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香代は目を覚ますと、飛び起きて時計を見た。
「9時だ」
ホッと胸をなで下ろした。昨日、嬉しくてなかなか寝れなかったが、知らないうちに眠ってしまっていたのだ。電気もエアコンも付けっぱなしで眠っていた。
「あ、そうだ。昨日の雪、溶けて無くなってたらどうしよう」
慌ててガラス窓に近づきカーテンを開けると、窓は湿気で曇っていた。その湿気を手でこすり、外を眺めた。
「よかった」
目をくりくりさせて嬉しそうにした。ガラス窓を開けて外に出ようとすると、瞬間に冷気が部屋に入ってきて、一瞬にして体が冷えた。
「さむ〜」
慌ててガラス窓を閉めた。でも頭はまだボーとしたままだ。雪が残っていたのを確認できたので、冷えた体を温める為に風呂に入ることにした。
風呂にお湯を溜めると、勢いよくお湯に浸かり目を覚まさせた。
「今日は、どんなデートできるのかな?」
独り言を言いながら、嬉しそうに笑顔を見せた。
「もしかしてキスなんかしたりして?」
そう言うと恥ずかしそうに照れた。
「それはないない」
冷静になって否定した。
風呂から出、目が覚めると急にお腹が空いてきた。2日前に買ったパンが残っている事に気づき、ティーカップに紅茶を入れた。体も温まり、何か楽しい気持ちになってきたので、パンを囓りながら、上を向き、空想にふけていた。
そのとき携帯が鳴った。見ると山崎からのメールだった。
「グリーン・ゲーブルスに12時に」
それだけしか書かれてなかった。
「ok〜」
嬉しそうに答えた。グリーン・ゲーブルスはガイドブックに載っている有名な店なので、直ぐに判った。家からは5分くらいの所なので近い。送信した後パンを囓り、紅茶を飲んだ。
昼までの時間は布団に横になり、テレビを見て過ごした。
香代が「グリーン・ゲーブルス」の前につくと、店の前は緑に覆われていて、外の黒板にはびっしりとメニューが書かれていた。
「何か素敵な感じがする」
心がウキウキしながら、目を輝かせた。木の扉を押すと、扉に付いていた鈴がなった。
中は思った以上に広く、50席くらいある広さだ。室内はアメリカの田舎町と言った感じで、クロスやカーペットは敷かれていず、木がむき出しになっている。ありとあらゆる所に緑が飾られていて、1mほどある観葉植物が、テーブルとテーブルの仕切に使われ、窓枠にも緑が置かれ、飾っている絵の縁には花のリングが掛けられ、天井にはドライフラワーが吊り下げられていた。
「こっち、こっち」
山崎は既に席に着いていた。
「素敵な所ね」
香代は目をキラキラさせながら言った。
「来たこと無いの?」
「うん。一度来てみたいと思ってたけど、初めてなの」
大きく頷き、明るく答えた。
「あまり神戸のこと知らないね!」
「そうなの。神戸に住んどきながらね」
嬉しそうに目は輝いていた。
香代は山崎と夢中に喋っていると、ウエイトレスが注文を聞きに来た。
「あ、何にしたの?」
「生ハムとモッツァレラのパニーニのセット」
「じゃ、私もそれで」
香代はウエイトレスに笑顔を向けた。
パニーニはイタリアの細長いパンで、その真ん中に包丁で切り目を入れ、切り込んだ内側にオリーブオイルを塗り、そこにトマト、生ハム、モッツァレラチーズ、バジルが挟まっていた。パンの切り口からは白いモッツァレラチーズと、赤のトマト、生ハムと、緑のバジルが顔を覗かせていた。色合いも綺麗で、美味しそうに見えた。
「わ〜、美味しそう」
香代はすぐに感動して、大袈裟に喜んでしまうタイプだ。セットにはサラダとエスプレッソがついている。香代は大きな口を開けて、パンにかぶりついた。モッツァレラチーズの柔らかさの後に、濃厚なチーズの味、生ハムの味が伝わってきた。生ハムは塩味が効いていて美味しい。そこにトマトの甘みと、バジルの香りが伝わってきた。
「おいし〜」
食べ終わっても、まだ口に残るうま味。また一口食べたくなる美味しさで、またかぶりついた。
「美味しいね?」
何も言わない山崎に言った。
「おいしいよ」
山崎は静かに言った。
エスプレッソを一口飲むと、コーヒーの味が濃く、香ばしい香りがした。
「このコーヒーも味が濃くって美味しい」
満足そうにコーヒーカップのエスプレッソを眺めた。その後もパニーニを頬張り、あっという間に平らげた。香代は山崎と、またこうして食事が出来た事が嬉しい。山崎は山崎で香代が、また会ってくれたことが嬉しく、2人はずっと笑顔だった。
「私ね、オーパで買い物したいんだけど、ちょっとだけ付き合ってくれない?」
香代は目をキラキラさせ、山崎の目を見つめながら、嬉しそうに言った。
「うん、いいよ」
山崎も香代の目を離さずに答えた。
「そろそろ新しい服買いたくて」
香代はジーッと山崎の目を見つめたまま離さない。
「女の子は服好きだからね」
嬉しそうに答えた。
「オーパの近くにハーブ園もあるの?」
「ハーブ園はオーパのすぐ横からロープエーが出てるの」
「へー、じゃー布引の滝は?」
「布引の滝もオーパから近いけど、新神戸駅の裏になるの」
「すぐ近くなの?」
「新神戸から山道を暫く歩かないと行けないの。子供の頃、遠足で行ったかな。それ以来だから、よく憶えて無くって。夏場は涼しいみたい」
香代は笑顔で、山崎と目を離さず、ジーと見つめたまままだ。目の中にはキラキラとした小さい星がいくつも光っていた。
オーパは地上3階、地下3階でブティック、やレストラン130店舗がある。2階には新神戸オリエンタル劇場があり、その上が新神戸オリエンタルホテルだ。
「ここからハーブ園行きのロープウェーが出てるの」
「へー」
オーパまで近づくと香代は左手を指さして説明をした。オーパまで上がり、下を見下ろすと雪が残っているのが見えた。
「まだ結構、白いのが残ってる」
山崎は2階踊り場で立ち止まり眼下を見下ろした。
「うん。綺麗だね」
香代も一緒に立ち止まり、暫く見ていた。
香代は山崎を2時間ほど付き合わせ、いろいろな店を見て回わり、疲れたので近くのベンチに腰掛けた。
「ホテルは、何処泊まってるの?」
香代は山崎に笑顔を向けて聞いた。
「新神戸オリエンタルホテル」
「あ、この上じゃない!」
「そうなの。オーパも何度か通ったけど、じっくり店の中を見るのは初めて」
「あ、そうだったの」
「こんなに店あるのは知らなかった!」
「昨日、アメリカ行くって言ってたけど、アメリカに何しに行くの?」
「語学留学に」
「へー、そうなんだ」
「将来、通訳か翻訳の仕事がしたいので、それでアメリカ行こうって思ったの。1年くらいだけどね」
「夢があっていいね」
「香代さんは何か夢とか将来のこととか無いの?」
「私は何も考えてないの」
ニコニコした目で山崎に言った後、笑った。
「そろそろ将来の事とかも考えないと行けないね」
「まだ大学1年だし、そのうちに決まるよ。神戸に昔、震災があったんだね」
「うん。三宮も凄かったよ。そこら中、店が倒れたり、ビルが傾いたり凄かった。センター街のアーケードも壊れたし」
「今見ると地震があったことは想像つかないね」
「だいたい1年くらいで、震災の陰は消えたかな」
「結構早かったんだね」
「でも、その頃、営業再開出来てない店も多かったし、ビルも減ったせいで青空がよく見えた」
「震災あった日は、どんな生活していたの?」
「震災あった日は、電気、水道、ガス全て使えないし、風呂なんかも入れないし、電車ももちろん走ってなかったし」
「今の時代に生きていたら考えられない生活していたんだね!」
「そう電気が付くまでの数日間は電気のない生活していた」
「電気がついてないと言うことはローソクなんか付けてたの?」
「そう。でも電気が無いと言うことは明るさだけの問題じゃなくって、精神的にもダメージを受けたの」
「精神的なダメージ?」
「やっぱり暗い所で暮らしていると、気持ちまで暗くなってくるし、希望も見いだせないの」
「電気なんか普段当たり前のようにあるので、そんな事考えた事無かったな!」
「それに電気が使えないとエアコンも電気ストーブも使えなくなるし」
「あっ。そのとき気温はどれくらいだったの?」
「震災の数日後、氷点下になった!」
「えっ。そんな寒いときに暖房無しで暮らしたの?!」
山崎は驚いた顔を見せた。
「私も家壊れたんだけど、近くの人が泊まらせてくれて、寒さは我慢するしかなかったけど、当日は家潰れた人が公園で焚き火して過ごしていた」
「そんな真冬に電気も、ストーブも、家も無しに過ごすなんて考えれないね」
「数日後、電気が復旧したときは、みんなで拍手したよ。明かりがつくと、心まで明るくなれたから」
「そんなに嬉しかったんだ」
「それは今思い出しても嬉しい」
香代は当時の事を思い出し、目を輝かせていた。
「水はどうしてたの?」
「水は毎日学校に汲みに行ってたの」
「相当いるんじゃない」
「何回も往復して、風呂桶一杯にしてたの。でもトイレの水流すのに使うと数日で空になってしまう」
「お風呂は入ってなかったの?」
「ガスが復旧するのに、2−3ヶ月かかったから家でお風呂に入るのは無理だったの。週に2回くらい、銭湯に並んでた」
「へー、今銭湯の数減ったけどね」
「だから毎日は入れなかったし、銭湯行ったときは1時間くらい並んだかな。でもお風呂に入れると、体が温まるし、リフレッシュできて、気持ちまで明るくなれた」
香代はまん丸な目をキラキラさせながら言った。
「1時間も並んだんだ!食事は、どうしてたの?」
「食事は当日は、何とかある在庫でしのいだの。その後はすぐに弁当の配給してくれたんで助かった」
「鉄道も大きな被害が遭ったみたいだけど」
「そう。JRでは六甲道駅の被害が大きかったの。高架の橋脚が壊れて24時間体勢で工事していたみたいで。全線開通するのに2ヶ月半かかったと思う」
「話しだけでは判らない点も多いけど、すごく大変だったんだね」
「うん」
香代は静かに頷いた。その後、普段の明るさを取り戻し、また目をキラキラさせながら山崎に言った。
「もう少しだけ付き合って。買いたい物は大体決まってあるので」
そう言うと立ち上がった。
そして少し考えて、黒のミニスカートと、茶色のセーターを買った。
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5へつづく |
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