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時計のベルで、ゆり子は慌てて起きた。目覚まし時計を見ると朝の7時だった。
「今日はデート」
そう思うと笑顔になれた。今まで暗い表情を浮かべていたのに、今日は久しぶりの笑顔を見せた。ドキドキしながら、満面の笑みを浮かべていたが人前に出ると、その笑顔を人に見られるのが恥ずかしく隠してしまう。だから、いつも暗く見られる。
ワンルームマンションの中の1/3をベットでしめていて、部屋の真ん中にはテーブルが置いてある。ここで食事をしたり、テレビを見たり、本を読んだり全ての事をしている。部屋の中はシンプルで、ほとんど荷物が置かれてなくスッキリしている。
時計のベルで上ぶとんを払いのけ、上半身を起こした。ゆり子は上下とも深い緑と淡い緑のチェックの柄のパジャマを着ていた。一度欠伸をし、大きく伸びると、そのまま風呂に向かった。
眠たい目のままシャワーを浴びていると、妄想だけだが先走る。秋本にキスをされているシーンを思い描き、喜んだ。そのとき、もう既に目は覚めていた。
バスタオルを体に巻くと、デートに着ていく服を考えた。そして淡いブルーの長袖のシャツにジーパンを選び、着た。着替え終わるとテーブルに向かって座り、朝食を摂った。昨日の夜コンビニで買ってきたカレーパンとメロンパンを食べた。コーヒーを飲んでいると時計が目に入った。
「あ、もうこんな時間だ」。
急いでパンを口に入れ、コーヒーで流し込んだ。食べ終わった袋をゴミ箱に入れると、慌てて玄関に向かいミュールをはき、玄関を出た。
ゆり子が待ち合わせのJR三ノ宮西口の改札付近に着いたのは8時45分。約束よりも15分も早かった。改札を抜けた所で周りをキョロキョロするが、秋本の姿は見あたらなかった。ゆり子は太い柱の側に静かに立つと、下を向いていてたが普段の暗い顔とは違って、笑顔がこぼれていた。足を動かしながら秋本が来るのを待ち遠しく待っていた。
10分くらい経ったときに、下り列車のホームの階段から一斉に人が流れてきた。ゆり子が顔を上げると、エスカレーターを降り、急いで改札に向かっている秋本の姿が見えた。秋本が笑顔を見せると、ゆり子も静かに笑った。
「ごめん待った?」
「ううん、今来たところです」
そう言うと、ゆり子は少し照れた顔を見せた。そして2人は約束の映画館に向かった。しかし控えめな2人が歩いても話しが弾むはずもない。2人は黙って歩き出し、映画館に着くまで話しすることはなかった。秋本は喋りかけたいが喋れない、手を繋ぎたいがつなげない。何も出来ないまま映画館の前に着いた。
金券ショップで買った前売り券を2枚、入り口で渡して、中に入った。2人はよそよそしく歩き、席に座った。映画館の中に入っても喋ることはなく、黙って映画を見た。秋本は映画の途中に、ときどき手を握ろうかとか、肩に手を回そうかとか考えるが、手だけモゾモゾ動かし、行動に移す勇気は湧かなかった。そして隣のゆり子の事が気になり映画のストーリーなど頭に入ってこなかった。気まずい雰囲気はゆり子にも伝わっていた。お互い気まずい雰囲気のまま映画は終わり、黙って席を立った。映画館を出てからも、「何か喋らないと」と思いながら、何も喋る言葉は浮かばない。
2人はイタリアンカフェで昼食をとった。店内は明るい雰囲気で、同じようにテーブルとパイプ椅子が並べられたシンプルな作り。秋本はたらこスパとコーヒーを注文した。たらことマヨネーズを和え、それをスパゲティーと絡め、刻みのり、刻んだ大葉、貝割れがトッピングされている。
ゆり子はカルボナーラと紅茶を注文した。ベーコンをカリカリに焼き、卵、パルメザンチーズ、生クリームでソースを作り、茹でた麺にかけて、絡める。茹でてすぐの麺にソースを絡めることで、卵にあのとろみが出る。
秋本は麺をすすり、ここでやっと重い口を開いた。
「福井出身なんだ?」
「はい」
せっかく秋本が重い口を開いて話しかけても、ゆり子は一言返すだけだ。なかなか話が弾まない。
「神戸に来たのは初めてなの?」
「初めてです」
「実家では両親元気なの?」
そのときゆり子の表情が曇った。秋本は入部の際に母の名前を書くときに流した一筋の涙が気になり、どうしても聞きたかったのだ。でもやはり聞いては行けないことを聞いてしまったと思い慌てて取り消した。
「あ、あー、ごめんなさい。変なこと聞いて。俺たち、つき合ってるって考えていいのかな?」
秋本はまだ確認してなかったので勇気を絞って聞いてみた。するとゆり子の方から嬉しそうな笑顔が洩れた。
「はい」
秋本は、そんなに喜んでくれるとは思ってなかったので、驚きと、嬉しさを感じ、幸せな気分に包まれた。
いつも貴方のことを考えています。
貴方を想う気持ちは、
誰にも負けない。
幸せは突然やってくるものだ。
世界中の誰よりも愛している。
私は薄幸な生活から脱出し、
今、幸せの中にいます
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7へつづく |
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