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「レトロ・カンパニー」は、昔の倉庫を改造したカフェだ。この辺りは古い建物が多く、それを改造してカフェやショップにしている所が多く、おしゃれな店も多い。 「懐かしい、昭和の雰囲気がするね」
天井は高く、電気の配線やエアコンの配管はむき出しのままになっている。店内はおしゃれに改装され、おしゃれなテーブルや椅子が並べられている。
「ここ昔、会社か倉庫だったんじゃない?」
「そんな感じするね。でも昔のレトロ感を残
しながら、おしゃれに仕上げてるな」
「旧居留地は、また北野やセンター街とは全然違うね」
「結構古い、どっしりした建物が多いし、なんか昔の神戸を感じさせるな」
「神戸が開港したとき、外国人は異人館に住んでいたと思われているけど、最初はこの辺りに住んでいたらしいのよ」
「へー、そうなんだ。考えると開港したのが1868年。もう100年以上も経つんだね」
「そう考えると、歴史の重みを感じるね」
2人が楽しそうに話していると、オムライスのセットが運ばれて来た。オムライスにサラダ、コーヒーが付いている。オムライスはチキンライスを、ふわふわの半熟卵が覆い、その上にデミグラスソースがかけられていた。スプーンに一口分をすくい、口の中に入れると、優しい卵の感触が舌を刺激し、卵は溶けるように柔らかく、ケチャップに包まれたチキンライスは、濃厚なトマトの味と、甘さを兼ね備えていた。香代は口にスプーンを入れたまま、ほっぺたを膨らませて、笑顔になった。
「しあわせ〜」
とろける卵の滑らかさに、幸せ感を感じた。
「卵がとろとろ。家じゃー、こんなに上手く出来ないな」
「神戸には美味しくて、おしゃれな店が多いね」
「やっぱり店の数が多いから、競争が激しくなって、美味しくないと潰れていくのかもしれないよ」
「だから、新しい店も多いのね」
「この調子で行くと、アメリカ行くまでに三宮、神戸駅周辺を回るのが精一杯かも」
山崎の目は輝いていた。
「そうね。神戸は観光地が多いからね」
香代も目を輝かせた。
「ほんとは1週間で、もっと神戸を回るつもりだったんだけど」
「どんな所回るつもりだったの?」
「布引の滝、ハーブ園、それに六甲山にも行きたかったな」
「六甲山に行くなら車かケーブルカー使わないと行けないね」
「ケーブルカーは何処から出てるの?」
「ケーブルカーは、阪急六甲駅からバスで六甲ケーブル下まで向かった所」
「ちょっと時間かかりそうだね」
「行くんなら1日空けとかないとね」
香代は目をキラキラさせながら言った。
「後、日本三古湯の有馬温泉にも行きたかった」
「有馬温泉なら私鉄かバスで1時間くらい。明日行ってみる?」
香代は山崎を優しい目で見ていた。
「でも、また今度の機会にするよ。まだメリケンパークとハーバーランド行ってないから」
山崎は香代を優しく見つめて言った。
「後、ガイドブックで見たけど人工の島があったな?」
「あ、ポートアイランドと六甲アイランドね」
「そこには、どうやっていくの?」
「ポートアイランドはJR三ノ宮から、ポートライナーに乗って、六甲アイランドはJR住吉駅から六甲ライナーに乗って行くの」
「後、須磨や明石海峡大橋も見てみたかった?」
「そうね。明石海峡はJR舞子で下りるんだけど、三ノ宮から20分くらいかな」
「へ〜」
「明石海峡大橋は夜ライトアップして綺麗だけどね」
「そうなの!?」
「それと神戸ではないけど、お金持ちが住んでいる芦屋にも行ってみたい」
「六麓荘あたりね」
「芦屋の人、みんなお金持ちじゃないの?」
「芦屋でも、いろいろあるからね。芦屋市は縦に長くて、海に面する所と、六麓荘など金持ちが住む所、更に山側の奥池と雰囲気が全然違うからね」
「へ〜、そんなに違うの!」
「とてもじゃないけど1週間じゃ無理だね」
「1週間じゃ、せいぜい三宮、元町、神戸くらいだね」
「うん。欲張って回るよりも、また今度来たときに残しておいた方がいいよ」
そう言うと目を輝かせた。
「そうだね」
山崎も目を輝かせた。
食事を終えると2人は旧居留地を見て回った。石造りの重厚感のある建物や、カフェ、レストランが建ち並んでいる。この辺りは昔しっかりした区画整理がされ126の区画に分けられていて、38番館など今でも、その呼び名で読んでいる所もある。
「この辺りは昭和初期の建物が残っていて、今まで廻った三宮とはまたちがった雰囲気がするよ」
「1990年くらいから、古い建物がカフェやショップにリメイクされたみたい」
チャータービルはJ・H・モーガンが設計した重厚な建物で、入り口は回転式の扉になっていて、元はイギリスのチャータード銀行の支店で、今は「E・Hバンク」としてカフェとなっている。昭和10年に建てられた横浜正金銀行の建物はギリシャ神殿風で、今は神戸市立博物館として利用されている。海岸ビルヂングは明治に建てられたもので、この辺りでは一番古く、表は御影石とタイル、裏は赤煉瓦のまま。今はショップやカフェに利用されている。その他にもレトロな建物が多数残っていて、今でも異国情緒を感じさせる所だ。神戸ランプミュージアムはあかりをテーマにした博物館で、照明器具の歴史、旧居留地を再現した館内が見られる。2人は1つ1つ回っていると夕方になってしまった。
旧居留地を歩いていると、2人は素敵なカフェを発見した。店の軒先の真っ赤な日除けに「カフェ・ルーブル」とフランス語の筆記体で走り書きされていた。店の入り口は落ち着いた黒に塗られている。
漆喰のどっしりした丸テーブルに、クッション性のある真っ赤な椅子が並べられている。天井にはシャンデリアが吊り下げられ、窓は腰の辺りから天井にかけての細長い窓で、十字の木の枠にガラスがはめられていて、その窓から旧居留地のどっしりした建物がよく見える。天井の方はアールを描いていて、壁は金色で、窓と窓の間には美しい飾りがされている。そう言う店内は落ち着いて、気品を感じさせられる。更にフランス革命の頃の絵、ベルサイユ宮殿の絵が飾られている。
ウエイトレスがカプチーノを運んできたとき、そのカプチーノに2人は驚いた。
「わー、何て素敵。コーヒーの上に絵が描いてある」
カプチーノの表面に可愛いパンダの絵が描かれているのを見て、香代はまん丸な目をくりくりさせながら、喜んだ。カプチーノの上にはふわふわのクリームが載せられ、そのクリームの上に先の細いもので線を引き、クリームの白と、コーヒーの茶で、絵を描いているのだ。
「かわいい〜」
「なんか飲むのもったいないね」
「これは、もう芸術作品だね」
カプチーノを飲むと、2人はいつものように口に白い鬚をつけて、ふざけた。店内の気品ある雰囲気とはかけ離れているので、周りに迷惑がかからないように静かに笑った。しかし静かに笑うことが、余計に面白かった。
「この後、カラオケ行かない?」
「そうだな」
2人は笑いが止まらなかった。笑いを堪えながら会計を済まし、外に出たとき、抑えていた笑いが一気に吹き出し、お腹を押さえて笑った。歩き出しても、やっぱり面白い。周りの冷たい視線も気にせず、2人は楽しく笑った。
2人は自分の好きな歌を熱唱した。久しぶりに腹から声が出せて、スッキリした気持ちだ。香代は目を輝かせながら、マイクを離さなかった。
1時間も歌っていると、しんみりした気持ちになってきて、香代は山崎の肩にもたれ掛かった。山崎の肩にもたれ掛かりながら、優しいほっぺたと、幸せそうな表情を浮かべていた。そして山崎の膝に頭を載せ、そのまま顔を上に向け、キラキラした目で山崎を見つめた。山崎と目が合うと、笑顔を浮かべ、恥ずかしくなりすぐに横を向いた。山崎は香代の肩にそっと手を載せ、反対側の手で髪の毛を撫でた。香代は気持ちよさそうにし、目をつむった。香代の手を掴むと、優しくさすった。何度も何度も優しくさすった。その後、香代の上半身を少し起こすと、そのままの状態で唇を重ね、舌を絡ませ、長い長いキスをした。
2人がカラオケの店を出たとき、既に辺りは暗くなっていた。
震災の時より始まったルミナリエは、大丸の南の通りを少し東に歩いた所から入り口が始まる。20万個の光は、フラワー通りの横の東公園まで続いている。今まではクリスマスまでしていたが、最近はクリスマス前にライトアップは終えている。しかし昼間来た大丸周辺の木々はライトアップされていた。
大丸から道路を越えると南京町だ。横浜の中華街と比べれば、それほど大きくはない。中国人は旧居留地に住むことを許されなかったので、そのすぐ西に住むことになる。南京町の東の入り口には大きな長安門があり、夜はライトアップされている。長安門より両側にずらりと店が並び、その各店の前には出前が出され、店の提灯や看板などが、きらびやかに光っている。その中を大勢の人が行き交っていた。南京町の真ん中まで来ると、小さな公園があり、そこの東屋もライトアップされている。
2人は予約しておいた店「笑酒」に入った。1軒1軒の店はそれほど広くなく、1階は満席になっていたので、2階に案内された。丸テーブルが6つあり、それぞれに6人が座れるようになっている。すでに店は満席になっていて、お客さんが椅子に座ると通路が狭くなってしまう。中国人のおばちゃんが料理を忙しそうに運んでくるが、通りにくい通路を何度も往復していた。しかし人気店なので、こういう事は毎度の事。おばちゃんも慣れていた。
前菜には豚の角煮やサラダが出た。次ぎにフカヒレのスープが出た。
「私、フカヒレは初めて食べる」
「僕も初めてだよ」
「トロッとしてるね」
お粥は鶏で取った出しで、米を4時間煮込んでいるのに、さらっとしている。お粥の上に鯛の刺身を載せ、ごま油が掛けている。
「このお粥、さらさら」
香代はレンゲを口に頬張りながら言った。
「ごま油は、風味も、味もいいね」
「体がぽかぽかしてきた」
「この少し火の入った鯛も美味しい」
大皿の奥には伊勢エビの頭が立てられ、伊勢エビのぷりぷりした身を大きく切り、それをチリソースで和えている。
「このエビ、ぷりぷり」
「歯ごたえもあって、美味しい」
噛んだときの音が聞こえてきそうなくらい歯ごたえがよく、大きめに切っているのが、美味しさの秘訣だ。
「この頭のエキスも吸いたくなるね」
香代は大皿の飾りの伊勢エビの頭のエキスが吸いたいと言ったので、2人は目を合わせて笑った。
次に出てきたのは北京ダックだ。北京ダックの皮をパリパリに揚げたのと、白ネギ、きゅうり、餃子の皮のようなのと、豆板醤が盛られて出てきた。餃子の皮に北京ダック、白ネギ、豆板醤を挟んで、サンドイッチのようにして食べた。
「これ、美味しい」
「北京ダックと野菜と豆板醤の味がいい」
「皮のもちもちした歯ごたえと食感もいいね」
少し堅めの食感が美味しかった。
「噛めば噛むほど、味が出てくるって感じがする」
2人の食べるスピードは速かった。いくらでも食べられると言った感じで、大皿に盛られたカニチャーハンも一気に食べた。そして揚げ物、点心の盛り合わが出てきた。点心は豚まん、蒸し餃子数種類だ。豚まんは中から肉汁がこぼれ落ち、蒸し餃子は透明感のある、もちもちした生地で包んでいた。
「中の具がすごいね」
「うん。ぎっちりつまっているから美味しい」
「これなら幾らでも食べられそう」
香代は餃子を箸に挟み口に放り込んだ。まだ食べれそうな感じがしたので、点心をお代わりした。
「美味しかった」
最後に杏仁豆腐が出た。乳白色のぷるぷるした杏仁豆腐で、口の中で溶けた。
「柔らかい舌触り」
「杏仁豆腐、初めて食べるけど、結構いけるね」
「今日も美味しかった」
「もうお腹一杯だ」
香代はまた笑顔になった。
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12へつづく |
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