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山崎は朝7時にホテルのベットの上で目を覚ました。昨日、香代と肩を組み、抱きしめたことを思い出し、急に胸が熱くなった。今日、ここのホテルを出る日だ。ユニットバスにお湯を溜め、待っている間、鞄に荷物を詰め、ベットを綺麗にした。ベット、机の周りと忘れ物が無いか確認し終わると、丁度お湯も一杯になっていた。
湯船に浸かると、また香代の事を思い出し、嬉しくなってきた。香代の笑顔、まん丸な目、くるくると動く目、小柄な体、どこを見てもキュートで可愛い。
「香代さんと知り合えてよかった。神戸の旅行が、こんなに楽しくなるとは想像もしてなかった」
そう言うと両手でお湯をすくい顔を洗った。
「ホテルのバイキングも飽きたな」
ホテルに3日間滞在していると、ホテルのバイキングの朝食にも飽きてきた。
「あ!、そうだ。香代さんを誘ってみよ」
昨日、見ていたガイドブックに素敵な店があることを思い出すと、お風呂を飛び出した。
風呂から出ると、さっき仕舞ったガイドブックを鞄から急いで取り出し、ページをめくった。
「あ、これだ」
急いでメールをした。
「一緒に朝食食べに行かない?」
「起きてるかな?」
入力した後、香代が起きているか不安になったが、取りあえず送ってみようと送信ボタンを押した。
香代も少し前に目を覚まし、湯船に浸かっていた。
「やっぱり、お風呂はいいな」
最近、寒くなってきているので、お風呂が気持ちよかった。クリスマスの日に降った雪はすっかり溶けていて楽しみが1つ減ったが、山崎さんの事を考えると楽しくなってくる。
「昨日は、抱きしめあったから、今日はどうなるのかな?」
そう思うと笑顔になった。
「昼まで何して過ごそうかな?退屈だな」
そう思うと笑顔は消え、少し寂しそうな顔になった。そう思っているときに携帯のベルが突然なり鳴り、ビックリした。
「もしかして」
香代は急に笑顔になり、湯船から出て体も拭くのも忘れ、携帯を取りに行った。携帯を見ると山崎からのメールだと気づき、目はまん丸に見開き、顔がほころんだ。
「さむ〜」
体を小さくし、足と足を擦り合わせていた。
寒さに耐えれなくなって、携帯を持ったまま急いで湯船に戻った。
湯船に浸かりながら、メールを確認した。
「一緒に朝食食べに行かない?」
「もちろん、いいに決まってるでしょ」
香代は笑顔になった。
「いいよ」
携帯をお湯に付けないようにメールを送った。香代は嬉しそうに携帯を握りしめて、メールが来るのを待っていると、すぐに返事が帰ってきた。
「カフェ・シャンゼリゼで、10時にどう?」
「カフェ・シャンゼリゼ?」
聞いた事無い名前だったので、場所が判らなかった。
「カフェ・シャンゼリゼって、何処?」
すぐに返事を送った。またすぐに返事が返ってきて、香代は急いで、目を皿のようにしてメールを読んだ。
「北野坂を下った所。中山手1丁目」
「OK」
返事を送った。10時まで少し時間があったので、携帯を置くと、もう少しゆっくり湯船に浸かっていることにした。温かいお湯に浸かりながら、目の焦点はぼやけ、笑顔のまま、脳は完全に空想の世界に浸り混んでいた。
風呂から出ると、昨日買った服に着替えた。黒のミニスカート、黒のストキングに、茶色のセーターを着て、ピンクのダウンジャケットを着た。その上は、もちろん白のニット帽、白のニットのマフラー、白のニットの手袋をつけた。
家を出ると、北野坂を下っていった。10時前だと言うのに、異人館に向かう観光客やカップルと、何人ともすれ違った。
「中山手1丁目だから、山手幹線の少し上ね」
山手幹線が見えてきたので、キョロキョロしていると、すぐに判った。
「あ、ここね」
名前は知らなかったけど、しょっちゅう通っている道なので知っている店だった。
この店も北野坂を通るたびに雰囲気は、いいなって思っていたけど、まだ入ったことが無かった。異人館に向かう北野坂に面しているカフェは、パリのシャンゼリゼ大通りにあるカフェを感じさせるようなオープンカフェだ。店は歩道から、かなり引っ込んでいて、その代わり、外でお茶を楽しめるように、テーブルや椅子が沢山並べられていた。日は昇りだし、この日は晴天に恵まれ、気温もぐんぐん上がっていた。外の椅子には10人くらいの人が座っていて、ふと見ると山崎が座っているのが目に入った。
「あ〜、おはよう」
香代は山崎を見つけると、笑顔で言った。「おはよう」
山崎も笑顔で答えた。
「それ昨日買った服じゃない」
「そう」
香代が席に座ろうとしたときに山崎が言い、山崎が気づいてくれたことに嬉しくなった。
「温かくなってきたから、外で食事するのもいいなと思って」
「そうね、温かくなってきたし、丁度いいね」
「ホテル出てきたの?」
山崎の足下に置いてある大きな鞄を見て、驚いた顔を見せた。
「新しいホテルに移ろうと思って」
「あ、そうなの。もう帰るのかと思ってビックリした」
香代はホッとして笑顔になっていた。
「神戸にはいいホテルが沢山あるから、1つに絞ること出来なくって」
「あ、そうだったの」
嬉しそうに答えた。
2人はモーニングを頼んだ。頼んだ料理には、トースト、スクランブルエッグ、ベーコン、オーレ、果物がついたいる一般的なモーニングだ。しかし違っていたのは、このトーストだ。卵とバターをふんだんに使って作られていて、厚めに切れているのにふわふわした食感があり、トーストの香ばしい香りがぷ〜んと鼻を突いた。
「これ、おいしい〜」
香代はトーストを何気なく口に入れると、想像以上の味がしたので、驚きの表情を浮かべた。
「なんでこんなに美味しいの?」
香代はびっくりした顔で聞いた。
「この食パンは厳選した小麦粉に、厳選した卵、バターを混ぜているんだ」
「へー?小麦粉に卵とバターを混ぜているの?」
「卵やバターを入れなくても、食パンは作れるけど、美味しい物を作ろうとすると、いい食材を使わないと。いわゆるホテルの食パンと言われる奴」
「やっぱりお金かけないと、いいものは作れないんだ?」
「いや、そんな事無いよ。食材はシンプルでも、釜や焼き方にこだわって、行列の出来るパン屋もあるよ」
「へー!?」
香代は目を丸くさせ、立ち上がらんばかりに驚いた顔を見せた。
「こだわりの職人って感じ?」
「そんな感じ」
「私も、何かに頑張らないとね」
2人は笑った。そう言っている間も、観光客が、しきりにカフェの前の北野坂を上って行く姿が見える。しかし2人の顔は寒さで、強(こわ)ばっていた。
「こう言う所で、のんびり人を見ているのも楽しいね」
「時間を贅沢に使えるのも幸せの条件かも」
「食事も美味しいし、のんびり出来て最高」
オーレは広口のカップに入れられていて、体を温めるように両手で包み込むようにカップの底を持ち、口に運んだ。まず手が温まり、口から胃へと温かさが伝わっていった。カップをもつ香代の手と鼻は真っ赤だった。2人はオーレを飲みながら、のんびりした時間を過ごした。冷えた手でいつまでもカップを包み、目はボーとして、真っ赤になったほっぺたと鼻の前でカップを口にしている香代の姿はかわいらしかった。オーレを飲み干すと、すぐにウエイトレスがお代わりを注いでくるので、ますます動くのが面倒になる。山崎は腰に根が生えたように椅子にぐったりと寄りかかっていた。
「もう神戸に着て4日目になるね」
「うん」
山崎はボソッと答えた。
「どうしたの、元気ないね?」
香代はまん丸な目で山崎の目を見つめて言った。
「なんか疲れ溜まってる見たい」
「あ、ごめんね。昨日、買い物につき合わせて、さんざん歩き回ったからね」
「そんな事無いよ。でも足、疲れてるかも」
山崎が言うと、香代はクスリと笑った。
「私、いいマッサージの店、知ってるよ」
「え!そう言われると、何かマッサージして貰いたくなってきたな」
山崎は急に元気になった。
「タイマッサージで、すごく気持ちがいいの」
「そこ行こ」
山崎は残ったオーレを一気に飲み干したかと思うと、席を立った。さっきまでの元気ない感じとはうって変わったので、香代は戸惑ったが、すぐに笑顔になった。
店を出ると、更に南下して駅の方に向かった。2人は寒さで腰を丸くしていたが、寄り添い、肩と肩を重ねながら歩いた。2人の心の中には温かい感情が流れていた。山崎は香代の手をギュッと握った。手はかじかみ冷たくなっていたが、香代の心の中には更に温かいものを感じ、笑顔になった。
5分ほど歩いた所に店はあり、エレベーターで4階まで上がった。その間もずっと手を繋いだまんまだ。香代はすごく幸せを感じていた。
山手幹線より北側の山本通、北野辺りは、カフェ、レストラン、ショップなどの店があり、落ち着いた感じになっている。この辺りは坂の勾配が大きく、異人館があり、独特の雰囲気を醸し出している。店の数も少なく、人の数も少ない。
しかし山手幹線を下ると、カフェ、レストラン、飲み屋、ショップなどの店がひしめきあうようにあり、人も溢れていた。駅もすぐ近くにある。
エレベーターを上ると、そこはタイマッサージの店だ。中はタイの家具が置いてあり、お香がたかれていた。壺の上には水が入れられ、蓮の花が浮いていた。
「雰囲気いいね」
山崎が香代の耳元で囁いた。香代は自分が誉められたようで嬉しかった。
2人は60分コースを頼んだ。カーテンに仕切られた部屋に通されると、準備された軽い服装に着替えた。足からマッサージし、歩き疲れたのもあり、足は張っていた。次第に足が軽くなるのを感じ、背中をマッサージしてもらっているときは、あまりの気持ちよさで眠ってしまった。終わりの方では体を捻ったり、腕を伸ばし、最後はブリッジで締めくくった。終わったとき山崎は体が軽くなっていることに気づいた。マッサージの間、少し眠ったのもあり、体も心もリセットされた。
「もっと神戸を満喫するぞ」
そう心の中で叫び、笑顔になった。
着替えると2人は並んでソファーに座り、温かいジャスミンティーを静かに飲んだ。ジャスミンティーは疲れた気持ちを解きほぐしてくれた。
「気持ちよかったね。私、少し寝てしまったみたい」
「僕も少し眠ったよ。知らない間に疲れが溜まっていたのかも知れないね」
「そうね」
香代は山崎の方に向き、笑顔を見せた。
「元気になれたから、もっともっと遊ぶぞ」
「私も、遊ぶわよ」
2人は見つめ合い、目を輝かせた。
2人はタイマッサージの店を出ると、また手を繋いで歩いた。暫く歩いていると山崎のお腹が鳴った。その音を聞いて、香代は笑った。時計を見ると、もう12時を回っていた。
「あ、もうお昼の時間ね」
「なんか、さっき朝食食べたと思ったのに」
そう言うと、また笑った。山崎は暫く持ち歩いていたバックを三ノ宮駅のロッカーに入れた。香代は明るく、人の心まで明るくさせる力を持っていた。山崎は1人で知らない土地に来て、寂しさを感じていたのに、香代の明るさで、心が溶き晴れ、何か楽しい気持ちになっていた。
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7へつづく |
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