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10
8月の初旬、またみんなで集まる計画を立て、舞子の海に行くことになった。明石市に隣接する、神戸市垂水区。明石海峡大橋を望む所に海水浴場があり、海岸線のすぐ間近を、海岸線に平行するように山陽電車が走っている。みんなの住む神戸市東灘区からは車で1時間くらいの距離だ。
太陽は燦々と輝き、アスファルトを照りつけ、木陰など、何処にもなく暑さから逃げることも出来ない。風も吹かず、雨も長いこと降ってないので、舞子の海岸の砂浜も、太陽の熱で熱くなっていた。海は太陽の光を反射させ眩しいくらいにキラキラ光り、海の上には入道雲がにょきにょき上がっていた。
小林は部屋で忙しそうに出かける支度をしていた。
「あー、もう出ないと」
そう言い玄関に行き、靴をはこうとすると携帯が鳴った。
「あー、こんな忙しいときに」
小林は忙しそうに玄関の鍵を閉めながら、ガレージに小走りで向かい、その途中で携帯を受けた。送信者を見ると、ゆり子だった。
「あ、もしもし」
小林は自分にかかってきたことに不思議に思ったが、明るい声で答えた。しかしゆり子の声は暗かった。
「後藤です」
「あー、どうした?」
元気のない声に気づいて少しトーンを下げた。
「今日都合悪いから行けなくなりました」
小林は、どうして秋本ではなく自分にかけてきたのか疑問に思い、沈黙が流れた。
「あー、そうなの。みんなに言っとくよ」
ゆり子が暗いトーンなので、わざと明るめに答えた。
「お願いします」
少しホッとした感じだった。
「はい」
そう言うと電話を切り、車に乗り込むと、エンジンをかけた。ゆり子は電話を切った後、携帯を持ったまま、思い詰めたような表情を浮かべ、悲しそうにしていた。
いつものように小林は秋本の家まで車で迎えに行き、秋本を車に乗せた。
「さっきゆり子から連絡があったんやけど、お前もあったか?」
少し走った所で小林がそう言うと、秋本は不思議そうに言った。
「いや、俺には何も無いけど」
「お前達、本当につき合ってるのか?」
「つき合ってないよ。だって、このまえゆり子が言うとったやろ?」
秋本はキレながら言った。
「お前、女心判ってないな!」
「そんなこと無いで。俺はゆり子に嫌われたんやで」
秋本はふて腐れ、喋らなくなった。
暫く沈黙が続い後、秋本が言った。
「それで、何て言うとったん?」
「えっ?」
「ゆり子から何て電話あった?」
「あー、そのこと。今日都合悪いから行けないって」
その言葉の後、秋本の頭の中を、いろいろな事が駆けめぐった。もう俺と会いたくないのか。俺と顔を合わす事すら嫌なんじゃないか。俺のことを本当に嫌いになったのか。やっぱり麻紀につき合ってないですと言ったのは本当だったんだ。そう確信した。
その頃、ゆり子は部屋でポツンと座っていた。電気も付けず、さっきの携帯を握りしめた状態で、放心状態だった。
「私の恋も終わった。短かったけど、幸せだった」
そう自分に言い聞かせると、涙が目からこぼれてきた。そして今までの良かった思い出が走馬燈のように蘇ってきた。最初、新人勧誘のときのキャンパスでの出会い。あの時、秋本に一目惚れをしてしまった。あのとき出会わなければ、こんなに辛い思いをしなかったのに。どうして出会ってしまったのかしら。また涙がこぼれてきた。最初に行った映画館は幸せだった。あの時が一番幸せだった。一瞬の幸せだった。
海岸の近くの駐車場に車を停めると、みんなが一斉に降りてきた。みんなはTシャツやタンクトップ、半ズボンやジーパンなどラフな恰好で出てきた。美帆は太陽の光が眩しいので目を細めた。
「今日はいい天気ね」
「ね、最高の天気になってよかったね」
小林の車から、秋本だけが降りてくるのを見て、高橋は驚いた。
「あれー、今日ゆり子さんは?」
「今日、都合悪いんやて」
「最近、へんやな。あの子?どうしたのかな?」
高橋が寂しそうに答えた。
「俺たちと一緒に居るのが面白く無いんやと思う」
秋本は怒りながら言った。ここにゆり子が居たら、どんなに傷ついた事だろう。ゆり子の気持ちを誰もくみ取ることが出来ていない。
「あの子お嬢さんなのよ。だから私たちと合わないのよ」
麻紀がすかさず言った。
「ゆり子さんがいないと盛り上がらないな」
高橋は寂しそうにした。
「私たちが居るでしょ」
亜衣が明るく答えた。そのとき麻紀はすかさず、秋本に近づき腕を組んだ。
「ふゅうふゅう」
麻紀の行動を見た高橋は、2人をからかった。
「ゆり子さんがいたら、俺はゆり子さんと仲良くするんやけどな」
麻紀と秋本が仲良さそうにしているのを見て、高橋は言った。
「ゆり子が秋本さんをからかうと楽しいって言ってたよ」
突然の麻紀の言葉に、秋本はビクッとした。麻紀は秋本と腕を強引に組ながら、ヨタヨタ歩き、周りに聞こえないように小声で喋った。
「私が秋本さんに興味持っているふりしたら、本気にしたみたいで。もう鬱陶しくなったから離れたいのって言ってたよ」
秋本は思考を巡らし、ゆり子の今までの言動から、その言葉を鵜呑(うの)みにした。
「ひどい人ね」
麻紀はとどめを刺すと、秋本はゆり子への怒りが湧き起こった。
海に着くと男達は砂浜にビーチバレーのネットを張った。
「男女交ざって3対3に別れよ」
ネットを張り終わると、小林が仕切った。そう言うと真っ先に麻紀は秋本に近づき、秋本の腕を掴んだ。
「負けたチームが昼食、おごる事ね」
「えー」
小林がそう言うと、みんなは一斉にブーイングの嵐となった。
「勝てばいいんやで」
「そうね。真剣にやるわよ」
麻紀は俄然やる気を出した。秋本、麻紀、亜衣のチームと、小林、高橋、美帆のチームに分かれた。
「じゃー、始めるぞ」
小林がそう言うと、小林のサーブで始まった。太陽は燦々と輝き、砂浜を直接照りつけ、試合をする前から、Tシャツは汗で濡れていた。太陽が眩しくて、普通に立っているだけでも、日射病になるくらいの暑さだ。
球は急スピードで麻紀の前に向かって飛んできた。麻紀は打ち返そうと球に触れるが、そのまま尻もちをついてしまった。
「どんまい、どんまい」
秋本は励ました。次のサーブでは、球は亜衣の前まで行き、球に触れることは出来たが、大きな弧を描いてコートの外に出た。秋本は段々不安になってきた。次のサーブでやっと秋本が打ち返し、サーブ権を取った。しかし、その後の試合はぼろぼろで、結局秋本、麻紀、亜衣のチームが負け、おごる羽目になった。
試合が終わると、汗をびっしょりかき、あまりの暑さで、みんなフラフラになった。そのとき、みんなが見ている前で高橋が砂浜に、ゆっくり倒れ、みんなの表情が一瞬にして青くなった。
「おい、大丈夫か?」
小林が何度も声かけたり、揺すったりするが返事がない。
「どうしよう。救急車呼ぼうか?」
「これかけてみたら」
そう言っていると美帆が落ちていた洗面器を拾い、海の水を汲んできたのだ。それを小林が高橋の頭の上から、一気にかけた。
その瞬間、高橋は息を吹き返した。そして歓声が上がり、ホッとした雰囲気が流れた。暑さで意識を失っただけだった。高橋が頭を起こし、不思議そうに周りを見た。
「みんなビックリしたよ」
亜衣が声をかけた。
その頃ゆり子は、部屋で講義の時間にノートに書いた似顔絵も見ていた。
「あの時が一番幸せだった。あの頃に戻りたい」
似顔絵をジッと見ていると、涙がこぼれてきて、ノートの上に落ちた。1滴、2滴、・・5滴と。涙で鉛筆で書いた似顔絵が滲んできた。
更に涙は止まることをやめず、鉛筆の絵は消えかけ、更にノートはぶよぶよになり、秋本の顔は原型をとどめなくなった。
「自分の恋もこれで終わった。もうどうなってもいいのよ」
投げやりになっていて、自分の人生も、どうなってもいいと思えるようになっていた。
海水浴場近くにあるアウトレットモールの回転寿司でみんなは食事をした。
「やっぱり、ただで食べる食事は美味しいな」
小林が笑った。
「おい、ちょっと食べ過ぎじゃないか」
秋本は半切れ状態になり、小林の皿を数えたら10皿あった。
「これくらは普段食べてるで」
「夕食の分まで食べる勢いじゃないのか?」
秋本は悔しがった。横で麻紀と亜衣はしょぼくれていた。
「私たちが、失敗ばかりしたから」
見ると、食欲はなく、ほとんど食べてなかった。
「食べないのか?そんなに落ち込まなくっても」
高橋は笑顔で言った。
「これはきっとゆり子の恨みなんやで」
小林がふざけて高橋に言った。その言葉に秋本はギクッと頭を上げた。そして秋本の心の中には重い空気が流れた。
食事を終わると、みんなで出て行った。会計は当然秋本、麻紀、亜衣の3人が割り勘で払った。
「ごちそうさん」
暗く、しょぼくれている3人の横を小林は明るく通り過ぎた。それに秋本は本気で悔しがった。横で麻紀、亜衣は相変わらず落ち込んでいた。
貴方に伝えたいの、この想い。
判って欲しいの、この想い。
いつも貴方のことを想ってる。
貴方をチラッと見る意味をわかって欲しいの。
決して嫌ってなんかいない。
そして、もう一度やり直したい。
でも誰も私の気持ちなど分かってくれな
い。
思いと裏腹な方向に行くのはなぜ?
どうして私を、そんなに嫌うの?
私が薄幸だから?
幸せになっては行けないの?
どうして幸せは逃げていくの?
嫌、離れないで。
私の気持ちを判って。
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11へつづく |
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