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フラワーロード沿いに、センター街を少し下がった所に神戸市役所がある。その前にある花時計の前で、2人は待ち合わせした。香代の家からは歩いて20分ほどかかる。市役所までは北野坂を下り、真っ直ぐに坂を下って、駅を通り、フラワーロードを下っていく。センター街を越えてすぐ。
朝の10時に花時計の前で待ちあわせをし、香代は紺の長めのコートを着て、少し大人っぽさをアピールした。香代のトレードマークである白のニット帽、白のニットのマフラー、白のニットの手袋は今日も付けていた。
「今日は大人っぽいね」
「そう?」
とぼけた応対をしながらも、そう言ってくれた事に心の中ではニコニコしていた。2人は西の方に歩き出した。
「今日も寒いね」
そう言いながら手袋をこすりあわせ、手を繋いだ。市役所の西側は旧居留地と言われる所だ。1868年に神戸港が開港したとき外国人の為に解放された居留地は、東はフラワーロード、西は鯉川筋(大丸の西の通り)、北は大丸の北側の道路、南は海岸までだ。そして外国人はレンガ造りの歩道にガス灯を灯し、重厚な石造りの建物、回転ドアをつけ、ヨーロッパの町並みを再現した。その名残は今も残っている。
その後、大正から昭和にかけて建てられた石造りのどっしりとした建物は、今も残っていてカフェ、レストラン、ショップとして利用されている。商船三井ビル、チャータードビル、旧横浜正金銀行ビル、海岸ビルヂングなどがそうだ。このあたりでよく見かけるビルヂングと書かれたビルは昔の名残なのだろう。
2人が入ったカフェは「ローズ・ヒル」。入り口は、それほど大きくなく、入り口の扉の横に、テーブル1つ分くらいの窓があるだけの狭さだ。扉や壁は青紫色に塗られ、縁は赤で塗られていた。少し派手な感じもするが、青紫が落ち着いた感じを与えてくれた。
入るとカウンター席があり、奥に4人席が20テーブルほどある細長い建物で、入り口からは想像できないほど奥が深かった。店内は名前の通りバラのイメージで、店はバラの色に染まっていた。真っ赤な椅子に、ワインレットのテーブルクロスで、最初、チカチカする色だが、次第に元気が出てくる。そして店内はバラの甘い香りがし、甘い香りに包まれているような温もりを感じる。
経営者は25歳の女性で、働いているのもみんな20歳くらいの若い女性だ。ウエイトレスが着ている服は、青紫色の制服で、袖は花のつぼみのようにフワッと盛り上がり、スカートは膝上で、チューリップのようにふんわり盛り上がっていた。襟はレースされていて、スカートの半分のサイズのワインレッドの半円のエプロンをしていた。女性の温もりと、香り、優しさが感じられる店で、お客さんは女性客やカップルが多かった。
「素敵なところね」
「ほんと癒される」
2人はビーフシチューとトロピカルティーを頼んだ。ビーフシチューの器は、直径15cmくらいのパンで作られていて、焼いたパンの中身をくりぬき、その中にビーフシチューが入れられていた。
「わー、美味しそう」
香代はウエイトレスが運んでくれたビーフシチューを嬉しそうに、眺めていた。パンで出来た蓋を開けると、中から濃厚なビーフシチューが見え、ビーフシチューの美味しい香りが鼻をついた。
「いい匂い」
香代は嬉しそうにして、早く食べたいが、何処から食べていいか迷った。ビーフシチューの具には赤身と脂身が重なった、大きな牛バラ肉の塊が4つも入っていて、赤ワインで5時間以上煮込んでいるので、赤身はとろけるように柔らかくなっていて、それをホークに刺した。肉を持ち上げると、中からは脂とスープが流れ落ちた。赤身は簡単にほぐれ、口に入れるととろけた。大きいながらも一口で簡単に食べれるのだ。スプーンでスープをすくい、口に入れると濃厚な味が伝わり、舌触りのいい感触が残った。
「美味しい」
山崎は、思わず叫んだ。
「シチューのざらざらした感じが全然無い」
香代は驚いていた。スプーンでシチューをかき回すと、中からマカロニや豆が浮いて来た。柔らかくなった、マカロニや豆が、スープとマッチするのだ。ビーフシチューの横には、小皿が置かれていて、パンの器の中身をくりぬいたとき出た、パンの中身が綺麗に長方体に切られているのが載せられていた。そのパンをホークに刺すと、一度ビーフシチューの中にじゃぼんと漬け、口に中に持っていった。
「これは、これで美味しいね」
「うん。体も温まってくる」
2人は暫く無我夢中で食べた。ビーフシチューが少なくなると、器のパンも壊しながら、シチューに漬けて食べた。そのとき香代の手が止まった。
「私、お腹一杯」
「流石に、ちょっと多いかも知れないね」
山崎も少し多いと思いながらも、全てを食べきった。
「美味しかった。満足、満足」
トロピカルフルーツを口に流しながら、満足そうに言った。
「体も、ぽかぽかに温かくなったよ」
「ほんと。外は5度だからね。これで今日一日乗り切れるよ」
香代は笑った。
外に出ると、また手を繋いで歩いた。繋いだ手を外し、指を絡ませたり、腕を組んだりして西に向かって歩いた。そのたびに香代はニコニコしていた。山崎が香代の腰に手を回すと、香代は軽く引き寄せられ、JR元町駅の東側にある大丸まで歩いた。JR三ノ宮、元町間は近く、800mしか離れてないので、あっという間に歩ける距離だ。
大丸も明治時代に建てられた重厚な石造りの建物だが、震災ではダメージを受け暫く営業を停止していた。この辺りは夜になるとライトアップされる。
2人は手を繋いでエスカレーターに乗り、香代は終始ニコニコしながら、周りの目も気にせず体ごと山崎の方を向いていた。大丸を1階から順番に見て回った。
「今回神戸に来るに当たって、神戸の歴史を少し勉強したの」
「神戸は明治以後発展したんじゃない?」
山崎の言葉に香代はすかさず答えた。
「奈良時代には、兵庫に大輪田って言う港が既にあったの」
「えー、そんな昔に港があったの?」
「それに平家物語にも神戸は登場するよ」
「そうそう。平家は三宮、須磨の辺りを陣取って、そこに源氏が攻め込んできて、須磨浦で激しい戦いになったの」
「それに太平記に記されている湊川の戦い」
「JR神戸駅の北側にある湊川神社には、楠木正成が祀られているわ」
「有馬温泉も古いはず」
「日本三古湯に入るくらいだから古いと思う」
「豊臣秀吉も何回も来たらしい」
「あっ、有馬に太閤の湯殿館って言う展示館があるよ」
「それに灘の酒って言うのも有名」
「阪神電車で三宮から東に行くと、大石、新在家、御影、魚崎などに資料館などがあるよ。言われてみれば神戸って歴史があるのね。ずっと住んでいるから考えた事無かった」
香代はそう言うと、2人は笑った。
1階から順番に見て回り、一通り見て回ったころで12時になった。
「お腹空いてきたから、そろそろお昼にしようか?」
「そうね」
香代は笑顔になり、小さい口から、可愛い前歯の2本を覗かせた。
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11へつづく |
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