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東尋坊から帰って数日後の昼、ゆり子が学校のレストランで、ポツンと1人で座っているのを、秋本が見つけた。彼女が自殺を考えている事が判って以来、秋本はゆり子に対して優しい気持ちになれた。秋本はテーブルにうつむいて悲しそうにしているゆり子に近付いて言った。
「ひさしぶり」
秋本は笑顔で、優しく話しかけた。ゆり子は、沈んだ表情のまま返事がなかった。
「ここ、ええか?」
ゆり子は静かに頭を下げ、秋本は前の席に座った。しかしゆり子は思い詰めた表情のまま、数分間、沈黙が続いた。秋本は、その空気に耐えきれず、その場を立ち去ろうと席を立った。
するとそのとき、ゆり子が意外な行動にでた。今までに見せたこと無い勇気を振り絞ったのだ。
「行かないで」
ゆり子は秋本の腕を掴んだ。そして腕の力はすごく強いものだった。女の力とは思えないほどの力で秋山の腕を掴んだ。そして目からは涙が溢れていた。
「もう何処にも行かないで」
と言い、涙を流しながら、すごい形相で秋本を見ていた。秋本は、ゆり子の今まで見せたことの無い行動に驚いた。ゆり子は相当の勇気を振り絞って最後のチャンスにかけたのだろう。しかし、この気持ちも秋本には伝わらなかったのだ。ゆり子の咄嗟の行動に秋本は驚き、どう対処していいのか判らなかった。この状態のまま、また沈黙が流れた。
この体勢が1分ほど続いたころ、側で声がした。
「ちょっと来て、見て欲しいのがあるの」
振り向くと麻紀が立っていた。麻紀の声が聞こえた瞬間、ゆり子の腕の力もゆるみ、うつむき、暗い表情を浮かべていた。最後のチャンスとばかりに勇気を振り絞って行動したが、それも報われなかったのだ。これだけ失敗ばかり続いていると、もう諦めの心境に慣れている。そして秋本は麻紀に付いていった。秋本が立ち去った後、ゆり子は更に泣き出した。
麻紀はさっさと歩き、その後ろから秋本が着いていった。その間、麻紀は後ろを振り向くことなく、秋本を見ることもなく、急ぎ足で前を歩いた。
「何、見て欲しい物って?」
見かねた秋本が、前を歩く麻紀に言った。
「やっぱりいい。また電話して」
そう言うと麻紀は急ぎ足で、小林の側から離れた。
「何だったんだ」
1人取り残された秋本は怒った。しかし秋本は麻紀の女の嫉妬心に気づくはずもなかった。
更に数日後、いつものように3人は朝、キャンパスで菓子パンを食べながら、ホットコーヒーを飲んでいた。寒くなってきたので、いつもは外で座っていたが、今日は店の中に座っていた。沈黙の後に小林が思い詰めた表情で発した言葉に、秋本は驚いた。
「彼女、学校やめて、実家に帰るんやって!」
「えー!」
秋本は驚いた表情を浮かべた。
「お前、まだ好きなら止めろよ」
小林は何時になく真剣な顔だった。
「これが最後のチャンスやぞ。これ逃すと二度と会えへんぞ」
うつむいて答えない秋本に更に言った。しかし、秋本は思い詰めた表情で、うつむいたままだった。
日曜日の朝、彼女の住むマンションの前に引っ越しのトラックが停まっていて、引っ越し屋が彼女の部屋から荷物を運び出し、トラックに積み込んでいた。小林と高橋も一緒に居て、秋本が来るのを待っていた。しかし秋本が来ないので、ゆり子は終始、元気がなかった。
「来うへんな」
小林が言うと、ゆり子はうなだれた。
「もうちょっと待ったら来るから」
高橋が励ました。しかし荷物が少ないので引っ越しはすぐに終わった。ゆり子を三宮の高速バスの乗り場までおくってあげる為に、3人は車に乗った。
「おい、秋本に電話せいよ」
小林が高橋に言った。
「もういいです」
ゆり子は気持ちの無い秋本を無理矢理連れてきても嬉しくなかった。そのとき秋本は家のベットを背もたれにして座わり、悩んでいた。そのとき電話がなった。
「お前、今どこおるんや?」
「今、家におる」
「まだ家におったんか!彼女、福井に帰るんやぞ。昼1時のバスで帰るやぞ」
秋本は時計を見ると12時を過ぎていた。電話を切ると、そのままの状態で慌てて家を飛び出した。
高速バスの乗り場で、ゆり子と小林と高橋は、やきもきしながら待っていた。
「もういいです」
「もうすぐ来るから、もう少し待って」
そう言ってバスに乗り込もうとするゆり子を小林が引き留めた。
「すいません。もうでます」
バスの運転手が言うと、ゆり子はバスに乗りこんだ。ゆり子が席に着くと、高速バスはドアを閉め、ゆっくり発車した。
バスが走り出した直後、小林の目に秋本が走ってくるのが見えた。
「お前、急げよ。今出たとこやぞ」
3人は小林の車に乗り込むと、急いでバスを追っかけた。
「あそこの信号で停まっとうで」
信号が変わらない内に、車は急ぎ、バスの横に付けた。
「ゆり子さん」
3人は車から身を乗り出し、名前を大声で叫んだ。それにゆり子は気づいた。ゆり子も慌てるが、窓を開けることは出来ない。秋本を見ると嬉しそうな表情を浮かべていた。信号は青になりバスは動き出したので、それに合わせて車も遅れないように付いていった。ゆり子は心配そうに車を目で追っかけている。車はバスに遅れないように横にピタッと付けた。3人は叫び、それを見て、ゆり子の目に涙が浮かんでいた。暫くその状態が続いた。しかしバスはすぐに高速道路に乗り入れた。そして、それ以上追っかけるのはやめた。ゆり子は目に涙を浮かべ、悲しそうに止まった車を目で追っていた。3人は車の中で放心状態だった。
翌朝、3人はいつものようにキャンパスで菓子パン、コーヒーを飲んでいた。3人は、何時になく暗い。
「ゆり子さん、おらんようになると、寂しいな」
「あんまり喋らんかったけど、居なくなると何か抜けたような感じがして」
「どうして帰ってしまったんかな」
秋山はポツリと言った。
「お前のこと諦めるためやろ」
小林がズバッと言いのけた。
死にきれなかった、この私。
死ぬことさえ許されない不幸な人生。
死ぬ勇気さえない私。
これからどう生きたらいいの。
絡まった毛糸のように、
悩み続けた人生。
もう悩むことは終わりにしたいの。
もう幸せは望まないから。
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17へつづく |
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