TOP > 小説 > 桜の咲く頃



 

 男達3人は、いつもの場所で、午前中、コーヒーを飲みながら、菓子パンを頬張り、くつろいでいた。季節は、もう夏を迎えようとしている。日差しもキツくなり、次第に熱くなってきて、木々も燃えるように輝いていた。服装もラフな物に変わり、みんなTシャツにジーパンとなった。

「暑いな」

 高橋はグテーとしながら、アイスコーヒーを飲んでいた。

「もう、すぐ夏休みやな。今年の夏は日本海にでも行って、泳ぎたいな」

 小林がそう言うと、すかさず高橋が答えた。

「行こう。今から行こう。こんな暑いと、泳ぎたい気分やで」

「今すぐは無理やで。講義もあるし」

 秋本が笑った。

「何処でもいいから泳ぎたいな。この暑さ、どうにかして欲しいな」

 高橋は、またテーブルにグテーとした。

「しかし暑いな。早く夏休みにならんかな」 3人とも、暑さに負け、グテーとしていた。3人が、のびていると、ゆり子が通りかかった。そのとき男達は慌てて姿勢を正し、その姿を見て、ゆり子はクスリと笑った。その後、ゆり子は秋本をじっと見ていたが、秋本は姿勢を正すときに、ゆり子の視線を感じ目があった。ゆり子は少し頭を下げ、視線を外し、3人の居る所まで近づいてくると、秋本の横まで来て、秋本の隣に静かに立った。

「あー、横どうぞ」

 秋本は隣の席に座るように促した。ゆり子の性格の大人しさと、ゆり子の緊張感で、周りにも、それが伝わり、沈黙が流れた。その雰囲気を打ち壊そうと小林は喋りかけた。

「ゆり子さんは、夏休みどうするの?」

「私は、・・まだ考えてないです」

 秋本の方をチラチラ見ながら喋った。ゆり子が秋本の顔をチラチラ見ながら話す姿を見て、小林は秋本に対して不安になってきた。秋本が女に消極的なのを知っているから、ちゃんとリードしているのか不安になったのだ。

「秋本、デートの約束とかしているのか?」

「1回デートした」

「まだ1回しかデートしてないのか?」

 小林は驚いた顔を見せた。

「もっと誘わないと」

 秋本は気まずそうな表情を浮かべ、ゆり子は秋本の言葉を期待するかのように静かに座っていた。秋本の事が大好きで、秋本が誘てくれるのを静かに待っている切ない乙女心を感じる。秋本は気まずい空気のまま、何とかしないと行けないと思いながら言葉を発することが出来ない。もちろん誘うことなど出来るはずもない。

「また電話するよ」

 秋本は緊張しながら、なんとかお茶を濁した。その後、ゆり子は緊張した笑顔を見せた。

 

 男達がカフェでお茶をしている頃、女達もレストランでお茶をしていた。レストランと言っても昼間以外は、カフェのようなものだ。ここで女達はいつもお茶をしている。アイスコーヒーやアイスティーにケーキを食べながら喋っていた。

「麻紀は、まだ秋本君の事が好きなの?」

 亜衣はケーキを口に入れながら聞いた。

「当然よ」

「でも秋本とゆり子がつき合ってるらしいよ」

 美帆が口を挟んだ。

「本当に?」

 麻紀は急に驚いた表情を見せ、場に緊張が走った。

「私の友達が、この前一緒にいるのを見たらしいのよ」

「間違いじゃないの?」

 麻紀は焦った表情を浮かべ、違うと言って欲しかったのだ。

「友達の言う事だからハッキリしたことは判らないけど」

 美帆も麻紀の必死な表情に、言うべきじゃななかったと悟り、とぼけた感じで答えた。場は一瞬、とげとげしい雰囲気に包まれ、その後沈黙が続いた。美帆は残ったケーキを口に頬張ったが、冷たいケーキを食べているような感じがした。

 

 昼食の後、男達はキャンパスの芝生に寝ころがった。

「たまには、こう言うのも気持ちいいな」

「気持ちいいな」

 太陽は燦々と輝いて眩しかったが、芝生の感触は気持ちよかった。

「眠たくなって来た」

「このまま講義ボイコットしようか」

 暫くは静かに目をつぶり、芝生の感触を楽しんだ。このままジッとしていると本当に眠ってしまいそうになった。

「今度、何処行く?」

 心地いい雰囲気を打ち壊すように高橋が喋りかけた。

「何処って?」

 小林は眠そうに目をこすりながら答えた。

「今度サークルで何処行く?」

「あー、この前言っていたボーリングでも行く?」

 秋本が言った。

「そうやな」

 小林は肯定した。一言しか返さなかったのは、眠かったのだ。眠りを邪魔されたくなかったのだ。

 高橋がふと時計をみると1時5分前だった。

「おい、もう起きろよ。5分前やぞ」

「う、うん」

 小林は眠そうに目をこすりながら、上半身を起こした。でも授業を受ける気には、なれなかった。

「秋本も起きろよ」

「うん、判った」

 高橋は先に立ち上がると、横のグランドでフェンスに顔をくっつけ、野球部の練習を見ていた。

「頑張れ」

 バッターに向かって大きい声で怒鳴った。ピッチャーがバッター目掛けて球を投げ、バッタは打った。しかしバッターが力無く打ったのでファールになった。

「もっと、しっかり振れよ」

 高橋が怒鳴ると、バッターが血相変えて、こっちに向かってきたので、高橋は慌てて校舎に逃げた。それを見ていた秋本と小林は眠さが吹っ飛び、慌てて高橋の後を追っかけた。校舎の中に入り、階段を3階まで一気に駆け上った。バッターが追っかけてこないと思ったとき、3人は安心して立ち止まった。そして、しゃがんで背中で大きく息をしていた。

「何やっとんや」

 小林は怒った。

「さっきまでのいい気分が台無しやな」

 秋本が言った。

「さっきまで気持ちいい気分やったのに、何で息切れせなあかんのや」

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8へつづく