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13
次の日の朝、5人で朝食を食べるために近くの喫茶店に向かった。ゆり子は高橋にシャツとジーパンを借りて着た。幸い高橋はウエストが細かったので、女の子が来ても、それほどだぼだぼでもなく、おかしくなかった。
喫茶店でモーニングを食べた。トーストと目玉焼きとソーセージ、サラダ、コーヒーがついている。
「こう言うのも初めてね」
亜衣が言う。
「たまには、みんなで朝食を食べるのもいいね」
美帆が嬉しそうに言った。この温かい雰囲気にゆり子は嬉しく、いつになく元気に食べていた。
「もしかしたら、この後、また秋本さんとも会えるかもしれない」
そう思うと心がウキウキしていた。それで昨日の事も忘れることが出来た。
「ゆり子さんにも笑顔が戻ったね」
小林が言った。
「秋本に会ったら、とっちめてやるからね」
高橋がそう言うと、ゆり子は嬉しそうに笑った。その後、みんなで学校に行き、それぞれの教室に向かい、授業を受けた。
1時限目の授業が終わると、小林と高橋はいつものカフェでお茶をした。
「秋本、来うへんな!」
「どうしとんかな?昨日から電話も繋がらへんし」
そこに亜衣と美帆が、ゆり子を連れてやってきた。
「秋本君はどうしたの?」
「それが来てないねん」
「えー!麻紀も来てないのよ」
その言葉を聞いて、ゆり子はショックだった。さっきまでの笑顔は消えていた。期待していた分、裏切られた気持ちで悲しかった。
「もしかして、昨日2人で帰って、そのままどちらかの家に泊まって、今頃デートでもしてるのかな」
高橋が無神経に喋った。
「何言ってるの?!」
亜衣がゆり子をチラッと見て、高橋を叱った。
「昨日から何度も携帯に電話しとんやけど、かからなくって」
小林が言った。
「私たちもよ。麻紀にかけてるんだけど繋がらなくって」
ゆり子は、その場から逃げ出したい気持ちになり、その場を跡にした。
「秋本は、何考えてるのかな。ゆり子さんの気持ちも考えないで」
小林が少し怒っていた。
「ゆり子さんにとっては、ショックでしょうね」
美帆が悲しそうな顔で言った。
そのころ、秋本と麻紀は学校をさぼり、2人で映画を見ていた。昨日は麻紀の家に強引に泊めさせられ関係をもった。そして今、映画館に行っているのも、麻紀の事が好きという訳でもない。前からの約束だったし、麻紀の強引さに折れて、行くことになったのだ。みんなが心配していることなど、まったく気づいてなかった。麻紀は秋本と一緒に映画見ていることに幸せを感じていたが、秋本はつまらなかった。
「早く帰りたい」
と心の中では、そう考えていた。
映画を見た後、2人は食事をした。秋本は女の子に奥手だし、麻紀にも興味がないので、話しは弾まなかった。
「何考えてるの?」
何も喋らない秋本に向かって麻紀が言った。それに秋本は答えなかった。
「私と居ながら、ゆり子の事考えているんでしょ」
ゆり子の事など考えてなかったので、秋本はすねた。
「私、帰りたくないの」
レストランから出ると、麻紀は秋本の腕にしつこく、しがみついた。
「今日は、もう帰ろう」
秋本は気持ちを静めようとしたが、麻紀は諦めなかった。
「秋本君の家に行きたい」
そう言うと、家まで強引に着いて来た。
麻紀は秋本の腕にしっかりしがみつき、秋本のアパートの前まで来た。
「ここが秋本君の住んでるアパート?初めてきたわ」
秋本は何も答えなかった。
「いい所ね。桜並木があって、こんな所が神戸にあるなんて知らなった。夙川とか行ったけど、秋本君の家に来て花見すれば良かったね」
秋本の顔が引きつった。
「来られたら迷惑だ」
と心の中で呟いた。
「いい感じの建物ね。昔のレトロ感を残しながらの建物で」
アパートの外階段を上りながら麻紀が喋っている。さっきから1人で喋っている。秋本は興味ないので無口だ。
「私、ここ住みたい」
その言葉に、秋本の顔は、また引きつった。このまま家に上げたら、帰ってくれないのではないかと言う緊張感があった。だから階段を上がる足取りは重かった。
「歩くの遅いね」
麻紀は秋本の腕にしがみついたまま、秋本を引っ張るように階段を上っていった。階段を上まで上がり、廊下を歩こうとしたとき秋本はいつもと様子が違うことに気づき、足が止まった。
「どうしたの?部屋はどこ?」
その言葉に促されるように、秋本はまた歩き出した。部屋の前まで歩を進めると部屋の前で止まった。
「部屋ここなの?」
麻紀は秋本の顔色を伺ったが、秋本は不穏な表情を変えなかった。
「部屋の前に、花が置いてあるよ」
また麻紀は秋本の顔色を伺ったが、秋本は表情を変えなかった。反応がないので麻紀はしゃがんで床に置いてある花束を持ち上げた。2種類の花束だ。1つはぱっとした大きくて白い花を咲かせているが、もう一つは地味で目立たない花だ。見過ごしてしまいそうな小さな花だ。
「誰からかしら?」
麻紀は暫く手紙らしき物がないか調べるが、何も無かった。しかし次の瞬間ビックリすることを言った。
「私やっぱり帰る」
「えー」
麻紀の急変した態度に秋本は驚いた。そして花束を秋本に渡すと、止める間もなく、麻紀は外階段を駆け足で下りて、帰っていった。外階段を歩くヒールの足音だけが虚しく響いた。麻紀が帰ってくれることは嬉しかったが、あの急変した態度に驚いたし、1人取り残されると何かむなしさが残る。
花束を持ったまま鍵を開け、部屋に入ると、奥の部屋のテーブルの上に、それを置いた。男にとって花のことなどさっぱり判らないことだ。麻紀に聞けば良かったのだが、もう帰った後なので聞けない。
「どうして、あんなに急変したのだろう?」
秋本は訳が分からなかった。
「これ俺に届けた花なのかな?よそと間違えて置いたのかもしれんな?」
ふと疑問が頭をよぎった。秋本はソファーに座り、暫く思考を巡らせていたが、何もいい考えが浮かばない。
ゆり子は家に帰ろうとマンションの1階を通り過ぎたとき、2人で行ったスパゲティーの店が目に入った。そしていい思い出が走馬燈のように蘇ってきた。2人でスパゲティーを食べた事。お互い緊張して話が弾まなかったこと。秋本と行った映画、そして一緒に買ったペンダント。そのペンダントは今でも着けていて、今でも彼のことを忘れる事が出来ないのだ。エレベーターを乗りながら、いい思い出を噛みしめた。
しかしいい思い出は、これだけだった。嫌な思い出の方が多かったのだ。彼とのデートで行ったイタリアンカフェ。そこで麻紀に見られてなかったら、こんな事にはなってなかったのに。その後、彼から電話があったが、ふってしまったことに申し訳なく感じた。あのとき麻紀に見られてなかったら、今頃幸せに暮らしているかも。しかし次の瞬間、今の言葉を否定した。でも薄幸な私が幸せになることは無いはず。どこかで破局していたはず。新学期が始まったとき、サークルの教室の前で麻紀さんと仲良くしていたこと。もう私のことは忘れてしまったのよ。今頃麻紀さんと楽しくしているのよ。送別会の後、一緒に帰り、今日も学校に来なかった事。それを考えると胸の奥が苦しくなってきた。本当は好きなのに、好きだと言えない気持ちが辛かった。キャンパスで「俺は、からかわれていたんやで」と言われたこと、送別会では一言も喋ってくれず嫌なムードが漂っていたこと、その後のレイプ事件。走馬燈のように嫌な思い出が頭を駆けめぐり、エレベーターの中で下を向いたまま涙を流した。
部屋に着いたときには、涙が溢れていて、ベットの上で俯せになり、おもいっきり泣いた。
季節は、もう少しで11月になろうとしていた。秋本のアパートの前の桜並木も、赤く色づき、空も夏のような明るさを失い、どんよりすることが多かった。秋本のアパートの中にも、あまり光が入ってこなくなり、薄暗い日が続き、それと共に寂しい気持ちになってきた。ゆり子とも送別会以来会うこともなく、何か悲しいムードだけが漂っていた。外は桜の紅葉を見ようと、紅葉狩りに来ている人はいたが、春の桜の季節に比べると人も少なく、静かで、寂しい感じがした。
どんなときでも、
貴方を想うから。
どんなときでも、
貴方にパワー送るから。
勇気出して取り組んで欲しい。
ずっと先にも、
貴方を忘れない。
ずっと先にも、
貴方を想い続ける自信がある。
貴方に幸せになって欲しいから、
私は貴方から離れていく・・。
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14へつづく |
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