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15

 

 12月にも入ると、既に街はクリスマス色に染まっていた。近くの商店街も、クリスマスのデコレーションをし、クリスマスソングを流していた。1年の内で恋人どうしが一番楽しめる時期だ。

 いつもの喫茶店で武は1時間待ったが、かおりは来なかった。

 武は店にある公衆電話から、かおりに電話をすることにした。

「どうしたん?ずっと待っとんやけど」

「ごめんなさい」

 かおりは泣いて言葉にならなかった。

「ひどいことをしているのは判っている。でも、もう武さんとは会えない」

 かおりは本当は別れたくはなかった。しかし苦しみの決断だったのだ。

「この前はホテルで、あんなに楽しそうにしとったのに」

「・・・」

「パーティーでもあんなに楽しそうにしていたのに」

「・・・」

「プロポーズもしたのに、あれも全部無効にするの?」

「私には弟がいるの。その弟は今苦しんでいるかも知れないの。弟が見つかるまでは、私は幸せにはなっては行けないの」

 かおりは泣きながら答えた。苦しい決断をしたと言うのが武にも伝わってきた。かおりは金持ちになるかも知れないと言うのを捨てまで、弟を選ぶことを決断した事に対して、武はかおりが弟を思う気持ちの強さを知った。そして、それ以上、何も言うことが出来ず、電話を切った。

 そして、これが最後の別れの言葉となってしまったのだ。実質、武がふられると言った形となったが、かおりとしても辛い。振るつもりはなかったのだ。これから、このまま幸せになるのではと思っていた矢先の出来事だったのに。暫くいい生活を送ってからの挫折なので尚更辛い。しかし、かおりは自分の幸せよりも弟の幸せをとったのだ。

 武としても、どうしてもやりきれない気持ちになった。自分では解決出来ない問題が浮上し、武にとっての悩みの種にもなった。どうして幸せを妨害する要素が浮上してくるのか。運命と言えば、運命だが、自分ではどうにも成らないことに対する怒りと、悔しさがこみ上げてきた。

 

 武は教習所をようやく卒業することが出来、後は運転免許の試験を受けるだけになった。クリスマスは、かおりを連れてドライブと考え、急いで免許を採ろうと頑張っていたのに、今はかおりは離れていってしまい、急にやる気を失った。

 かおりに振られて、急にすることもなくなり、時間をもてあましていると、心にポッカリ穴が空いたような感じがする。寂しさを埋めるために毎日友達を呼び、夜遅くまで、麻雀をしたりして気持ちを紛らわしていたが、ポッカリ空いた穴を埋めることは難しかった。しかし追い打ちをかけるように、武には更にどん底に落ちる出来事が待っていたのだ。

 この日の夜も遅くまで、友達を自分の部屋に連れ、麻雀をしていた。心の傷を埋める為にしている麻雀なので全然楽しくない。気合いも入らず、負けっ放しだ。こうなると、どんどん気持ちが落ち込んでいき、自分は生きていてもしょうがない人間だと思うようになってくる。

 武は自分の順番が回ってきても、やる気が起きず、酒をラッパ飲みしだした。

「おい、飲み過ぎちゃうか?」

「ほっとってくれ、俺なんかどうなってもいい人間なんや」

 佐々木雅彦が飲むのをやめさせようとするが、そうすると武は暴れ出す。

「あんな素朴な女、どこにでもいるぞ。お前には金持ちの女が相応しいはずや」

「あの女の悪口を言うな。あの女は何処に出もいるような女ではないんや。他の人にはない優しさというか、母性を持っていて、何か包まれるような愛情をもっとんや」

「女にふられたぐらいどうした。誰だって一度や二度は振られることはあるで。諦めて、次の子を狙えばいいやろ」

「人ごとやと思って、お前らに俺の気持ちが分かるか」

 武は普段にはない言葉遣いで、乱暴になり手が付けられなくなった。そして暴れた勢いで麻雀卓をひっくり返し、それを見ていた友達は唖然とした。しかし武の手から酒の瓶を離すことはなく、ヨタヨタしながらも、ラッパ飲みを続けた。

「おまえら、もうけいれ」

 ろれつも回らず、足も縺れ、その場に倒れてしまった。

「大丈夫か?」

 鈴木章一が慌てて近づいた。

「俺の事はほっといてくれ。もう帰ってくれ」

「判った、今日は帰るから。でも、もうあんまり気にするなよ」

 そう言うと友達3人は帰って行った。後に残された武は倒れたまま、朝まで眠ってしまった。

 

 翌朝、部屋に差し込む太陽の光で武は目を覚ました。

「あれ?」

 周りを見渡すと、麻雀宅がひっくり返っていて、酒の瓶も辺りに転がっているのを見て、昨日のことを思い出した。起きあがろうとすると、頭が痛い。

「昨日、悪酔いしてしまったな」

 少し反省したが、かおりの事を思い出し、やっぱり忘れることが出来ない。

「なんで会ってくれへんのや」

 しかし考えようとすると頭が痛くなった。

「今日は久しぶりに外に出かけようか?」

 暫く学校も休みに入り、かおりに振られて以来、家にこもりっきりだったことに気づいた。そう考えると少し元気が出てきた。

「もう、かおりの事は忘れよう」

 そう考えると、更に元気が出てきた。

 街を歩くと、やはりクリスマスのイルミネーションで飾られていた。それを見ると、またかおりの事を思い出して寂しくなってくる。しかし今日は、更にショックな出来事が起こることになる。

 運転免許の試験を受ける為に、区役所に住民票を取りに行っていた。待合室で順番をボーと待っていると、やはり思い出すのはかおりの事。

「車の免許を採ったら、また誘ってみよ」

 昨日の酒のせいで、頭はガンガンし、時々物が二重に見えた。暫くすると名前を呼ばれたので、住民票を受け取った。

 帰路をトボトボ歩きながら、住民票をボーと眺めていると、見ては行けない物を見てしまった。「養子」の文字が書かれていたのだ。武は最初は目を疑がい、文字が二重に見えるので、目頭を押さえながら、何度も見たが変わりなかった。あまりのショックで一瞬にして酔いが覚め、顔から血の気が引いた。

「俺、養子だった?まさか!」

 同じ言葉が何度も何度も頭の中を駆けめぐった。

「親だと信じていた人は養父、養母やったんや」

 そう思うと、何もかもが信じれなくなってきた。かおりも離れていき、親までが離れていき、ひとりぼっちになった気になった。

「俺は1人なんや」

 急に悲しくなり、涙が出てきた。

「ちきしょー。なんでなんや。俺はこれから1人で生きていかんと、あかんのんか?かおりにも見放され、父にも母にも見放され、後は誰を頼って生きていけばいいんや」

 何か死にたい気持ちになってきた。

「今まで、そんな事とは知らずに、のほほんと生きてきたのか。なんてのんきに生きてきたんや」

 悔しさで涙が溢れていた。

「かおりも俺のこんな所を全て見抜いていたのかも知れない。金持ち面しとったけど、俺も金持ちにはしっくり来なかったし、金持ちを装った変な人に見えていたのかも知れない。だからそれほど俺の事を好きではなかったんや。そんな俺に嫌気が差したのかも知れない」

 何か全てが嫌になってきた。考え過ぎと言えば考えすぎだが、悪いことは重なるもので、ドンドン悪い方向に考えてしまう。武はかおりに振られたことと、本当の両親はどこに居るのかと言うことで、一気に悩みが2倍に膨れた。

「俺はもう立ち直れないかも知れない」

 何処をどう歩いたのかも分からないくらい思考に没頭し、いつのまにか家に着いていた。

「お帰り」

 家に帰ると、武はよそよそしくなった。本当の母ではないと思うと、何かぎこちなくなる。このことを母に問いただした方がいいのか、それとも自分の心に、しまっておいた方がいいのか葛藤した。しかし、この気持ちを親にぶつけて、もし悪い方向に行くと嫌なので、自分の心の中に仕舞うことにした。

 

 12月20日。

 武は無事免許を採ることが出来、BMWを親に買って貰ったのに、隣に乗せる人もいない。更に自分の出生も判らないままで、2つの悩みをもったまま悩み抜いたあげく、子供の頃から気になっていた琵琶湖に行けば、なにか判るのではないかと考えるようになり、1人で車を飛ばして琵琶湖に行くことにした。

 武は1人で寂しく、誰にも言わずに高速を飛ばして大津に向かった。2時間あまりで大津に着いたが、何処に行ったら手がかりがあるのかさっぱり判らない。琵琶湖が広いのもあるし、何を探したらいいのかさえ自分では判っていないのだから。

 とりあえず琵琶湖まで近づくと、車を停めて、砂浜に座った。こんな時期に湖に近づいてくる人など誰もいない。湖から運ばれてくる風が冷たかった。寄せては返す水を見ていると、まるで海のように感じられる。武はコートで身をまとい、ボーとしているが何も手がかりは無かった。寒くて1時間くらいいるのが限界だった。もうお昼だと言うのに、手がかりを見つけることに必死になり、昼食を食べるのも忘れていた。

 体が冷え切ったので、近くの自動販売機で缶コーヒーを買い、車に持ち込んだ。車の暖房をつけ、缶コーヒーを飲んでいると、次第に体は温まってきて、心まで温かくなってくる感じがした。どこに行ったらいいのか判らない。停まっていても何の手がかりもないので、取りあえず車を走らせることにし、琵琶湖の外周を回ることにした。この頃、もう太陽は沈みかけていた。

 暗くなってくると急に寂しくなってきた。何も手がかりが見つからないまま時間も遅くなったので、近くのホテルで泊まることにした。

 ホテルに泊まると、まず入ったのは温泉だった。ここで冷えた体を温めたかった。やっぱり温泉のお湯に浸かると気持ちよかった。身も心もリフレッシュされ、悩んでいた心も次第に解きほぐされていった。

「たまには温泉もいいな。かおりと一緒にこれたら良かったのにな」

「養子の事はどうでもいい。育ての親の方が大事やな」

 本当に身も心もリフレッシュされ、温泉に浸かってリラックスしたことで、忘れていた事が思い出だされてきた。

「そう言えば、かおりさん弟を養子に出したっていってたな」

 そう思った瞬間、武の表情が一変した。しかし直ぐに打ち消した。

「まさかー。かおりさんが僕のお姉さん?そんな偶然有るわけ無いで」

 そして小さい頃の記憶がフラッシュバックされた。

「そう言えば4歳の時に、僕に会いに来た叔母ちゃんが居て、泣きながら僕をおもいっきり抱きしめたことがある。あれが本当の、お母さんなのか?」

「すっかり忘れていたけど、あの人いったい今どこにおるんやろ?どんな顔しとったかな?」

 そして思い出そうとするが、小さい頃の記憶なので思い出すことが出来ない。さらに疑問が次から次へと湧き上がってきた。

「今まで金持ちの生活がしっくり来ないと思っとったけど、本当の両親の家は貧乏ちゃうか?」

「海が怖い、水が怖いと言うのも、琵琶湖と関係あるのかな?」

 疑問がドンドン湧き上がるが、どれも解決できない。

「何か他に手がかりになる事無いかな?」

 頭の中の記憶をかき回すように一生懸命考えたが、これ以上は何も浮かばなかった。

 夜、布団の中に入っても、さっきの事が頭から離れなかった。

「本当にかおりさんと兄弟なんか?どうしたら、ハッキリした答えが見つかるかな」

 いろいろな事を思い出し、いろんな事を考えたあげく、次の瞬間、頭の中を激しい電流が流れ、1つの解決策が見いだされた。

「そうだ弟さんの生年月日を聞こう。生年月日なら、かおりさんも憶えとうはずやし。それさえ判れば、解決すると思う。これで全ての答えがハッキリする。明日、朝一番に電話してみよう」

 そう思うと、疲れていたので、直ぐに眠りにつくことが出来た。

 翌朝、武はかおりに電話をしていた。かおりが出勤する前に確認したかったので、朝早くに電話をした。ふられた後なので掛けにくかったが、勇気を振り絞って掛けた。

「こんな朝早くからご免」

 そう言うと武は緊迫した言葉で言った。

「切らないで、1つだけ教えて欲しいことがある」

 かおりは武の緊迫した喋りに緊張した。

「何?」

「弟を養子に出したって言ったけど、その弟の生年月日教えてくれる?」

 かおりは変な質問に驚いた。

「どうして?」

「僕も弟さんを一緒に探そうかと思って、何か手がかりになることが知りたいから」

「あー、もう出かけないと行けないの」

「その前にちょっとだけ教えて」

 かおりは出勤の時間が近づいていたので焦っていた。

「えーっと、私と2つ違いなので昭和42年。それで誕生日が7月17日」

 その言葉で武の疑問が氷解し、あまりの驚きに息が止まりそうになり、顔面蒼白になり、口は開いたままだった。

「もしもし、もしもし、どうしたの?」

 返事がない武に、かおりは不安になった。武は、かおりの声でやっと我に返った。

「いや。ありがとう」

 そう言うと、武は泣き出した。

「どうしたの?」

 かおりは心配そうに聞いた。

「かおりさんの弟が見つかった」

「えっ!」

 かおりは驚いたが、半信半疑だった。

「どこいるの?」

 かおりは疑りながらも、嬉しそうに聞いた。

「クリスマスイブの夜に、いつもの喫茶店に来てくれる」

「喫茶店に?」

「そこで全て話す」

「うん。判った」

 武は電話を切った後、涙が溢れていた。

 電話を切り、ホテルを出ると、すぐに神戸に向かった。早く、かおりさんに自分の事を伝えたいと思うと、嬉しくなり、久しぶりに幸せに包まれた気持ちになれた。今までの悩んでいたことが嘘のように晴れ、嘘のように幸せな気持ちになってきた。しかし、それとは裏腹に育ての親に対しては、どう接していいか悩むようになった。

 車が、京都に差し掛かったときに、あることが思い出され、また全身に電流が駆けめぐった。女の人の顔が脳裏に蘇ってきたのだ。それは4歳のときに家に来て自分を思いっきり抱きしめた女の人の顔だ。その人の顔がハッキリと脳裏に蘇ってきたのだ。それが、この前会ったかおりのお母さんと酷似していて、2人の顔が脳の中でダブったのだ。

「同じ人だ!」

 そう思うと、かおりが姉であることは間違いないと更に強い確信へと変わった。

 

 クリスマスイブの日、辺りではジングルベルが流れていた。そこに着飾ったかおりは、弟に会えると意気勇み、いつもの喫茶店に向かった。人混みの中はカップルが多く、その中を歩いていると、突然雪が降りだした。今年初めての雪だ。まさに雪が幸福を運んできてくれたかのように感じた。

 喫茶店に着くと、すでに武は座っていた。かおりは武をふった後の再会なので、どう接していいか分からず、顔から笑顔はなかった。

「久しぶり」

 武はそう言うと、緊張した顔をして、かおりを凝視した。

「どうしたの?」

「あー、ごめんなさい」

 武はかおりを久しぶりに見るのと、かおりを初めて姉と言う気持ちで見たので緊張した。かおりが席に着くと、武が膝に抱えていたバラの花束を渡した。渡された、かおりは驚いた。

「何?」

「今日はクリスマスイブやから」

「あっ、ありがとう」

「かおりさんには幸せになって欲しいから」

 武は大好きな姉に会えたことで嬉しく、目は潤んでいた。

 お互い緊張していたので、沈黙が流れた。暫くの沈黙の後、かおりは重い口は開いた。

「あ、それで、弟は?」

 その言葉に、とうとう話さなければ行けないときが来たと思い、武は緊張した。

「よく聴いて下さい」

 武はかおりを凝視した。

「うん」

 かおりは武を凝視したまま、唾を飲み込んだ。

「弟は、目の前にいる僕です」

 武は目を潤ませながら、ゆっくり言った。

 暫く、沈黙が流れ、かおりは目をきょろきょろさせ、色々な事を考えた。

「何言っているの!?」

 と言い、怒った。無理もない話だ。急に弟と言っても、信じる事が出来なかった。縒(よ)りを戻す為の口実にしか、思えなかったのだ。

「何から説明したらいいのか・・」

 武はゆっくりとそう言って、また話を続けた。

「まず僕の生年月日は昭和42年7月17日」

 そう言うとかおりの目は驚いた目に変わった。でもそれだけで弟と判断するわけにはいかなかった。武は緊張のあまりコーヒーを飲んで喉を潤した。

 その瞬間、かおりは怒った。

「なんで、そんな嘘言うの。私と会いたいからって、そこまで嘘を付かなくても」

 そう言うと、かおりは悲しそうな顔をした。そして更に怒った。

「私、帰る」

 暫くの沈黙の後、かおりは立ち上がったかと思うと、一言言って出て行った。かおりが、武の話を信じる事が出来なかったのは、武はきつい継母の元に引き取られて、虐められていると言う思いを15年持ち続け、それを現実のように錯覚していたのだ。だから金持ちの格好をした武が目の前に現れても、それを受け入れる事が出来なかったのだ。

 後に取り残された武は悲しかった。実の弟が姉に信じて貰えない事は悲しい。もう自分に対しての愛情は無いように思え、悲しかった。

 それ以上、説明しても、かおりは聞く耳を持っていなかった。武の目からは、悲しみで涙が溢れていた。潤んだ目で、窓を覗くと、雪が降っているのが見えた。

「素敵な日に再会できたと思ったのに。判ってくれると思ったのに。もう二度と会えない。今後どうしたらいいんや」

 そう思うと、寂しくなってきた。

 

 かおりは夜、布団に入ったときに今日の出来事を思い出した。

「武さんには、ちょっとひどいことをしてしまったな。あそこまでしなくても良かったのに。もう少し話を聞いてあげれば良かった。大人げないことをしたな」

 急に後悔の気持ちがこみ上げてきた。

「武さんの言っていた事は本当なのかな?」

「生年月日を言っていたけど、私が言ったから知ってたんじゃないの?」

 そしてかおりは昔の記憶の糸をたどっていた。

「そう言えば金持ちに対してしっくり来ないって言ってた。琵琶湖に何か怖い物を感じるとも言ってた」

 武がそう言っていたことを思い出した。

 そして更に記憶を呼び戻していた。素朴な女の子が好き、それに名前は武と一緒。共通点がいろいろあることに気づきだした。そう言えばホテルのバーで見た手袋、何処か見覚えがあると思っていたけどイニシャルはTN。

「あの手袋、弟が小さい頃していた手袋だ。何処で手に入れたんだろ?!」

 その後、武の顔が脳裏に浮かんできた。「パーマをとり、ネックレスをとり、貧乏な格好をすれば弟に似てるような気がする。目元、口元が、弟とそっくりじゃないか。あれ!なぜ今まで気づかなかったのだろう」

 そう言えば、初めて武さんを自分の家に招待し、母に彼の家を説明すると、母の様子がおかしくなったのを思い出した。

「どうして今まで気づかなかったのかな?てっきり継母に虐められていると思っていたから金持ちの家に居るとは思わなかったし、こんなに近くに住んでいると言うのも想像してなかったから」

 そして、この時、初めて今までのモヤモヤしていた点が、線に繋がったのだ。まるで事件を解決した刑事のように、全ての事象が線として繋がったのだ。これは間違いない。弟に間違いない。そう確信したのだ。

 その瞬間、かおりの目からは涙が溢れていた。今まで探し求めていた弟が、こんな目の前に居たなんて。

「明日謝らないと。弟が本当に居たんだ。明日、最高のクリスマスになるかも知れない」

 かおりは喜んだ。しかし弟との出会いを1日伸ばしたことで、この後、とんでもないことが起こるとは、このとき予想もしてなかった。

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16へつづく