 井上勇二が周りに聞こえる声で言ったので、広瀬は少し顔を赤らめた。

「何?誰から?」

「何もない。何も」

 関洋一の質問に、不機嫌そうに答えると、携帯を閉じて、鞄に仕舞った。そして2人を無視して、授業を真面目に聞いて、ノートをとった。

 

 授業を終えると広瀬と早苗は、今朝の事は何もなかったかのように、2人寄り添って帰って行った。

「羨ましいな」

 関洋一が言うと、残された4人は仲良さそうな広瀬と早苗の姿を暫く見ていた。

 学校の近くにあるカフェで2人はジュースを飲んだ。ストローでジンジャーエールを吸った後、広瀬は沈黙を破った。

「今日、何か様子おかしくなかった?」

「何が?」

 早苗は明るく答えた。

「ほら、朝会ったとき何か僕の事避けてたような」

「そんな事無いよ。気のせいだよ」

 早苗は沈んだ心を隠す為に、明るく笑顔で答えた。

「そうかな」

 広瀬がボソリと言うと、またジンジャーエールを飲んだ。早苗の笑顔にも作ったような感じがしたので、何かモヤモヤする不安は拭いきれなかった。

 広瀬が下を向いてジュースを飲んでいるとき、早苗は暗い表情を浮かべていた。昨日、怒られた父の言葉、父の表情が脳裏をかすめた。

「男と付き合うなんてもってのほかだ」

 と怒った父の言葉を思い出し、広瀬とこうして一緒にいると何か悪い事をしているように思えて来て、暗い気持ちになった。男の人と楽しくデートをしている事に罪悪感を感じ、楽しめることも出来ない。

「今日は、これから何処行く?」

 広瀬は切り出した。

「今日は、やめとく」

 その答えに、広瀬はストローから口を離して、早苗の顔を見た。早苗は慌てて、暗い表情から笑顔を作った。その暗い表情を広瀬は見過ごさなかった。広瀬は「何か嫌がられているのかな?嫌われているのかな?」と考えるようになった。そう思うと、広瀬の心にも雲が立ちこめてきて楽しくない。

「今日は、帰ろうか」

 広瀬も遊びに行く気持ちは消え、そう呟いていた。

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4へつづく