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18
次の日の夕食のときも板前を呼び、パパと千絵は食事をしていた。
「今日もご馳走ね」
「早くお前が作ってくれるといいんだが」
「私には無理よ」 そのとき会話を遮るように、電話が鳴り、パパが電話を取った。一通り話しをすると、電話を切り、嬉しそうに近づいてきた。
「何?」
嬉しそうに近づくパパを見て、千絵も笑顔になった。
「後藤さん、なんだけど、今度の土曜に一緒に軽井沢に行こうって誘われたんだ」
「軽井沢?」
「新しく別荘買ったんだって」
「えー、いいな。私行く」
「だからOKしといたよ」
千絵は嬉しそうに喜んだ。
土曜日、後藤家の家の前で車を停め、パパと千絵は車を降りて、待っていた。
「この家も懐かしいな。ここで15年近く過ごしたんだから」
そうしている間に、3人が沢山の荷物を手に提げ、家から出てきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「少し長旅になるけど、夕方には着くと思うわ」
そう言うと彩子の家族は、荷物を車に積んだ。
「じゃー、先に行くので着いてきて下さい」
そう言うとお互いに車に乗り込んだ。後藤家の車を先頭に、館林家の車が付いていった。
数時間後2台の車は中国自動車道を東へ突っ走っていた。途中のパーキングで1回の休憩を挟んだ。
「軽井沢は、遠いね」
千絵は窓の外の景色を見ながら言った。長旅に少し退屈していた。
「まだ大分時間がかかると思う。眠くなったら寝ててもいいよ」
「私、大丈夫」
千絵の腕の傷も治り、パパの怪我も完治し、少し前とはうって変わって、幸せな人生になっていた。小学生の頃の明るさもすっかり取り戻していて、こんな幸せでいいのか、疑問に感じた。
「自分は世界で一番幸せかもしれない」
千絵が明るく言った。
「急に何言ってるの?」
「だってパパと、こうして会えたし、素敵な家にも住めた。1億円も転がり込み、そんなのどうでもいいけど。それに後藤家とも仲直り出来た。少し前から考えたら、信じられない事だらけで、天と地ほど違うって感じ」
そう言うと千絵は涙を浮かべていた。
「おいおい、こんな所で泣くなよ」
「だって私にこんな幸せが訪れるなんて想像してなかったから」
涙を拭きながら言った。
「一生苦しんで生きていかないと行けないと、ずっと思ったから、今の状況が信じられなくて」
「今までの人生とは違いすぎ。どうして平均して幸せが来ないの」
「苦しんだ分、普通が幸せに感じるのかもしれないな」
また千絵は泣き出した。
「考えてみれば、これは普通の人生かもしれない。みんな悩まなく生きてきた人生を、私は悩んできたの。でもそんな事に後悔してない。お陰で人以上の幸福を手に入れる事が出来たから」
「パパもう、どこかに行ったりしないでよ」
「もう行く事はないよ」
それだけが気がかりだった。しかし、この後、千絵にとっても、もう一つの幸福が訪れようとしていた事を千絵は知らなかった。
夕方頃、車は軽井沢のメインストリートを走っていた。両側には店が沢山あり、観光客でいっぱいだった。千絵は目を輝かせながら見ていた。
「ここが軽井沢?いつか一度来てみたかったんだ」
車はメインストリートを折れ、静かな林の中の1本道に入っていった。メインストリートの賑やかさとはうって変わって、辺りは静かで林に覆われ、別荘が点在していて、林の隙間から木漏れ日が差し込んでいた。
「わー、素敵な所、こんな所に住みたかったんだ」
「じゃー、夢が実現したんじゃない」
「うん、嬉しい」
車は右に曲がると、1件の家の庭の駐車場に車を止めた。パパが車を停め、車から降りようとすると、彩子が千絵のそばにかけ寄ってきて、千絵の鞄を持ってくれた。
「鞄持ってあげるよ」
彩子は優しかった。今までの償いのつもりだろうか。
「ありがとう」
2人は昔の仲のいい姉妹に戻っていた。
「さー、どうぞ。中に入って」
彩子が千絵を誘導してくれた。
「素敵な所ね」
「私も、まだ2回目なの。また千絵と一緒に過ごせて嬉しい。今日は一緒に寝ようね」
「うん」 千絵は笑顔で返事した。
家の中はコテージ風の建物で、10畳の部屋が2つあり、キッチン、風呂が付いていて、ロフトへ上がる階段があった。
「千絵、ロフト見に行こ」
2人は階段を上がった。ロフト部分は15畳くらいの広さがあり、ベットが丁度5つ並べてあった。天井は三角になっていて、天窓が付いていた。壁にも窓が付いていて、庭が望めた。
2人は子供のように、ふかふかのベットに飛び跳ねたり、寝ころんで空を見たりして、昔話に花を咲かせた。
「また昔に戻りたいね。あの頃は辛いと思っていたけど、今振り返ると彩子と過ごした時期は楽しかったかもしれない」
「私も、また一緒に暮らしたいな。一緒に暮らしていた頃が懐かしいね。今度は2人でここに、こようよ」
「いいね」
2人は嬉しそうに話していた。2人がはしゃいでいる頃、彩子のパパとママ、千絵のパパの3人は夕食のバーベキューの準備をするために、道具や食材を、庭に運び出していた。
「夕食の準備が出来たから、そろそろ降りてらっしゃい」
「はーい」
千絵と彩子がベットに寝転がり話していると、ママが下から大きな声で言った。それに2人は元気に返事をした。2人が下りてくるとパパは網の上にステーキ、ロブスター、あわびを載せだした。
「さすが金持ちの家だ」
千絵は心の中で思った。彩子のパパはみんなにビールをついだ。千絵にもビールをついであげた。
「千絵ちゃん、もうビール飲める年になったのね」
彩子のパパが言った。一緒に住んでいるときは、そうは思わなかったけど「いつの間にか大人になったな」と実感していた。
「さー、どんどん食べて」
ママが言った。
「おしいいね」
千絵が彩子に言うと、お互い見つめ合いニコニコした。
「さっき車で通ったとき、メインストリートに沢山店が並んでいたので、明日見て回ろう」
千絵が彩子に言うと、彩子はパパやママの方を見て、反応を伺った。
「明日午前中は無理だけど、午後はいいよ」
「午前中、何か用があるの?」
「ううん」
そう言って、お茶を濁した。
「じゃー、午前中は3人水入らずで過ごして。私たちも2人水入らずで過ごすから」
そう言うと千絵はパパの方を見た。
「ううん」
パパはハッキリしない返事をして、千絵の方を見た。
「今、嫌々返事したんじゃない?」
パパが乗り気でない返事をしたので、千絵は怒った。
「そんな事無いよ。でもパパも行きたい所あるから、ついてきてくれる」
「行きたい所って、どこ?」
不思議そうに聞く。
「あー、ゴルフでしょ。それだけは嫌よ。そんな所に付いていって、私楽しくないもん」
ビールと食事で楽しい時を過ごした。
夜11時頃、何もする事が無くなったので、最初に千絵と彩子はロフトに駆け上がっていった。2人はパジャマに着替え、ベットに横たわり、頭上の天窓から星を眺めた。
「星がよく見えるね」
星を眺めていると、何か少し切なくなってきた。
「こうやって2人でいると、楽しかった昔を思い出すね」
千絵の言葉に、彩子は涙を流していた。
「本当にご免ね」
「泣くのはやめてよ。私は全然気にしてないから、泣かないで」
「でも私の思いでは、楽しかった思い出よりも、ひどい事した思い出しかないのよ」
「そんな事無いわ。私は彩子と一緒に過ごして、本当に楽しかったわ」
「私も今でも姉妹と思ってるわ。これからも仲良くしてね」
「当たり前じゃない」
2人は星を眺めながら、いつの間にか眠りについていた。
翌朝、千絵が起きると、みんなは、既にベットには居なかった。下で食事している音が聞こえた。
「なぜ私だけ起こしてくれなかったの」
そう呟き、眠い目をこすり、欠伸をしながらダイニングに下りていった。
「おはよう」
「おはよう」
「みんな早いのね」
「でも、もう9時を回っているわ」
5人は揃ってパンを食べた。
「これ美味しいパンよ。食べて」
ママはそう言うと、千絵に渡した。
「紅茶にする、コーヒーにする」
「私、紅茶がいい」
千絵は眠い目をこすりながら、ゆっくり食事をした。3人は食事を済ますと、急いで出て行った。千絵とパパの2人のみが取り残された。
「こんなに早く、どこ行くのかしら」
「親子水入らずで、何か用があるんだろ?」
「何か寂しいな。昨日千絵は私の事、姉妹と思っていると言ってくれたのに。何か隠し事されて居るみたいで嫌ね」
そのことにパパは何も言えなかった。
「パパもそろそろ出かけないと」
「えー、もう出かけるの」
千絵とパパは、車に乗り込むと、パパは何も言わずに発車した。
「どこ行くの?」
「ううん」
パパは、またお茶を濁した。
「変な人」
5分ほど行った所で車を留めた。当たりは林でなにもない。
「こんな所に何があるのかしら?」
不思議そうに思いながら、千絵は車を降りた。
「ちょっと待って」
先に行くパパを走って追っかけた。パパは少し先で待っていた。
「軽井沢の、朝の空気は気持ちいい」
パパが深呼吸したので、千絵も深呼吸した。
「気持ちいい」
そう言い、近くを散策した。
「あんな所にチャペルがある。かわいい」
千絵は笑顔になり、興味津々だった。
「私、結婚するときは、こんなチャペルがいいな」
パパは無関心だった。
「パパ憶えといてよ。私、将来結婚するときは、こんなチャペルにする。彩子にも可愛いチャペルがあった事を教えてあげないと。ちょっと中覗いてみよ」
千絵がチャペルの入り口に近づいたとき、パパも慌てて走り寄った。チャペルの大きい2枚のドアが重なって閉まっていた。千絵がチャペルのドアを開けたとき、反対側のドアをパパが開いた。ドアを開けたと同時に、結婚式のテーマが流れた。中の椅子には、既に人が大勢の人が座っていた。
「すいません」
千絵は真っ赤になり、慌てた。静かだったので結婚式はしてないと思っていて安心してドアを開けると、結婚式をしているのでビックリした。
千絵がドアを閉めようとした瞬間、パパは千絵の腕を掴んで、前に見える真っ赤なバージンロードを歩き出そうとした。パパの正気ではない行動に、千絵はパパの顔を見た。しかしパパは泣いていた。チャペルの中程まで引っ張られるように千絵は進むと、中程に座っている3人が後ろを振り向くやいなや、クラッカーを鳴らした。その音に心臓が止まりそうになった。千絵は何が何だか判らない。
「おめでとう、千絵」
見覚えのある声だ。見ると彩子だった。そしてパパとママもいる。更にバージンロードを進むと、神父の前に、白いタキシードの男性が立っている事に気づいた。神父のそばまで行くと、神父は、
「さー、始めましょう」
何が何だか訳が分からない。そう思っていると、タキシードの男性が振り向いた。タキシード姿の松本が笑顔で、千絵を見た。その瞬間、千絵の目から涙がこみ上げてきた。
「今までの誤解されていた気持ちを判ってくれたのだ」
心の中にある霧がさっと晴れるのと同時に、
不幸だった自分が、これで不幸から脱出できたのだ。と言う安堵感から、涙がこみ上げてき、涙で松本を見る事が出来なかった。そして、これを計画してくれた彩子にも感謝した。涙で結婚式がすすまない。
結婚式は形だけの物だったが、彩子が仲直りの印に計画した物だった。これから2人は、再びつき合うようになり、2年後本当の結婚式をし、もちろん後藤家も呼び、成功の元に終える事が出来た。そして後藤家の人とは今でも仲良くお付き合いをしていて、千絵は本当の幸せを掴み、15年間に及ぶ不幸の生活から完全に脱出する事が出来た。不幸の中で苦しみ、もがきながらも幸せを勝ち取り、そしてこの15年間を振り返って思ったのは、
「バラ色の人生だった」
そう力強く思えた。辛い人生を送った分、その分幸せとなって返って来たのだ。そう考えると辛い人生がバラ色の人生に思えた。それに当時は辛いと思っていた人生も、今考えると、それほど辛いものではなかったのだ。パパと会えない事ばかり考え辛く思っていたが、本当は楽しくて、幸せな人生だったのだ。それに当時は気づく事が出来なかっただけなのだ。
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