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山崎がガイドブックで調べ、予約したインド料理の店の名前は「デリー」。クリスマスの日とあって、どこも予約で一杯で、何とか空いていたのがインド料理の店だった。山崎が一番気がかりだったのは、香代と知り合ったばかりで話しも弾まず、ぎこちない雰囲気をどう変えようかと緊張していた。 店内は洞穴のように天井が丸くカーブしていて、壁や天井は土色に塗られていた。テーブルや椅子はインドより取り寄せたもので、オーナーもシェフもインド人だ。2人が座ると、親切なインド人がお手ふきを持ってきてくれ、親切にも手に渡してくれた。
まず最初にサラダが運ばれてきた。2人はそれを無言で食べた。店内はそれほど広くはないので、隣の席ともそれほど離れてなく、インド人も明るいのでフレンドリーな雰囲気だった。照明は蛍光灯ではなく、電球の光なので、その光が洞窟のような店内を灯していて、反射した光が何重にも重なっていった。それが都会の喧噪から遠ざけてくれ、神秘的な雰囲気に浸れた。
「これタンドリ〜、チ・キ・ンです」
たどたどしい日本語で明るく喋りながらタンドリーチキンを運んできてくれた。
「わー、美味しそう」
香代のほっぺたは一気にほこらんだ。
「お・い・し・い・ですよ」
インド人は笑顔で言った。それに応えるかのように香代もインド人に笑顔を見せた。そして山崎にも笑顔を向けた。タンドリーチキンはヨーグルトを塗って、タンドールと言う窯で、こんがり焼かれている。表面は香ばしくカリカリで、中はジューシーだ。香代が囓ると、中から肉汁がしたたり落ちた。
「おいし〜い」
香代は周りの明るい雰囲気から、つい思わず大きい声を出してしまった。自分の大きい声が壁に反射したので、驚き恥ずかしくなった。周りのお客さんからは笑いがこぼれ、一気に店内は明るくなった。周りにもカップルが多かった。
「カレ〜です」
香代の嬉しそうな声につられてインド人も笑顔で近づいてきた。インド人が持ってきたカレーは3種類。小鉢にほうれん草、チキン、羊と3種類のカレーが載っていて、緑のほうれん草、黄色のチキン、赤の羊と3色いろとりどりだ。そしてナンはインド人が持っているトレイから、はみ出すくらいの大きさだった。ナンの表面にはバターが塗られていて、こんがりと、ふっくら焼かれ香ばしかった。ナンを手でちぎるとカレーにつけ、3種類の味が楽しめた。
何と言っても、このナンが美味しかった。香ばしくて、もちもちした食感が美味しい。山崎も無我夢中で食べて、あの大きかったナンを一気に平らげた。暫くすると、すかさずインド人が近づいてきた。
「ナンのおか・わ・りはどう・ですか?」
そう言うと、あの大きいナンを2つ置いていった。
「有難うございます」
香代はインド人に笑顔をおくった。2つあったナンも山崎は、あっという間に平らげた。負けじと香代も食べた。
「このナン美味しいね」
香代が嬉しそうに、そう言ったとき突然横で大きな音がした。インド人がクラッカーを鳴らしていたのだ。その後も、いくつもクラッカーを鳴らした。その度にお客さんは笑顔になり、店内は盛り上がった。
静かだった店内にインド音楽が流れると、隣の人とも意気投合し、店内が1つになった。明るく、サービス精神旺盛なインド人に感動すら憶えた。
「インド人って、明るいね」
「昔一度、インド料理の店行ったことあるけど、その店は静かだったよ」
「インド人も色々居るのね」
香代は嬉しそうに答えた。明るいインド人のお陰で、2人は一気に仲良くなれたような気がした。嬉しそうにしている香代の顔を見ていると、山崎はここの店を選んでよかったと、涙が出そうになって来た。
「ラッシ〜・で・す」
ラッシーはヨーグルトを水で薄め、少し塩を混ぜていて、日本の飲むヨーグルトだ。店内はうるさいくらいにインド音楽が流れ、盛り上がっていた。
「美味しかった・で・す・か?」
インド人は笑顔を振りまきながら近づいてきた。
「ありがとうございます。美味しかったです」 香代は明るく、笑顔を見せた。
「ありがとう。こんな素敵な店に連れてきてくれて」
そう言うと山崎に笑顔を見せた。この店に来てから香代は初めて山崎に笑顔を向けたのだ。2人は知り合って間が無く、山崎は2人の隙間をどうして埋めようかと悩んでいたのに、心配も吹っ飛ぶくらいの笑顔を何度も見せてくれて、本当に涙が出るほど嬉しかった。音楽で聞こえないように涙から出る鼻水をすすった。
「インド人ありがとう」
そう叫びたい心境だった。最初はガイドブックを見て、この店でいいのかと不安だったけど大正解だったと思えた。山崎がレジでお金を払うと、
「ありが・とう・ご・ざい・ます」
インド人は明るい口調で言ってくれた。
「ごちそうさま。また来ます」
香代はインド人に笑顔を見せた。
外はすっかり暗くなり、街を歩いていると、街路樹には何万個と言う電球が巻かれ、そこら中がクリスマスのイルミネーションで輝き、神戸の街が、クリスマスムードに包まれていたのだ。素敵な雰囲気の中、2人は自然と手を繋ぎ、寄り添い、すっかりうち解けていた。香代はもともと明るい性格だし、山崎に一目惚れしたこともあり、すぐにうち解けることが出来た。
「本当に、こんな素敵な店に連れてきてくれてありがとう」
香代はすっかり笑顔になり、山崎の目を見つめていた。2人はクリスマスのイルミネーションのトンネルの中を手を繋いで歩いた。30分ほど歩いた後、明日会う約束をして別れ、山崎は泊まっている新神戸オリエンタルホテルに帰った。
新神戸オリエンタルホテルはJR三ノ宮駅から、真っ直ぐに北上し15分くらい歩いた所の突き当たりで、山を背にして建っている。35階がバーで、600室もあるホテルは、空に向かってそびえるように建っている。新神戸駅とも直結していて、新幹線との便がよく、オーパやハーブ園にも近い。もちろん異人館とも近い。
坂の上にそびえるように建っているので、ホテルの部屋の窓からは神戸の夜景が一望できた。山崎の泊まっている部屋の窓から見える夜景も最高に綺麗だった。
「香代さんにも見せてあげたいな」
そう呟いていた。
山崎は今日の疲れを癒す為にホテルの風呂に入った。
「今日は幸せだった。これから何かいいことありそうな予感がしてきた」
そう思えてきた。風呂から出ると、ベットに横たわり、持ってきた数冊のガイドブックを眺めながら、明日何処に行こうか考えていた。その後、寝ようとしたが、わくわくしてなかなか寝付けなかった。
香代が家に戻ると、部屋は寒かった。ニット帽と、マフラーと、手袋を脱ぐと、エアコンを付けた。カーテンを開けると、まだ雪は残っていて、日の当たっている時間が短かったせいか、朝見た雪の量と変わっていなかった。
「でも今日は楽しかった。山崎さんと知り合えて、ほんとうに良かった」
今日のことを思い出すと自然に笑顔になっていた。そして笑顔のまま神戸の夜景と屋根の上に降り積もった雪をボーと眺めながら、空想に浸っていた。
「最高のクリスマスね。こんな事、今まで無かった」
まん丸な目をくりくりさせながら、輝かせていた。
「明日は、もう少し親密になりたいな」
そう言うと、恥ずかしくなり、舌をぺろっと出した。そうしている間に部屋も温もってきた。
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4へつづく |
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