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店内は全面ガラス張りで、中は広く、座席は固定で、背もたれがあるソファーは窓側に並べられていて、4〜6人が座れるようになっている。店内に入ると、窓側の席に案内された。
窓からは対岸のメリケンパークが見える。神戸港の向こうには、ホテルオークラ、神戸海洋博物館のモニュメント、ポートタワーがセットになって目に入った。目を少し右に移動すると、中突堤の先に山崎が宿泊する神戸メリケンパークオリエンタルホテルが見えた。しとしと降る雨は視界をぼやけさせた。
「よく降るね」
「今日は1日やまないみたい」
香代は本当は明るい性格なのに、山崎との別れと雨のせいで明るくなれなかった。
「あっ、出航するよ」
香代がそう言うと、目の前に停泊していたクルーズ船が動き出した。中突堤、ハーバーランドから出るクルーズ船は多数あるので、絶えず行き交っている。
「あれ何処まで行くんだろう?」
「明石海峡大橋の方じゃない?」
「あ、そうか」
「山崎君が泊まるホテルが見えるよ」
「ほんと。ここから見てもカッコいいね」
「私も、あのホテル泊まりたいと思っていたの。でも神戸に住んでいると泊まる機会がないけどね」
香代はマルガリータとコーヒー、山崎はペスカトーレとコーヒーを頼んだ。ウエイトレスが近づいてきたときから香ばしい香りと、トマトの臭いが漂っていた。イタリア製の窯で焼き上げ、イタリアの小麦を使っているので、イタリアで作ったのと同じ味が再現でき、薄くて、ぱりぱりの食感が味わえる。マルガリータは、生地がキャンバスのように、トマトの赤、チーズの白、バジルの緑の3色で綺麗なイタリアの国旗が、いくつも描かれていた。一番下にトマトソース、その上に少しずらしてチーズ、更にずらしてバジルが載せてあり、食べると、まんべんない味となるのだ。
「きれ〜い。こんなの初めて見た」
香代は目をまん丸にして感動した。
「ほんとう。生地がキャンパスのようで、芸術作品みたい」
山崎もビックリした目で見ていた。ペスカトーレの真ん中には手長エビがまるまる載せられていて、その周りには、イカ、アサリが散りばめてあり、その上にタップリ載せられたチーズは、とろけていた。濃厚なチーズは、濃いい黄色をしていた。
大きさは30cmもあるビックサイズで、そのひとつかみを手で持つと、チーズが伸びた。香代は、そのチーズをピザの先端に何度も絡ませ、チーズがこぼれないように生地を二つ折りにし、口に運んだ。口に入れた瞬間、濃厚なチーズの味が最初に来て、その次ぎにトマトソースの味がした。よく噛みしめ、噛めば噛むほどにチーズの濃厚な味がいつまでも口の中に広がる。そして食べ終わると最後に小麦の香ばしい香りが口の中に広がった。
「ここのピザは今まで食べた中で一番美味しい」
「私も同感」
山崎の言葉に香代は同感し、笑顔を見せ、また次の生地をつまんだ。香代はチーズがこぼれないように顔を横向き、口の中に入れたピザを、大きな目を見開いて見ていた。タップリの具と、タップリのチーズが載っていて、噛めば噛むほどに広がるチーズの味と、香ばしく香る小麦が最高だ。生地は美味しいパンを食べているようで、噛めば噛むほど味が染み出てくる。口の中に全部押し込むと、ふぐのように口を膨らませて、まん丸な目をキョロキョロさせながら、1つ1つの素材の味を、ゆっくり舌とアゴで味わっていた。
「おいしいー。ここのピザ最高」
そう言うと、またすぐに次のピザに手が行った。30cmのピザもあっという間になくなった。
店を出ると、2人は店の前のデッキに行った。ここからがメリケンパークが一番よく見えるけど、あいにくの雨だ。2人は真っ赤な傘を店の方に向けて、店のお客さんからは見えないようにして、静かにメリケンパークを眺めた。このとき山崎も寂しく感じていた。香代とも明日で終わりだし、神戸とも離れなければならない。神戸に来るまでは、こんなにも神戸を満喫できるとは思っても居なかったし、香代の事も好きになっていたから、離れることが名残惜しい。
「山崎君が泊まるホテル、あそこだよね」
香代は、神戸メリケンパークオリエンタルホテルを指さした。
「うん、そうだよ」
「逆に、あのホテルから見る、ハーバーランドも綺麗だよね」
「うん。綺麗と思うよ。特に夜はライトアップされたらもっと綺麗になると思う」
「私も一度でいいから、あそこのホテル泊まりたかったな」
香代は羨ましそうに、言った。2人は相合い傘のまま少し歩くと、モザイクのすぐ横に観覧車が見えた。そこは小さな遊園地になっているのだ。
「あの、観覧車に乗ろ」
「そうだな」
香代の嬉しそうな顔に、山崎は嬉しそうに答えた。
観覧車には並ばなくてもすぐに乗れた。高さ50mの観覧車の中からは、神戸港、メリケンパーク、ハーバーランドがよく見えた。
「すごい人が歩いているのが、ハッキリ見えるよ」
香代は目を輝かしながら、嬉しそうに言った。
「ほんと」
山崎も嬉しそうに言った。観覧車の中からはハーバーランドの店や人の歩いている姿が、すぐ目の前に見える。香代は楽しそうに、観覧車の中を歩き回っていた。その横では山崎は元気がなかった。
「山崎君、大丈夫?」
「僕、高所恐怖症だから」
「あっ、そうだったの?」
観覧車を降りると、ハーバーランド近くのカフェでお茶をした。店の名前は「ショコラ・フレンチ」で、ここはチョコレートのスイーツとシュークリームが美味しい。建物の2階からは車、人の歩く姿が見え、眺めはよかった。
出されたシュークリームのシューは直径15cmもあり、口を大きく開けても頬張ることは出来なかった。山崎が注文したシューの中にはたっぷりのカスタードクリーム、その上にはたっぷりの生クリームが詰め込まれ、その間にイチゴが埋め込まれていた。香代が注文したシューの中にはカスタードクリームの変わりにチョコレートクリームがタップリ入っていて、生クリームとイチゴも同じように入っていた。香代が大きい口を開けても、頬張ることが出来ない。山崎が大きな口を開けても同じ事だった。香代は頬張る事を諦め、囓り、2人は口にタップリのクリームを付けて食べた。香代は嬉しそうな笑顔を見せ、まん丸な目をキラキラと輝かせた。
「ほんとに美味しい」
山崎が珍しく、スイーツを誉めた。シュークリームなら子供の頃からよく食べているけど、ここのは大振りで生クリームが詰まっているので美味しかった。
「スーパーのとは全然違うね」
2人の飲んだカプチーノには、ほんのりフレーバーの香りがした。
「美味しかった」
香代は嬉しそうに言った。
2人は弁天埠頭を通り、中突堤を通り、メリケンパークまでぶらぶら歩いた。その間、雨が降っているせいか、人が誰もいない。2人も一言も言葉を発せず、うつむき加減で歩いていた。メリケンパークに着いたとき、公園のベンチに座りたかったが、ベンチは濡れていたので、岸壁に向かった。神戸港の波は穏やかで、静かだった。その波を雨は静かに叩いていた。山崎は香代の肩に手を掛け、真っ赤な傘を差して、2人は静かに岸壁にたたずんでいた。西を見れば、モザイクが見える。
静かな時間が流れ、山崎は香代の肩に手を掛けたまま、お互いに向かい合った。真っ赤な傘で顔が見えないようにして、お互いの唇を重ねた。静かなメリケンパークには誰も通る気配がない。ハーバーランドからはホテルなどの視界で見えない。真っ赤な傘の下からは隠れた2人の足だけが見ている。長いキスの後、2人は抱き合った。
2人は傘で顔を隠すようにして、神戸メリケンパークオリエンタルホテルの中に入っていった。昨日チェックインしてなかったので、事情を説明してツインに変更して貰い、部屋の鍵を貰うとエレベーターに向かった。
「え、私も泊まっていいの?」
「うん。変更して貰ったから大丈夫」
「うれし〜い」
そう言うと香代は目をキラキラさせながら、山崎と腕を組んだ。部屋の鍵を開けると、中は広かった。
「広い〜」
「この時期、普通のツインが空いて無くって、セミスイートになってしまった」
そして香代は目を輝かし、最初に向かったのは窓だ。カーテンを開けると、バルコニーがあり、神戸港が見え、モザイクと観覧車が見えた。
「夜になると、もっと綺麗になるんでしょうね」
感心しながら暫く見ていた。
「夜が楽しみね」
「ホテルの中、散策しようか?」
「うん」
香代は最後の日の夜を一緒に過ごせるとあって、嬉しそうだった。
ホテルの中には6カ所レストランがあり、おみやげ物屋を見て廻った後、ロビーのソファーでくつろいだ。
「あー、くつろげる」
「ちょっと歩き疲れたかな」
ふかふかのソファーに体を預けた。
「このまま静かにしていると寝てしまいそうな感じ」
「夕食までの間、ちょっと寝ようか?」
そう言うと2人は眠った。
30分が過ぎた頃、山崎が目を覚ました。時計を見ると5時を過ぎていた。
「そろそろ行こうか?今頃なら店空いているかも知れないし」
香代も目を覚ました。
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16へつづく |
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