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更に歳月が流れ、かおりは20歳になりOLをし、武は大学に進学していた。かおりは前の会社を辞め、事務の仕事に就き半年になり、この会社自体は小さい会社で、10数名ほどのアットホームな会社だ。そこで女の子数人が働いていて、グレーの地味な制服を着せられていた。
未だに男の人とはつき合ったことがなく、言いよってくる人もいない。それに弟が現れるまでは自分は幸せになっては行けないと、自分に言い聞かせていた部分もあったので、男の人を寄せ付けないオーラーを出していたのかも知れない。
「ルーブル・ガーデンの招待券貰ったんだけど、一緒に行かない?」
会社の給湯室で同じ時期に入った山本めぐみがかおりを誘った。終業時間を迎え、かおりとめぐみは、社員の湯飲みを洗っていたのだ。
「えー、フランス料理の店でしょ。いいの私で。彼氏とかじゃなくって」
「知ってるでしょ。彼氏いないの」
「でも私、着ていく服ないし」
「そんなの何でもいいのよ」
かおりはフランス料理と聞いただけで少し緊張していた。
休みの日の昼、かおりとめぐみはルーブル・ガーデンの店の前に着ていた。店の玄関はこぢんまりしていて、青の日差しに、白の壁、大きな青の扉だった。その玄関先には緑が飾られていた。
めぐみが店の扉を開けると、外からは想像が付かないくらい奥行きがあった。かおりは遠慮しがちに、めぐみの陰に隠れた。
「私、こんな所に来るの初めてだから、何か緊張する」
店内は明るく、落ち着いた感じだった。人もそんなにはいなく、すいていて、天井が高く、天井も壁も白に統一され、床板も白、丸テーブルには白のテーブルクロスがかけられ、椅子は明るい青。店は海のコンセプトでイメージされていた。
全面ガラス張りで太陽の光が燦々と入ってきて、天井からのダウンライトの明かりで充分明るかった。
ウエイターが席に案内している間も、かおりはめぐみの陰に隠れて付いていき、ウエイターに案内されるまま、窓側の席に着いた。
めぐみは、どんな服でもいいと言いながら、自分だけはちゃっかり、おしゃれをしていた。かおりは家の中から出来るだけ、いいと思われる服装を探したが、そんなに高級な服装はなかったので、持っている中で一番上等なのを着た。服装は少し明るめの、赤のシャツに、オレンジの薄手のカーデガンを羽織った。しかしスカートは地味なのしかなく、グレーのチェック柄のものだった。この恰好でフランス料理の店にいるのが恥ずかしくなってきた。
「私、貧乏ってばれるんじゃないかな?」
「大丈夫よ!」
「何かみんな見て居るような感じがする」
「気のせいよ。もっと堂々としてればいいのよ」
かおりは穴があったら入りたいような心境だった。
窓からは手入れの行き届いた庭が見え、太陽を浴びた芝が青々と光っていた。
「綺麗ね。私一度でいいから、こういう店、来たかったの」
楽しそうにしているめぐみとは裏腹に、かおりは緊張して楽しんでなかった。
「私には、こんな所似合わないよ」
「せっかく来たんだから楽しみましょ」
そう言いながらも、きょろきょろ、おどおどしていた。
「もう帰ろ。胸が張り裂けそう」
「でもただなんだし、せっかく来たんだし。帰ったらもったいないよ」
「私のような人が来ていいのかな?」
「かおり、あそこ見てよ。あの人達も若そうだけど、貴方よりも、ずっと落ち着いていて堂々としているよ」
かおりが横を見ると、3人組の男は、ブランド品を身にまとい、静かに足を組んで座っていた。
「本当だ。若いけど、様になっていて、カッコいい。何かお金持ちって言った感じがする」
「なんかカッコいいね」
「本当。でも私とは次元が違う所で暮らしている人みたい」
「私、ああいう人と結婚したいな」
めぐみはうっとりした目で言った。
「やめときなさいよ。結婚相手はお金より、性格で選ぶものよ」
かおりは釘を刺した。
テーブルに最初に運ばれてきたのは生ハムのサラダだった。歯ごたえがあり、味のしっかり付いた生ハムが、レタスの上に載っていた。生ハムでレタスを包みながら食べると美味しかった。
そしてコーンスープが運ばれてきた。
「このスープ美味しいね」
「うん。普段家で食べる粉末のスープとは違うね」
「それはそうよ。お金かけてるんだから」
2人は笑った。
そしてメインディッシュが運ばれてきた。メインディッシュは鴨とトリフのパイ包み焼きに、フォアグラのステーキだった。かおりは初めて見る料理にビックリした。もちろんトリフもフォアグラも見たこともなければ、言葉さえ聞いたことがなかった。
「これ何て言う料理?」
「私も知らないわよ」
めぐみは聞かれても、めぐみも見るのも聞くのも初めての料理だった。
「何か分からないけど美味しいね」
「フランス料理ってすごいのね」
2人は感心しきっていた。
メインディッシュを食べ終わると、ケーキと紅茶が運ばれてきた。
「ケーキまで出るの?」
「フランス料理ってこう言うものよ」
「私、定食くらいしか食べた事無いから知らなくって」
「誰かに聞かれたら恥ずかしいよ」
「少しずつ持ってきてくれるのも高級な感じがするね」
「うん。普通に食べたら1万円以上はするわよ」
「えー。でもあそこに座っている男の子達、慣れて居るみたいだけど、よく来るのかな?」
「何か悔しいね。同じ人間なのに、どうしてこんなに格差が出来るの」
「でも私は今の生活でいいよ。金持ちなんかにはなりたくないよ」
かおりは、貧乏に生まれ育ったので、お金には興味が無かった。
「へー、謙虚だね」
2人は紅茶をすすりながら、楽しそうに喋っていた。
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11へつづく |
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