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武を乗せたロールスロイスは暫く走ると、長く続く城のような外壁が見え、外壁沿いに車を走らせ、また暫くすると大きな門扉が見えた。そこが財前家の裏口だった。普段は、そこの大きな門扉から車が出入りしていた。
ドライバーはもちろん財前家が雇った専属のドライバーだ。門扉は厳重な鉄で出来ていて、ドライバーがロールスロイスから降りると、力を入れて押した。かなり重く、体で押さないと動かないものだ。車は広い庭に乗り込むと、いつもの停車位置に車を停めた。
夫の剛と、武を抱いた妻の麗子は車の中から降りてきた。
敷地は500坪はゆうにある広さで、まるでフランスの城を思わす建物が敷地の真ん中に建っていた。それが財前家の家だった。この時代、桁外れの金持ちだったのだ。
剛の仕事はフランスの高級な家具などの装飾品を輸入し、それをホテルや金持ちに売るのが仕事だった。
高級品を売るには、自分も高級であることをアピールしないと行けないので、着ている服装、腕時計などの装飾品は全てブランド物だった。普通は、この当時、金持ちと言えば嫌みな感じであったが、全くと言っていいくらい嫌な噂が立たない。旦那も奥さんも人当たりよく、近所の人との交流があり、近所の人からも評判が良かった。
一度、泥棒に入られたことがあるが、そのときは泥棒をとがめることなく、食事まで振る舞ってあげたらしい。そのときは泥棒は恐縮しきり、普段食べたことのない料理を見て震えながら食べた。そして帰るときに旦那さんに感謝して、
「もう二度と悪いことはしません」
と言い、帰っていった。その噂が噂を呼び、更に事業は発展していった。更に泥棒は、このときの恩を一生忘れる事はなく、数年後、会社を立ち上げる事に成功した。財前家にお返しがしたいと考え、取引をしたいことを申し出ると、財前家は快く受け入れてくれた。そして今でも、その人とは取引をしている。
「あの人らは性格がいいから、立派になれたんや。性格が高級やから、金持ちになれたんや」
と近所の人は噂していた。
剛が家の玄関を開けると天井にはシャンデリア、床は大理石の広い廊下で、中央には2階へ行く階段がドーンと鎮座していた。廊下、階段の手すりは黒塗りの風格のある木製で、数々の創芸で彩られていて、廊下の壁という壁には絵が飾られ、風格と威厳をかもしだしていた。壁のブラケットはフランス王朝時代を模したものだ。
リビングは20坪の広さで、リビングだけでも仲間家がすっぽり入る大きさだった。テーブル、椅子、家具、シャンデリア、ソファー、絨毯などの装飾品も全てフランスからの輸入品で、フランス王朝時代を彷彿させれる品物の数々だ。
ダイニングは20人は座れるテーブルだが、普段はそこで旦那様と奥さんの2人でしか利用してなかった。キッチンはレストランの厨房みたいで、ここで専属のシェフが料理を作っている。キッチン以外にもバーカウンターや寿司カウンターもあり、お客さんを招いたパーティーなどに使われる。
奥様のベットはフランスの王朝時代のお姫様が使われていたようなベットを使っていて、他にもシアタールームやビリアードをする部屋もあり、全部で20部屋もある。
いつものように20人用のテーブルに2人は座っていた。麗子の膝の上には武が、大事そうに抱かれていた。
今日の夕食は、神戸牛のステーキに、フランスから取り寄せたチーズ、コーンスープ。そして赤ワインだった。
「今日は本当に幸せな日や。武が家に来ることになって、こんな幸せなことはない」
剛は赤ワインを飲みながら、嬉しそうに言った。
「私たちお金はあったけど、子供は出来なくて。世の中には、お金ではどうしようも無いことはあるのね」
「今日は幸せに酔えそう」
柔らかい神戸牛を口に放り込むと、すぐに口の中で解けた。その後、口の中を洗うようにワインを流し込んだ。
「おーい」
剛が言うと、シェフが飛んできた。
「何でございましょうか?」
「今日は記念の日やから、もっといいワインを持ってきてくれ」
「かしこまりました」
そう言うとシェフはワイン蔵に入り、ワインを持ってきた。
「これは旦那さんの生まれた年のワインです。この日の為に封を切らずに置いておきました」
「うん。それを開けてくれ」
そう言うとシェフは手慣れた調子でワインの封をあけ、剛のグラスに注いだ。
「これは上手い。柔らかい口当たりで、濃厚な味。鼻に抜ける感じがいい」
そう言うとシェフに笑顔を見せた。
「ありがとうございます。奥さんまもどうぞ。今日はおめでとうございます」
「今日から私たちの子だからね」
「かしこまりました。財前家の王子様ですね」
「大ばあね」
そして3人は笑った。何も判ってない武は横でジュースを飲んでいた。その横で2人は幸せを噛みしめながらワインを飲んでいた。そこにシェフが近づいてきてデザートを持ってきた。
「イチゴのタルトです」
パイ生地でイチゴジャムを包み、上にはたっぷりの生クリームが載っていた。この当時、甘い物を食べれるのは金持ちの象徴だった。
「シェフはすごいな。ソムリエもパティシエも全て兼ね備えて、いつも食事も美味しいし。給料アップも考えとくから」
「ありがとうございます」
シェフは深々と頭を下げた。
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5へつづく |
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