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2人は水の入ったグラスで乾杯をした。広瀬幸夫が笑顔を浮かべると、三浦早苗も笑顔を浮かべて、そしてグラスの水を一気に飲んだ。広瀬はテーブルに置かれている水の入った瓶で自分のグラスに水を継ぎ足し、早苗のグラスにも水を継ぎ足した。
早苗は広瀬を一瞥し、笑顔を浮かべると、広瀬はその笑顔に答えるように、笑顔を向け恥ずかしそうに俯き、テーブルの上のパンを囓った。それに合わせて早苗もパンを囓った。パンはバイキング形式で食べ放題になっていて、さっき取ってきたパンが皿の上に載っていた。スライスされたパンや、小さくて丸いパンが、5,6個皿の上に載っている。
「これ美味しい」
早苗は笑顔でパンを囓った。緑色した抹茶のパンに、甘い小豆が埋まっていた。広瀬はもちもちした丸いパンを囓っていた。
2人で美味しそうにパンを囓っていると、ウエイトレスがスープを運んできた。今日のスープはミネストローネのスープで、トマト味の中に、マカロニが浮いていた。それをスプーンですくいながら飲んだ。早苗はバケットをスープに浸して柔らかくなった所で、広瀬に笑顔を向けながら口に入れた。
「美味しい」
「ほんと、僕もやって見よ」
広瀬もバケットをスープに浸して口に入れると、笑顔になった後、少し恥ずかしそうに回りをキョロキョロ見た。
2人が入ったイタリアのレストラン「ミモザ」は地下にあり、店内はヨーロッパの田舎のような造りになっている。店は三宮の旧居留地にあり、明治時代に建てられたレンガ造りのビルの中にあった。曲がった太い木の梁が露出し、木で作られたテーブルが並べられている。少し薄暗くした店内に、オレンジ色の光が、いい雰囲気を醸し出していた。100人座れるランチタイムの店内は、女の子で一杯になっていて、平日のランチタイムだけでも200−300人の来客数がある人気店で、姉妹店が他に2店ある。ランチタイムは午後4時までで、2人は学校を終え3時に店に入ったのに満席だった。
「この店、いい雰囲気ね」
「本に載っていて、良さそうだったから、早苗さんと来たいと思って」
「へー、料理も美味しいし、今までこんな店があるのは知らなかった」
「ディナーは、また違う料理が出るから、今度は夜来よう」
「そうね。夜もいいね」
「早苗さんは、こんな店あまり来ないの?」
「家は父が厳格で、私にはあまり興味がないみたいで、最近外で食事する事がほどんどないの」
「へー!でも僕も家族とそんなに外で食事しないけど」
そう言うと2人は笑った。
「お父さん厳格って、厳しいの?」
「勉強しろとか、いろいろうるさくって」
「へー。うちも同じだけどね」
「でも、今は独り暮らしでしょ?親と離れて、羨ましい」
「でも僕は、親と一緒に暮らす方が羨ましいけどね。食事も洗濯もしてくれるし」
「そうね。そういうのはありがたいけどね」
そう言うと早苗は笑った。しかし早苗が独り暮らしをしたかったのには理由があった。
2人が楽しそうに話をしていると、メイン料理が来る前にぺろりとパンを平らげてしまったので、皿を持つと、2人は店の中央に置かれているパンを、また取りに行った。そこには15種類のパンが山のように積まれていて、どれもおいしそうだ。色々迷いながらも、また5つのパンを取った。
「私、こんなに取ったけど、メインディッシュ食べれるかな?」
早苗はそう言うと笑った。
「大丈夫。もし食べれなかったら、僕が食べてあげるよ」
広瀬も笑った。
2人のデートは、これで3回目で、今は一緒にいるだけで楽しい。お互い2年生で、大学の教室で知り合い、ゴールデンウイークも過ぎ、夏を迎えようとしているこの時期、広瀬はTシャツ1枚で、早苗はピンクのノースリーブを着ていた。
男の名前は広瀬幸夫で、優しくて、いつも早苗の事を大切に思っている。金沢から来て、独り暮らしをしていて、身長は170cmで、細身だ。
女の名前は三浦早苗で、優しくて素直。今の子には珍しく我が儘を言わず、チョッとした事で喜び、いつも笑顔で、感謝の言葉を忘れないタイプだ。父が厳しいから、チョッとした事に感謝するようになった。早苗は生まれたときから神戸に住んでいて、身長は158cmで、少しぽっちゃりタイプで、セミロングのサラサラヘヤーをしている。早苗の体からは優しさがにじみ出ていて、それを広瀬は好きになった。
三浦早苗の父の名前は三浦哲夫。「三浦商事」と言う会社を経営していて、資産家だ。父の性格は昔人間で、威厳を振りまいているため、家族からは鬱陶しがられる事がしばしばある。
母の名前は、三浦知美。父とはうって変わって優しく、父が娘に厳しい分、母は凄く優しい。 家は花隈(はなくま)で、JR元町駅と神戸駅の真ん中辺りにある。
神戸高速鉄道の花隈の駅前には花隈城の石垣が残っている。織田信長が中国地方へ勢力を伸ばすときの足がかりとして築いたのが花隈城。昔は本丸、二の丸、三の丸があり広い城だったが、今は小さな公園になっている。
そこを北に10分くらい行き、山手幹線を少し越えたところに早苗の家はある。三宮の繁華街からも少し離れているので、辺りは静かで、落ち着いていて、眺めもいい。
運ばれてきたトマトのパスタを2人はホークとスプーンを使い、スパゲティーを絡ませながら食べた。上に載っているバジルの葉が清涼感を与え、濃厚なとろけたチーズが美味しい。ときどきカリカリのベーコンが口に入り、肉の旨みと、香ばしさが鼻を抜け、完熟したイタリアントマトの甘みが舌をついた。麺はアルデンテに茹でられていて、丁度いい食感だ。
「美味しい」
広瀬は言った。
「でもこれで1200円は安いね」
「ほんとパンも結構食べてるし」
パスタを食べ終わった後も、またもぐもぐ言わせながらパンを食べた。中にレーズンやオレンジ、イチゴの実が入っている物や、クルミ、梅、ゴマが入っている物もある。紅芋の赤、カボチャの黄色、ヨモギの緑色に色付いているパンもある。
「チョコレートの入っているパンは甘くて美味しい。チョコがこんなにとろけてるよ」
「ベーコンが中に入っているのも美味しいよ」
「朝食べてないせいか、結局パン全部食べれた」
「ほんと少し食べ過ぎたかな」
2人はホットコーヒーをすすりながら嬉しそうに話をしていた。
「私ここの店、気にいった。友達にも教えよ」
「そんなに気に入ってくれると嬉しいよ」
早苗は本当に幸せな気持ちになっていて、始終笑顔だった。
「この後、何処行く?」
「何処行こうか?」
「私、買いたい服あるから、ちょっと付き合ってくれない。その後、カラオケ行こ」
「うんわかった」
広瀬は笑顔で答えた。
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2へつづく |
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