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 幸子は財前家の前に着くと、玄関の前で緊張していた。

「始めてくるけど、立派な門扉ね」

 2m以上もある鉄の門構えが、幸子の前に立ちはだかっていた。自分とは住む世界が違うように思えて、緊張していたのだ。

 緊張する指で、玄関横のインターホンを押した。応答を待っている間も緊張が続いた。暫くするとインターホンの奥から声がした。

「はい」

「あのー、わたくし仲間と言うものですが、奥さんはご在宅でしょうか?」

「はい、どうぞ中にお入り下さい」

「えっ!」

 あっさり、この豪邸に入れて貰えるのかと思い驚き、また緊張した。

「この門扉、勝手に開けていいのかしら?」

 そう思いながら、その鉄の門扉を、恐る恐る開けた。門扉を閉め、玄関までのアプローチの距離は20mもあり、緊張しながら玄関まで歩き出した。

「アプローチの距離が、仲間家の敷地より長いなんて!神様は、どうして、こうも不公平に作ったのかしら」

 家も立派な家なのでビックリした。

「一体何人で暮らしているのかしら?私たちにも一部屋分けて欲しいわ」

 そう呟きながら玄関まで歩くと、玄関のドアが開いた。

「さー、どうぞ。中に入って下さい」

「あっ、あの時の奥さんだ。息子と引き取りに来てくれたときの奥さんだ」

そう思うと緊張し、唾を飲み込んだ。

「すいません、突然来たりして」

「いいんですよ。いつでも会いに来て下さいね」

玄関を上がると玄関横の部屋に通された。和室の立派な部屋で、黒い立派な柱があり、襖絵が描かれていた。部屋の中央に置かれたテーブルも、高そうなテーブルだった。

 幸子は、周りを傷つけないように、ゆっくりりと、忍び足で歩いた。畳に座るときも、畳を擦らないように気を遣い、ゆっくりと座った。凄く緊張して、居心地が悪かった。

 そこへメイドらしき人が、お茶を運んで来てくれた。

「どうぞ」

メイドはお茶とケーキを母の手前に差し出した。幸子はブランド名は判らないが、ケーキを載せた皿も、湯飲みも立派なものに見えた。

「有難うございます」

 幸子はお礼を言い、初めて目の前にするケーキを見て驚いた。幸子はほとんどケーキを食べたことがなかったのだ。この時代は、普通の家でもケーキを食べる事は少なかったし、まして仲間家にとっては、普段の生活も大変なのに、贅沢品にお金を掛ける事は出来なかった。

「今までお呼び立てもせずに、申し訳ありませんでした。たまには家に来てもらって、武君の成長を見て貰ってもかまわないですよ」

 ケーキまで出して貰って、親切な対応をしてくれる奥さんに、幸子は切り出しにくくなった。

「今、武を呼びます」

「武を呼んできて」

 奥さんは、そばにいるメイドに頼んだ。

 しばらくすると武は来たが、4歳になり、すっかり大きくなっていた。それを見て子供と言うものは成長が早いものだとつくづく実感した。

「ちゃんと挨拶しなさい」

「こんにちは叔母ちゃん」

 その武の言葉に幸子は涙が出そうになってきた。自分を母親だって憶えてない事にショックを感じたのだ。当然と言えば当然だが、突然の涙を抑えることが出来なかった。眼に涙を溜めながら武を凝視して、懐かしさと悲しさで目を離すことが出来なくなっていた。その行動に武は少し怯えた表情を浮かべ、それに対して母はまた悲しくなった。

 幸子は立ち上がると、目を凝視したまま、とぼとぼと武に近づいていった。「武」そう言いたかったが、それはぐっと我慢した。武の側まで行くと、武をぐっと抱きしめた。目には涙を溜め、キツく、キツく抱きしめた。ここでも、「武」と言いたかったが、ぐっと抑えた。

 武にとったは、知らない叔母さんが急に来て、急に抱きしめられるのは少し気持ち悪かった。1分くらいジーッと抱きしめていたと思う。それを見ていた奥さんは息子に気を遣いながら、幸子に言った。

「大丈夫ですか?」

「あー、ごめんなさい」

 奥さんの言葉に我に返り、息子から離れると涙を拭いた。武は何が起こったのかさっぱり判らないと言う表情を浮かべている。知らない人が来たかと思うと、涙を流しながら、いきなり抱きつかれたのだ。

「外で遊んできなさい」

 呆気にとられている息子に奥さんが言った。 息子は3歳までの記憶は残ってないが、このときの驚きの記憶は大きくなってからも鮮明に残すこととなった。

「奥さん!行動を慎んで下さい。あの子は、もう家の子なんですから」

「すいません」

 そう言ったものの、「もう家の子なんですから」と言う言葉は辛かった。もう元には戻せないという事だ。息子に会って、こんなに悲しくなるとは、会うまでは想像もしてなかったのだ。しかし成長した息子を見た瞬間、懐かしさがこみ上げて、思わず抱きしめてしまった。

「あのー、今日来たのは相談したいことがあっての事なんです」

 母は涙を拭きながら、勇気を出して切り出した。

「どう言ったことでしょう?」

 奥さんは深刻な表情を浮かべた。

「勝手だとお叱りになられるかも知れませんが、あの子を私どもに返して欲しいのです」

 その言葉の後、奥さんは暫く考えた。さっきの行動を思い出し、幸子の辛さも判るので静かに答えた。

「夫も、あの子が来てからは、すごく明るくなったし、とても大切に育てているんですのよ。それに小さい頃の記憶は、もう無いのですから。あの子も私や夫を本当のお父さん、お母さんと思っているんです。今から本当のお父さん、お母さんと言っても、あの子は戸惑ってしまいますわ」

 武のさっきの戸惑った表情を思い出すと、それは正しいと思った。そして母は、もう取り返しのつかないことをしてしまったと後悔し、また涙が出てきた。

「さっき会って、私の事を忘れた事は判りました。もう元の生活には戻れないんですね」 そう言うと号泣した。

「奥さん大丈夫ですか?」

 息子と会うことが、こんな悲しみに繋がるとは想像してなかっただけに辛かった。

「あの子をお返しすることは出来ませんが、いつでも会いたいときには家族揃って来て下さい」

 奥さんはそう言って慰めた。

「家が貧乏だったばっかりに」

 母は唇を振るわせながら言った。

「あー、あっ、あっ、あっ」

「奥さん、しっかりして下さい」

 そう言いながら、麗子は幸子を立たせた。

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7へつづく