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服を買って、カラオケに行き、居酒屋で夕食を食べ、広瀬が早苗を家の前まで送ったときは夜の10時になっていた。
「結構大きな家だね」
「そんな事無いよ。家のお父さんは会社経営しているから、少しは収入あるだけ。でも今日はありがとう。楽しかった」
早苗は家の前で笑顔で答えた。
「僕も楽しかったよ。じゃー、遅いので、また明日学校で」
広瀬がそう言うと、早苗は笑顔を返した。手を振って、帰っていく広瀬の後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。嬉しそうに服の入った紙袋を持ち、広瀬との楽しかったデートを思い出しながら、家の玄関を開けた。
玄関で靴を脱ぎ、自分の部屋に入るために2階へ行こうとすると、慌てて母が近づいてきた。
「お父さんが呼んでるわよ」
母は緊張した面持ちで早苗に言った。その表情から早苗は父が怒っていた事は察しが付き、「またか!」と思った。今までの楽しかった思いが急に冷めると、緊張しながら、静かに父のいるリビングまで行った。
玄関の前が2階へ上がる階段になっていて、玄関の左側がリビング、ダイニング、キッチンと繋がっている。20畳のリビングには大型テレビがあり、ソファーが2対、ガラスのテーブルを挟んでおいてある。その奥がダイニング、その更に奥がキッチンとなっていて、リビングからキッチンまでは1つの繋がった広い部屋になっている。
リビングに行くと父はソファーに座っていて、早苗が思った通り、父は怒っていた。
「そこに座りなさい」
そう言われて、早苗は父の向かいのソファーに静かに腰を下ろし、いつもの事なので早苗も怒りの表情を浮かべ、さっきまで楽しかった気持ちが一気に吹き飛ばされた事に苛立ちを感じていた。
「今、何時だと思っとんや!」
「まだ10時よ」
早苗は反抗的な口調で言った。
「まだ10時だと。若い娘が、こんな時間まで。何かあったらどうするんや!」
「若い娘って私もうすぐ二十歳よ」
「お前は、まだ判らんけど、外には狼がうじょうじょおるんやぞ」
その言葉に早苗は大袈裟(おおげさ)な言い方をするなと思いながら、黙ってしまった。
「お前は、まだ若いから男の怖さを知らんのや」
父のその言葉に早苗はふて腐れた表情を浮かべていた。
「こんな時間まで何しとったんや?」
「友達と遊びに行ってただけよ」
「遊びに行ってただと」
「学生は勉強するのが本業やぞ。それをこんな時間まで遊び回って何しとんや!」
「でもみんなこんな感じよ」
「うるさい。お前は卒業すると、うちの会社に入って頑張って貰わないと行けないんや。遊びほうけている場合ではないぞ。そして結婚した後は、旦那に会社を継いで貰わないと行けないんや」
一方的に威厳を押しつける父に娘は反抗しないはずもなかった。段々反骨精神が芽生えてくるが、でも今は父には勝てないので我慢するしかなかった。
「遊んでいたって言うけど、一体誰と遊んどったんや」
その言葉に早苗はふて腐れて答える気にもならなかった。
「誰だって言うとんや!」
父は怒り出した。
「まさか男じゃないやろな」
その言葉にも早苗は何も答えなかった。
「男なのか!」
父は大きな声で叫んだ。
「お前は一人娘なんやから、結婚した後は旦那に会社を継いで貰わんとあかんのや。その為にも、お父さんが選んだ人以外と結婚する事は許さんからな。男と付き合うなんてもってのほかや!」
更に父の怒りは激しくなった。早苗の心には、さっきまでの楽しかった気持ちは微塵(みじん)も残って無く、悲しい気持ちが心の全体をしめた。父に反抗しているとはいい、一瞬で暗い気持ちになってしまったのだ。
早苗の部屋は2階にあり、6畳の部屋に、ベット、勉強机、本棚が置いてある。ベットと机の間に少しスペースがあるくらいで、そんなに広くはない。
部屋に戻るとベットの横で体育座りして、泣いていて、威厳を振りまく父を恨んだ。
「どうして私は、あんな父の下に生まれたの?」
「こんな父の下じゃ、一生幸せになれない。明日、広瀬君にどんな顔で会ったらいいの?笑顔なんか見せれない。そしたら嫌われる」
どんどんマイナスの方向に考えてしまう。外では明るく振る舞っても、家でこれだけ怒られると暗くなってしまい、家と外では性格が違うので分裂気味になっていく。だからと言って外で暗くしているのも嫌なので無理に明るくする。でも本当の明るさではない、所詮は無理しているのだ。
広瀬と楽しく過ごして、楽しい気持ちになっても、父を見ると一気に暗い気持ちにさせられ、自分は幸せになっては行けないと感じるようになる。色々悩んでいると暗くなり、涙が出てきた。父と一緒にいる間は、この呪縛から逃れる事は出来ないし、かといって家を出る勇気もない。会社を継ぐ事は子供の頃から何度も言われている事で、父の会社を継ぐのを諦める事など出来ない事だ。会社を継ぐのを諦めるという事は、父と縁を切るという事で、父と縁を切るという事は、この世から追放されるような気持ちになり、何処にも行くところがない。だからいつまでも父のいいなりになる事になる。
「明日、広瀬君とどういう顔で会ったらいいのか判らない」
ぼそりと呟き、悩んでいると、そのまま眠ってしまった。
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3へつづく |
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