TOP > 小説 > 桜の咲く頃

19

 

 数ヶ月後、2人の結婚式が催された。結婚式の前日、ゆり子は実家に帰り、結婚式の当日の朝早くに、父の車で式場に向かう事にした。前の日の晩、ゆり子は幸せを噛みしめながら床についた。そして母の夢を見た。

「ゆり子おめでとう、明日は結婚式ね。お母さんは、あなたが幸せになることをずっと願ってたのよ」

 夢の中で、お母さんは泣いていた。

「何度も言うけど、お母さんが死んだのは、あなたのせいではないのよ。気にしなくていいのよ。あなたが幸せになることが、お母さんの一番の幸せなのよ」

「お母さんごめんね」

 ゆり子は泣き出した。

「私、幸せになる。お母さんの分まで生きるから。誓うわ」

 

 翌日、朝早く父の車で神戸に向かった。

「とうとう結婚式だな。お父さん、泣くかもしれんな」

 父の言葉に、ゆり子は助手席で、既に泣いていた。

「お母さんが早く死んだんで、お父さん1人で、お前をここまで育てたんだ。母さんを知らずに育ってきて、お前も可愛そうな思いをさせたな」

「お母さんが死んだのは私のせいなの。私がお母さんを殺したの」

 そう言うとゆり子は泣き出した。

「ゆり子が居なくなると、お父さん1人になってしまうよ。これから、どうやって生きていけばいいか?」

 父は寂しそうな顔をして、泣いていた。「そんなこと言わないで。お父さんもいい人見つければいいのよ」

 

 結婚式は身内だけのジミ婚だったが、2人は幸せを噛みしめていた。チャペルは真っ白に塗られていて、床には真っ白なタイルが敷き詰められている。ギリシャを思わせる白い建物だ。チャペルの扉が開かれた瞬間、真っ白な鳩が羽ばたき、真っ青な空に飛び立ち、その直後に真っ白なウエディングドレスのゆり子と秋本が現れた。ゆり子は幸せを感じて泣いた。燦々と輝く太陽の光は、真っ白なウエディングドレスに反射し、輝いていた。

 

 結婚式の夜、新築の家に秋本とゆり子がくつろいでいると来訪者が現れた。2人が玄関に出ると、会社の若い女の子3人だった。

「ご結婚おめでとうございます」

「ありがとう。わざわざそれを言いに来てくれのか?」

「それだけじゃないんです。桜の苗を見つけたんで、プレゼントしようと持ってきたんです」

 その言葉に秋本は目を輝かせた。

「何処に行ってもなく、もうすっかり諦めていたんやけど、見つかったのか?」

「はい。庭に置いときましたので、後で見て下さい」

「上がって、お茶でもどうぞ」

 ゆり子はキッチンから出てきて言った。「2人の邪魔したら悪いので、私たちは、これで帰ります」

 そう言うと、さっさと帰っていった。

 

 秋本は翌日、朝早く目が覚めた。目が覚めると一目散に庭に出た。桜の苗を植えるためだ。太陽は今まさに上りだそうとしている時刻だ。庭からその景色を見ていると、最高に幸せを感じた。広い神戸の景色と、広い空が一望出来、広い大地に包まれているような気持ちになった。

「こんなにいい景色が見られるなんて幸せやな」

 スコップを持つと一心不乱に掘った。慣れないせいか疲れる。しかし汗は爽やかで、ハンカチでおでこを拭った。どこかで見た景色だと思っていると、夢で見たのと同じだったのだ。そしてまた掘り出して、横にあった桜の苗を手に掴み、その穴に入れ、土をかけた。丁度その頃、ゆり子が起きてきて庭に出てきた。

「あー、素敵ね。結婚式の次の日に植えたのね。これからは、この桜の木と一緒に成長していくのね」

「この木と、結婚年数は同じや。これからは2人で力を合わせて、どんな困難も乗り越えて、幸せを掴もう」

 秋本は力強く言った。

「はい」

 ゆり子は、秋本の目を見つめて、嬉しそうに答えた。

「ちょっと待ってて」

 そう言うとゆり子は部屋に何かを取りに行き、すぐに戻ってきた。

「一緒に写真撮りましょ」

 そう言うとセルフタイマーをセットして、庭のテーブルにカメラを起き、2人は桜の前でポーズをとった。

「俺達2人は、遅咲きかもしれないけど、今は幸せや」

「うん。私たち最初に出会ったのは、キャンパスの桜の木の下だったね。そして再会したのも桜の木の下、そして今も桜の木の下。なんか桜の木が幸せを運んでくれたみたい」

 そして毎年、桜の木の下で写真を撮り、成長過程を写真に収めることにした。数年後、2人には2人の子供も出来、幸せな生活を送っている。その家族の幸せを象徴するかのように、桜はぐんぐん生長し続け、太い幹と太い枝を付け、春になると見事な花を咲かせてくれるようになった。

 

 

桜で始まった物語は、

桜で終わった。

桜の下で出会ったとき、

不幸の歯車が回り始め、

逃れることの出来ない渦の中へ引き込まれていった。

桜の下での再会で、

不幸の歯車は修正され、

桜の苗が、幸せを保証してくれた。



おわり
最後まで、読んで頂き有難うございました。

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