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 養子に出してから1年が過ぎ、武は4歳になっていた。新しい両親は、武を目に入れても痛くないくらい可愛がり、武は養子と言う事実を知らずにすくすく育っていった。だから仲間家に武を返してて欲しいと言われても、それに応じることは出来なかった。

 

 いつものように20人用のテーブルに3人で座っていた。今日の夕食はアワビのステーキに、手長エビのパスタ、サラダだった。

 剛が美味しそうにワインを飲んでいると、武が急にしゃべり出した。

「今日、来た人誰?」

「今日、誰か来たんか?」

 武の言葉に、父はビックリした顔で母に聞いた。

「う、うん。何か宗教の勧誘で。嫌ね変な人が来て」

 武の前あって、母は返事に困った。

「いきなり抱きついたからビックリしたで」

「どういう事だ?」

 ビックリした表情をしている剛に、麗子が合図を送ると、剛は察しが付いた。

「世の中には変な人がいるから気を付けろよ」

 何とかお茶を濁して会話を終えたが、仲間幸子は変な人で片づけられてしまった。

 武が食事を終え自分の部屋に行くと、父と母は更にワインを飲んだ。

「今日、武のお母さん来たんか?」

 剛は深刻そうな顔で麗子に聞いた。

「うん。それがね武を見た瞬間、取り乱してしまって号泣なのよ」

 剛は驚いた表情を浮かべて、沈黙した。

「それに、あの子返して欲しいって言ってきて慌てたわよ」

「返して欲しいっていったのか?」

 剛は驚いた。

「そうなのよ。急に来て、返して欲しいって言うからビックリして」

「あの子はもう家の子やからな。絶対返さんぞ」

 剛は、そう言うとワインを一気に飲んだ。

 

 更に半年が過ぎて夏を迎えていた。今日の朝食はサンドイッチだった。3枚のトーストの間の一方にはエビをすり潰した物にソースを混ぜたのを挟み、もう一方にはレタスとトマトとスモークサーモンを重ね、ドレッシングをかけてていた。

「おいしいなー」

「うん。おいしい」

 剛が武に言うと、武も嬉しそうに答えた。剛はカフェオレを飲み、武は今絞ったばかりの100%のグレープジュースを飲み、口の周りを青色に染め、父に屈託のない笑顔を見せた。

「お父さん!食事終わったら、遊ぼ」

「お父さんな、今から仕事やから今日は無理やな」

「えー」

 武は悲しそうに答えた。

「その代わり、今度の休みの日には旅行に行こか」

「やったー。本当に?楽しみにしとく」

 武は嬉しそうにはしゃいだ。

 

 剛は仕事を忙しい中、3日間の休暇をとり、家族で沖縄に行くことにした。武にとっては初めての旅行、初めての飛行機とあって、はしゃいでいた。沖縄の照りつける太陽は眩しく、ココナッツの匂いが常に漂っていた。

 ホテルはムーンビーチにある高級ホテルを予約した。ホールの床と柱は大理石で出来ていて、最上階の23階まで吹き抜けになっている。エレベーターは透明なカプセルになっていて、中から目の前の海が見えた。

 ホテルの従業員に案内され23階まで上がり、そこのスイートルームに3人は入った。ドアを開けると長い廊下が続き、10歩くらい歩いた所に2つめのドアがあり、そこからが部屋になっていた。中には2つも部屋があり、1つはベットルームになっていて、もう1つは広いリビングになっている。その部屋には大きいソファーが2つに、大型画面のテレビが置いてあり、バルコニーも付いていて、そこから沖縄の青い海を見ることが出来るのだ。浴室は白を基調とし、湯船は寝ころべるくらいの広さがあり、浴室に付けられたスピーカーにはリビングのテレビの音が鳴るように作られていた。

 暫くすると頼んでおいた軽食と飲み物が運ばれてきた。剛と麗子はブルーハワイを飲み、武は椰子の実のジュースを飲んだ。口当たりよく、暑かったせいもあり、一気に喉に流し込んだ。暑さで少しバテ気味なのでお腹もそれほど好いてない。しかし武はハンバーガーを美味しそうに食べた。

「さー、そろそろ海に行くか?」

 食べ終わった後、父がそう言うと、着替えて海に向かった。

 どこまでも続く青い海に、白い砂浜、雲一つ無い真っ青な空、照りつける太陽、全てが最高だった。リゾートしていると言った感じで、剛も久しぶりに仕事の疲れを癒せると感じた。

 剛と麗子は、暫くは寝転がってゆっくりしたかったが、武はじっとしていなかった。武の手を剛と麗子が片手ずつ繋ぎ、海に向かって歩いていった。寄せては返す波が武に向かってきて、波飛沫が武の顔にかかった瞬間、武は、すごい勢いで泣き出した。それを見た父は武を抱っこして沖の方に連れて行こうとしたが、武は異常なくらいに泣き出した。それから、どうやっても泣きやまなくなったので、剛はあわてふためいた。

「悪かったよ。まだ海はチョッと早かったな」

 3人で海岸の方に戻る事にした。

「海はチョッと早いみたい」

「まだ小さいからね」

 しかしこの時、泣いたのは小さいからだけではなかった。昔家族で心中しようしたときの記憶は憶えてないが、そのときの恐怖感が記憶に染みついていたのだ。それ以来、海などに来るのは初めてだが、大人になっても大量の水を見ると恐怖を感じるようになった。

 

 ホテルの中央部は吹き抜けになっていて、周りには椰子の木が植えられていて、その周りには松明が燃やされていた。吹き抜けの下はレストランで、夕食の時間、ステージではリンボーダンスのショーが催される。

 そこで3人はステーキ、ヤシガニをボイルした料理、沖縄そば、豚足、モズクのサラダ、フルーツの盛り合わせを食べた。次々に出される料理に3人は舌鼓を打った。そして父と母は泡盛を飲んだ。

「久しぶりリラックスできたな」

「たまには3人で旅行できるといいね」

「そうやな。来年はフランスでも行こうか?」

 父と母はほろ酔い気分で、いい気分になっていた。その横で武はヤシガニを美味しそうに食べていた。

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8へつづく