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暫く歩いていると、駅の北側に雰囲気のいい店が目に入った。店内は50年代、60年代を思わせるアメリカの雰囲気に見えた。店の名前は「ロカビリー」
「ここにしようか?」
「うん。雰囲気良さそうね」
2人は手を繋いだまま店内に入った。テーブルや椅子は50年代頃に作られた、古さを感じさせる物だ。天井には大きなプロペラが付いていて、それが回転し、エアコンが吐き出す温かい空気を循環させていた。天井の照明や壁のブラケットは当時を模したレプリカで、調度品は当時のものが並べられている。おしゃれな神戸を1歩離れ、昔懐かしいアメリカの、のんびりした空間に身を置くことが出来た。
ウエイトレスが運んできた、大きめのプレートの上には山盛りの食材が載せられていた。グリルした骨付きもも肉、スモークしたリブロース、ハンバーガーとポテトフライだ。それにブルーハワイだ。骨付きもも肉は香ばしく焼き上げられていて、山崎がそれをかぶりつくと中から肉汁が滴り落ちた。
ハンバーガーは大振りで、中のチーズがとろけ、こぼれ落ちそうなくらいに広がっていた。香代はハンバーガーを、どこからかぶりついたらいいか判らず、小さく噛んでいるとチーズがこぼれ落ち、もったいない事をしたと言う顔をしていた。それをじっと見ていた山崎の視線を感じて、顔を上げると恥ずかしそうに笑顔を見せた。
「食べにくいね」
香代は照れ笑いしながら言った。
「でも美味しい」
香代の唇の端にはとろけたチーズがはみ出していて、舌ですくい取った。口の中にこびりついたチーズを流し込む為に、ブルーハワイを飲んだ。
「たまには昼間に、お酒飲んでもいいよね」
香代は満足そうな笑顔を見せた。広口のワイングラスに、透き通るようなブルーの液体がつぎ込まれ、その上にはシャーベット状の氷が浮かべられているのが綺麗だった。
「神戸は、美味しい店多いね」
「多いね」
「私、今まで神戸に住んでいながら、こういう店にはあまり来たことが無かったの」
「そうなの。毎日のように来ているのかと思ってた」
「お金もないし、美味しい店とかあまり知らないから、山崎さんにいろいろな店に連れて来て貰って、毎日が楽しい」
香代は山崎に笑顔を見せた。
「へー、東京に住んでいる僕が案内するのもへんな話しだけどね」
2人は笑った。ハンバーグや骨付きもも肉を食べていると、手も唇も脂でべたべたになり、唇はリップを塗っているように、艶っぽくなった。
「私、山崎さんと知り合って良かった。毎日が幸せ」
手をナプキンで拭きながら、艶っぽい唇のまま笑顔を向けた。
店を出ると、2人はどちらともなく手を繋いで、駅の方に向かった。香代は手を繋いでいるのが幸せに感じ、繋いでいる手を大きく振りながら、楽しそうにしていた。顔も満面の笑顔で、まん丸の目はキラキラ輝いていた。 2人はJRの高架下を歩いた。高架下は三ノ宮から神戸駅まで続いていて、その中にはショップ、カフェ、食堂などがずらり並んでいる。2人で手を繋いでいると、香代はまた買い物心に火がついた。可愛い服を見ると足が止まってしまう。山崎は気軽に入ったつもりなのに、香代はもう夢中で見ている。
「これ可愛くない?」
そう言われても山崎にはそれほど興味が無かった。
「私、ブーツが買いたくなってきた」
そう言うと気持ちはブーツに移行し、元町まで歩き、神戸近くまで行くと、また三ノ宮まで戻ってきた。
「やっぱり、あっちの方が可愛くて、安かった」
そう言うと、また神戸まで歩いたので、山崎は疲れていた。結局、この日三ノ宮、神戸間を2往復することになり、山崎はくたくたになっていたが、香代はお気に入りのブーツを買えたことで喜んでいた。
「ごめんなさい。またつき合わせた見たい。お茶おごるから」
香代は山崎の疲れた表情に気づいて、言った。
「本当は、服も買いたかったんだけど。ブーツ買えたからこれでいい」
何も言わない山崎に香代は言った。山崎は、「もうやめて欲しい」と心の中で呟いたが、香代には笑顔を向けた。
2人は高架下にある、「ドン・ジョバンニ」と書かれている店に入った。店内は薄暗くて、黒く塗られた木の梁が露出していて、ワイン蔵を改装した感じの店だ。席は半分くらいが埋まっていた。深いソファーに腰掛けたとき、山崎はホッとした。疲れから解放されていくような感触を感じた。薄暗い店内の中でも香代の笑顔は輝いていた。
「ここのタルト美味しいのよ」
香代は嬉しそうに話しかけた。
「え、そうなの」
「よく女友達とくるの」
香代の目は輝いていた。2人はタルトとアインシュペンナーを頼み、運ばれてきた皿の上には小さく切った3つのタルトが載せられていた。ブルーベリーのタルト、バナナのタルト、イチゴのタルトの3つだ。その横にはアイスクリームが載せられていた。生地にはアーモンドを練り込み、食べるとアーモンドの香りがする。口に入れた瞬間、まず最初に甘い果物の味がし、次ぎにタルトのサクッとした歯ごたえを感じながら、最後にアーモンドの香りが、鼻から抜けた。香代は幸せそうにタルトを食べた。
アインシュペンナーは、星型の口を付けた絞り袋に入れたホイップクリームを、エスプレッソの表面に外側から渦を巻きながら、たっぷり載せられていた。真っ白なホイップクリームの上には、茶色のシナモンパウダーが茶こしで振りかけられていて、雪山のようにも見えた。ホイップクリームには砂糖が加えられているので甘い。香代は口にホイップクリームの鬚(ひげ)を付けて笑っていた。
「ここのタルト美味しいでしょう?」
「タルトも美味しいけど、このコーヒーも美味しいよ」
「うん、美味しい」
「昔は、ウインナーコーヒーって言ってたけど、最近は呼び名も変わって」
「へー、でも私はウインナーコーヒーの方が言いやすい」
「オーストリアのウィーンで、ウインナーコーヒーって言っても通じないの知ってる?」
「え!ウインナーコーヒーってウィーンのコーヒーなの?」
「うん。アメリカンコーヒーみたいなもの。ウインで飲まれるからウインナーコーヒー」
「へー、初めて知った」
「でも、これは日本人が勝手に付けた名前」
「あ、そうか。だからアインシュペンナーって言うんだ」
また2人は笑顔を見せて、見つめ合った。
「これから、どうする?」
「チョッと疲れたから、ホテルにチェックインするよ」
「ごめんね、またつき合わせちゃって。でも夕食は、どうするの?1人で食べるの?」
香代は少し寂しそうな表情で言った。
「夕食、予約入れたら、またメールするよ」
「うん、判った」
香代は最高の笑顔を見せた。
店を出ると山崎は香代の肩をぐっとつかみ、歩いた。顔同士がくっつくくらいに近づき、2人は嬉しそうに笑顔を見せたいた。2人の距離はドンドン近づき、心の中は燃えていた。恋をすると、こんなにも幸せに感じれるものかと思った。駅のロッカーに鞄を取りに行き、近くのコーヒーショップでアイスカフェモカを注文しテイクアウトすると、駅から少し上がった所のホテルモントレ神戸に向かった。
「後で、メールするよ」
「じゃー、後で」
2人は笑顔を向けて、ホテルの前で別れた。香代はまた坂を上り、北野の家に帰っていった。
ホテルモントレ神戸はルネサンス様式を取り入れた重厚な作りであるため、三宮駅から5分の距離なのに、落ち着いた雰囲気が楽しめる。近くに生田神社があるせいもあり、周りは人混みなのに、この辺りだけは静けさを感じる。部屋はイタリアの家具など、イタリアのアンティックなイメージがある。
近くにはホテルモントレアマリーがあり、こちらは北ヨーロッパの港町を思わせるホテルだ。中は船室のドアを思わせる客室のドアなど、帆船をイメージしたインテリアや調度品が飾られている。
山崎はチェックインし鞄を置き、カフェモカを一口飲み机に置くと、大きなベットに飛び乗り、ディナーをどこにしようかとガイドブックをめくった。ガイドブックをペラペラめくりながら、机の上のカフェモカを取りに行き、寝ころんだ状態で飲みながら考えた。
「エスプレッソとココアのバランスがいいな」
カフェモカに感心しながら、数冊のガイドブックをめくり、カフェモカを飲んでいると、アンコールワットに見られるようなレリーフの写真が目に入った。そのレリーフはタイ料理のレストランに飾られていた。
「ここいいな」
おしゃれな店が見つかり、目が輝いた。
「これは香代さんも喜んでくれるかもしないな」
急いで店に電話してみると、すんなり予約がとれた。その手で、香代にもメールを送った。
「きっと喜んでくれるに違いない」
そう思うと、嬉しくなってきた。そして残ったアイスカフェモカを一気に飲んだ。
「うまい」
思わずうなっていた。
2人は生田神社の前で待ちあわせすると、そこから手を繋いで歩いた。香代はしっかり今日買ったブーツを履いていた。今日は1日温かかったが、それでも日が沈むと寒くなった。香代はいつもの通り、ピンクのダウンジャケットに、白のニット帽、白のニットのマフラー、白のニットの手袋をしっかり付けていた。
店の名前は「サワディーカーン」。店内は現代的な造りで、おしゃれな雰囲気になっている。テーブル、椅子や内装はぴかぴかに飾られているので女性客が多い。
そして部屋の奥にはガイドブックで見た、縦1m、横4mもある石に、アンコールワットに見られるような彫刻が彫られたレリーフが飾られていた。レリーフは石を削り、民族衣装を着た女性10人くらいが横に並び、クネクネ踊っている姿が描かれている。クネクネと踊っている女性は彫刻で削られ、石から飛び出している。これが店内の一番目立つ位置に飾られ、迫力を醸し出していた。
香代と山崎は手を繋ぎ店に入り、タイ人のウエイターの案内されるままに付いていった。
「素敵な所ね」
香代にそう言われたときは、山崎は誇らしげに笑顔を浮かべた。2人は奥のレリーフの下のテーブルに案内された。香代は面白そうにレリーフを触り、喜んでいた。本物の石を削り、踊っている女性が飛び出していて立体的に見える。
「重そうね」
「お金もかかってそう」
世界3代スープのトムヤムクンと、グリーンカレー、イエローカレー、レッドカレーを一通り頼んだ。
「トムヤムクンって辛いだけかと思っていたら、酸っぱさもあるのね」
「エビのうま味もするし、香りもいいし」
トムヤムクンはエビを殻ごと煮ているので、エビのうま味がスープに溶け込んでいて旨い。旨さと辛さ以外にも、酸味、香りのバランスも取れているのが特徴だ。
「タイカレーって甘辛いのね」
「ほんと。それに色な色があって面白い」
「日本のカレーと違って、スープみたい」
「日本のカレーはヨーロッパのカレーだからね」
「インドじゃないの?」
香代は驚いた顔を見せた。
「インドカレーにブイヨンを混ぜて、小麦粉でとろみをつけているから、インドのカレーとは少し違う」
「あ!そう言えば、こないだインド料理食べにいったね」
香代は恥ずかしそうに舌を出した。タイカレーの特徴は唐辛子の辛さに、ココナッツミルクを入れ、甘辛く作っている。タイ料理は1つの味覚に片寄ることなくバランスの取れた味付けで、ハーブ、スパイスを沢山使い、体にもいい。
一通り食べ終わったが、お腹一杯にはならなかった。
「何か物足りない」
「そうね。何か物足りないね」
「追加オーダーしようか?」
「うん」
嬉しそうに山崎の目を見つめた。そしてカニ肉入りチャーハン、チキンカレーヌードルとマンゴージュースを頼んだ。
「チャーハン美味しいよ」
「チキンカレーヌードルも美味しいよ」
2人で仲良く分けながら食べた。チャーハンを口に入れ、何気なく飲んだマンゴージュースが美味しかったので、びっくりした。
「このマンゴージュース、濃いいね」
「ほんと。普段マンゴージュース飲まないけど、美味しいよ」
2人は料理にすごく満足した。山崎は香代を家まで送ろうと、肩を組んで歩いた。
「タイ料理美味しかったね」
「僕も初めてだったけど、タイ料理がこんなに美味しいとは思っても居なかったよ」
「また一緒に行こ」
「うん、また行こ」
2人はすっかり恋人同士になり、心は1つになっていた。美味しい料理が幸せな気持ちを高めてくれたのだ。夜の10時頃外を歩いていても、人混みは減っていず、駅周辺は賑わっていた。山手幹線を越えた辺りから、人もまばらになってきて、細い道路を通るとき月が低い位置で光り輝いていた。
「私、帰りたくない」
家に近づくに連れ、人は少なくなり、暗くなっていった。家の前まで来ると、香代は離れたくないと山崎にまとわりつき、山崎の胸に頭を埋めた。山崎は香代の背中をグッと抱き寄せると、香代は頭を起こし、目を輝かしながら、山崎の目を見つめた。山崎は香代の顔に自分の顔を近づけ、唇と唇を重ねた。
辺りは真っ暗で、人気もない。山崎は寒さから身を守る為に、唇は重ねたまま香代の体を更にグッと抱き寄せた。1分くらい唇を重ねていて、次第に唇の周りは熱くなってきた。香代は唇を離すと、別れるのが名残惜しいように、また山崎の胸に頭を埋めた。また1分くらい、この状態を続けていたが、もう寒さに耐えれなくなった。
「じゃー、また明日ね」
「うん。またメールする」
山崎は寒さに耐え、とびきりの笑顔を香代に向けた。香代もお返しするように、とびっきりの笑顔を見せた。香代も満足したのか、家の前で別れた。
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8へつづく |
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