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 次の日、香代は雨の音で目を覚ました。目をこすりながら起きようとすると、横に山崎が寝ているのでビックリした。昨日の事を思い出そうとすると、頭が痛くなってきた。

「あっ、昨日バーで酔ってしまったんだわ。その後、どうしたのかしら?」

 横にいる山崎を見て、考えた。

「もしかしたら、山崎君がここまで運んでくれたの?!」

 そう思うと申し訳ない気持ちになった。山崎を起こさないように、香代はゆっくり布団から出ると、自分は服を着たまま寝ていたことに気づいた。横に置いてあるコートを着て、白のニット帽、白のニットのマフラー、白のニットの手袋をつけた。

 玄関のドアを開けると、雨の音がハッキリ聞こえた。

「今日は山崎君と1日過ごせる最後の日なのに、こんな日に雨だなんてついてないな。しかも今日は大晦日」

 香代は真っ赤な傘を差し、家を出た。しとしと降る雨は涙雨のように感じた。香代の心の反映かも知れない。外は誰も通っていず静かで、雨がアスファルトを叩く音だけが虚しく響いた。悲しい気持ちと戦いながらも、香代は絶えず山崎の事を考えていた。

「ほんとうに山崎君と出会えて幸せだった。短い間だったけど幸せだった。明日でお別れだけど、山崎君には幸せになって欲しい。本当に幸せになって欲しい」

 そう考えながら歩いていると涙がこぼれてきた。

「ほんとうに明日でお別れなんだ」

 涙雨も手伝ってか、涙が止まらなくなった。

「ここで人に出会ったら恥ずかしい」

 傘で顔を見られないよう隠して歩いた。そしてスーパーの前に着いたとき、香代は立ち止まり涙を拭こうとしたが、涙が止まらない。拭いても拭いても、後から後から涙が出てくる。あまりの辛さで、地面にしゃがみこみ泣いてしまった。人に見られないように傘で体を覆った。小さい体の香代は傘にすっぽり入り、真っ赤な傘だけが道路に見えた。スーパーの前で10分くらい座り込み、泣くだけ泣くと気持ちは落ち着いた。

 スーパーに入ると、うどんとネギを買った。帰る間も、山崎の事が片時も頭から離れない。玄関の前で傘を畳み、涙を拭いて、暫く落ち着いた気持ちになってからドアを開けた。

 

 玄関のドアを開けると、山崎は布団から上半身を起こし、玄関の方を見た。

「何処行ってたの?」

「ちょっとスーパーに。昨日はごめんね。何か迷惑掛けたみたいで」

「大丈夫だよ」

 そう言うと、また眠った。

「今から、うどん作るから食べる?」

「うん、食べる」

「外、寒いから、温まると思うよ」

「ありがとう」

 そう言うと香代は、奥の部屋のキッチンでうどんを作り出したが、涙が流れてきた。それを山崎に気づかれないようにした。

「うどん出来たから起きて」

 そう言うと奥の部屋のおでんに作ったうどんを置いた。

「ずっと外食だったから、たまにはこう言うのもいいと思って」

「美味しそうだよ」

 透明なスープに卵と刻みネギが載っているシンプルなうどんだった。

「関西のうどんはスープは澄んでいてきれいだね」

「関東は黒色しているもんね」

「スープ美味しいよ」

 山崎は一口飲んで、言った。

「ほんと?!」

「麺も茹ですぎてなくって丁度いいよ」

「麺を茹でたのは30秒くらいかな」

「これだけ上手く作れたら、いいお嫁さんになれるよ」

「山崎君に、そう言われると嬉しいな」

「体がぽかぽかしてきた」

「ほんと私もぽかぽかしてきた」

「今日は雨だね」

「ほんと山崎君と最後の日なのに残念ね」

 そう言うと、うどんのスープを飲んだ。

「ここでジーとしているのも時間もったいないし、どっか行こ」

「昨日行けなかったハーバーランドに行かない?」

「そうだな。そう言えばホテルに鞄預けたのに、チェックインしてなかった」

「あっ!私のせいだ。昨日酔ってしまったから」

「それは気にしなくていいよ」

「でも結果的には一緒に過ごせたから私は良かったけど」

「僕も良かったよ」

 そう言うと2人は笑顔を取り戻した。

 

 うどんを食べ終わると、さっき香代が差していた真っ赤な傘に、2人で差して、出かけた。

「私、傘1つしか持って無くってご免」

「いいよ。2人で一緒に仲良く差していこ」

 そう言うと香代は嬉しそうに山崎に笑顔を見せた。2人は濡れないように、山崎は香代の肩を組み、真っ赤な傘の中に入った。香代は黙って、2人でくっついて歩いていることに幸せを感じた。いつものように北野坂を下り、真っ直ぐにJR三ノ宮駅に向かった。

「この道も2人でよく歩いたね」

 山崎のその言葉に、香代は涙が出そうになってきた。これからは北野坂を歩くたびに山崎君の事を思い出すと思うと悲しくなってきた。JR三ノ宮まで着くと、そこから電車で神戸駅まで行くことにした。

「雨だし、ハーバーランドまで、ちょっと遠いから電車で行こうか?」

「うん」

 そう言うと切符を買い、改札を潜った。神戸駅までは三ノ宮、元町、神戸と2駅だ。でも三ノ宮、神戸間は2.5kmほどなので店を見ながら歩いても、そんなに遠い距離でもない。

 

 ハーバーランドは1992年に旧国鉄湊川貨物駅跡地に作られ、ハーバーと言うだけあり海に面している。JR神戸駅を下りると2人は手を繋いでエスカレーターを下り、デュオ神戸浜の手の地下街を歩いた。その後、ハーバーランドセンタービルを歩き、キャナルガーデンを歩いた。デュオ神戸浜の手、ハーバーランドセンタービル、キャナルガーデンには百貨店、カフェ、レストラン、ショップといろいろな店があり、いろいろな店を見ながら通り過ぎた。

 キャナルガーデンを抜けると、モザイクを左手にハーバーロードを歩いた。その先には、明治時代に建てられた煉瓦の建物が残っていて、今はレストランにリフォームされている。午前中は人も少なく、空は薄暗く、雨に濡れた煉瓦の建物は、情緒を感じさせる。100年前にタイムスリップしたかのように感じられた。この辺りは夜はライトアップされ、また違った趣を見せる。雨の中、2人は相合い傘をして、静かに歩いた。

 煉瓦の建物を見ると、モザイクに戻った。モザイクは3階建てで、映画館、レストラン、カフェが建ち並んでいる。モザイクの1階に行くと、目の前に運河が流れていて、人通りは少なく、そこを2人で手を繋ぎ、静かに歩いた。水はゆっくり流れ、水面を叩く雨の音だけが耳に入った。2階に行くと多くのレストランがあり、時計を見ると、もう昼前になっていたので賑わっていた。2人は、どこに入ろうか迷ったあげく、ピザの店「フォルテシモ」に入った。

激安ドリンク、箱買い、まとめ買い(コーヒー、紅茶、炭酸、スポーツドリンク、ジュース、水、酢、栄養ドリンク)
 1缶50〜80円くらいの激安ドリンクを始め、安い商品が多数あります。破損時の返品代引き決算(着払い)もありますので、安心してご利用ください。休日、買い物に行く時間も省け、重い物を運ばなくても、家まで持ってきてくれるのも、嬉しいですよね。


15へつづく