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11

 

 かおりが食事をしている、すぐ横で食事をしていたのは、まさに19歳になる武だったのだ。この日は友達どうして食事をしたい気持ちだったので、大人は抜きにして、外の駐車場にはロールスロイスに運転手を待たせていた。

 友達も小学校からエスカレーター式の大学に通う人達で、みんな金持ちだった。名前は佐々木雅彦と鈴木章一だった。

 武は、まだ大学生になったばかりだというのにカジュアルなスーツを着こなし、白のワイシャツ、スラックス、革靴をはきこなし、胸元にはペンダントが輝き、少し高めの腕時計をしていた。髪型は、スッキリと短めで、きっちりとパーマをかけ、カジュアルだが乱れてはなかった。友達2人も同じようにカジュアルのスーツを着て、パーマをあてていた。

 3人が静かに足を組んでいる姿は、絵になるくらい美しかった。金持ちのオーラーをかもしだしていたのだ。店のオーナーも、それを感じとっていた。

 そこには昔貧乏だった武からは、かけ離れた姿になっていた。まったく同一人物には思えないくらいの姿で、また3歳までの武しか見てない、かおりには、武だという事を判るはずもなかった。

 高級な服装をしていると大学生には見えなく、かおりは自分より少し年上の社会人だと思い、住む世界が違う人のように見えた。

「あそこに座っている女の子、お前のタイプにぴったりちゃうか?」

 佐々木雅彦が武に喋りかけた。

「素朴で、お姉さんタイプで優しくて。そう言うのが好きなんやろ」

 武が静かに体を動かし、かおりを見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を打った。自分が理想としていた女性にまさにぴったりだったのだ。好きになるのも無理はなかった。小さい頃、よく可愛がって貰ったと言う記憶が、どこかに残っていて、それが理想の女性像を作り上げていたのだ。

「お前の家、金持ちなのに変わっとうな。素朴な人がいいって、どこか変わっとうで」

「誘ってみろよ」

 鈴木が言った。

「えー?!」

 武が今まで会った女性の中で、これほどまでに衝撃を憶えたのは初めてだった。まるで赤い糸で結ばれたような感じがした。当然と言えば、当然だ。兄弟という赤い糸で結ばれていたのだ。これ以上自分にぴったりの理想の女性には、2度と会えないような気がした。2人の友達に駆り立てられると、気恥ずかしい気持ちになり、声をかける勇気が持てなかった。

「お前が声かけへんのやったら、俺が声かけてあげるで」

「いや、ええで」

 武は理想の女性の前で緊張していた。

 

 佐々木雅彦はまっすぐに、かおりのテーブルに向かって歩き出した。めぐみは男が自分のテーブルの方に脇目もふらずに近づいてきている事に恐怖を感じ、息をのんだ。佐々木がかおりのテーブルまで近づいたとき、かおりの目を見た。そのとき初めてかおりは佐々木雅彦の存在に気づいて驚き、恐怖の色を見せた。しかし佐々木は、そんなことは気にもとめずに、しゃべり出した。

「あの人が、貴方を家まで送りたいと言ってます」

「えー!」

 武を見た瞬間、胸の鼓動が激しく高鳴った。服装、送迎品、乱れてない髪型、全てが自分とはかけ離れた世界の人だった。フランス料理の店に来ること自体が自分にとっては似つかわしくないのに、更に金持ちから声をかけて貰うなど、自分にとってはあり得ないことだった。

「いえ、大丈夫です。自分で帰れます」

 震えながら断った。

「じゃー、食事が終わりましたら、外で待ってますから」

 そう言うと佐々木は、自分のテーブルに戻った。戻ると3人はすぐに立ち上がり、スムーズに会計を済ませると、外に出て行った。

「かっこいい〜」

 それをジーと目で追っていためぐみが思わず口にした。それに反してかおりは興味がなかった。どうやって断ろうかと、緊張で震えが来るほどだった。

「どうしよ。外で待ってくれているのかな?」

「何で緊張するのよ。こんないいチャンス二度と来ないよ」

「でも貧乏人ってばれたらどうしよ」

「もうばれてるよ」

 めぐみは安心させる為に言ったのだが、かおりは少し冷たく感じたので、黙ってしまった。

「かおりすごいね。金持ちに見初められたんだから」

「そんな事無いよ。何かの間違いだから」

「そろそろ私たちも出よ。待たせると悪いから」

「私、どうしよ。裏口から帰る」

「何言ってるの。裏口なんか無いわよ」

 かおりは本当に震えていた。

 

 店を出た瞬間、男達が待ってくれていて、その先にはロールスロイスが待っていた。真っ黒に光ったロールスロイスが停められているのが、かおりの目にも映った。

「どうぞお乗り下さい。家まで送ります」

「いえ、困ります」

 かおりは金持ちに声をかけられた事への緊張と、自分が貧乏だと言うことがばれたときの衝撃を考えると怖かった。

「私、自分で帰ります」

 怯えながら言った。

「いいじゃない、せっかく送ってくれるって言ってくれるんだから。こんな経験二度とないよ」

 めぐみの説得で送ってもらうことになった。

 しかしロールスロイスの中では、かおりは絶えず怯え、隣に本当の弟が座っていると言うのに、顔を見ることすら出来なかった。今まで探し求めていた弟が、こんな側にいるというのに、かおりはそれに気づくことも無かったのだ。

 車中では2人の間にずっと沈黙が流れた。

「これ受けとって下さい」

 武は沈黙を破るように、電話番号と名前を書いたメモをかおりに渡した。

「いえ、困ります」

「何言ってるの。あんた、金持ちに声かけて貰っているのよ。もしかして将来、金持ちの奥さんになれるかもしれないのよ」

 めぐみはかおりを説得した。しかし、かおりは、家まで送ってもらうと、自分が貧乏人であることがばれる事に怯えていた。あんなおんぼろのうどん屋の前にロールスロイスを停めて貰う事が恥ずかしかった。そして外の景色など全く見えず、ロールスロイスに乗った感動も味わうことが出来ないまま家についた。

 これで家の前にロールスロイスが止まるのは2度目だった。弟を養子にするときに剛と麗子の夫婦が着たときだ。しかし、そのことをかおりは知らない。

「ここが彼女の家です」

 めぐみが武に彼女の家を伝えると、かおりは恥ずかしそうにして、逃げるようにロールスロイスを降りた。

 かおりは一度も振り向くことなく、お礼も言わずに、家の中に入った。それを見ていた、めぐみと武は呆気にとられた。

「チョッと変わってる子だね!」

「すいません」

 武の言葉に、めぐみが小さくなった。

「車を出してくれ」

 武は運転手に命令した。

 

「あら、お帰り」

 無表情のかおりを見て、母は驚いた。かおりは、母を無視して2階に駆け上がり、1人になり、さっき武から貰ったメモを見た。

「これがお金持ちの家の人の電話番号だ。でも、どう見ても一般の人と変わりはない」

 名前を見ていると、名字ではなく、氏名の方に目がとまった。

「名前は、弟と一緒だ。でも弟とは年も違うし、顔も違うし、家柄だって違う。同じ名前の人が近づいてくるなんて、何かの縁なのだろうか?」

 縁だと考えても、かおりには金持ちには興味がなかった。名前が一緒くらいで、それがどうした。名前が一緒の人など、この世の中にはごまんといる。かおりが本当に欲しいのは、本当の自分の弟と出会うことだった。それ以外に裕福な生活をしたいとか、金持ちに見初められたいと言った願望はなかったのだ。

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12へつづく