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14

 

 翌日、亜紀子は仕事に出て行き、千絵は1人、部屋に取り残されていた。1人になると、また暗く、寂しくなった。自分の細身の腕に巻かれた包帯をジーと眺め、あの頃の事を思い出し、悲しくなってきた。

「私だけが、どうしてこんなに辛いの」

 涙を流しながら、まだジンジンと痛みが伝わってくる。

 

 千絵はボーと1日を過ごし、夕方亜紀子が帰ってきた。

「ただいま」

 亜紀子は帰って来るなり千絵に言った。

「お腹空いたでしょ。今から飲みに行こ」

 1人寂しそうにしている千絵を見て、亜紀子は明るく言った。そして2人は、着の身着のままの恰好で出て行った。

 居酒屋風の店に入り、ビールと焼き鳥、唐揚げなどを頼み、2人は小学生の時同級生と言う事もあり、昔話に花が咲いた。

「あ、そうそう、山本さんどうしたか知ってる?」

 亜紀子は千絵を励まそうと明るく言った。

「えー、知らない」

「あの人、女社長になったのよ」

「えー、そんな人には見えなかったけど」
「決行やり手で、バリバリ仕事しているらしいよ」


「えー、うらやましいな。私も、そうなれたらな」

 亜紀子はチーズを一口口に入れると、嬉しそうに続けた。

「じゃー、鈴木さん、どうなったか知ってる?」

「どうなったの」

 千絵がそう言うと、亜紀子はニコニコして言った。

「あの人はね、三浪して、まだ大学生よ。大学でも落第ばっかりしているみたいよ」

「あの子、小学生の時、優等生だったよね」

「人の将来って、どうなるか判らないね」

「ほんとそうね。私も、その1人なのね」

 そう言うと笑っていた。亜紀子はビールをぐっと飲み、また思い出したように言った。

「あ、そうそう。小学3年のときにタイムカプセル埋めたの、憶えている?」

「あっ、私も、それ気になっていたのよ」

 千絵は身を乗り出して聞いた。

「20歳になったとき、みんなで集まって掘り返したんだけど、どこに埋めたか判らず、出てこなかったのよ」

「えー、そうなの」

 千絵は少し残念そうだった。

「男子が夕方まで頑張って、校庭の1/4掘り返したけど、出てくるのは、他のタイムカプセルばかりだったの」

 亜紀子がそう言うと、千絵は笑った。

「馬鹿ね」

 亜紀子は、何とか千絵を喜ばそうと、いろいろな話しをした。そして千絵は久しぶりに笑っていた。

「私こんなに楽しく感じたの、久しぶりよ」

「今までが辛すぎたんだよね」

「うん」

 そう言うと、嬉しくて涙が出てきた。

「でも、千絵は小学生の時、本当に明るかったよ。だから最初、暗い表情をしている千絵を見て、千絵だって気づかなかったよ」

 亜紀子はビールを一気に飲むと千絵に聞いた。

「千絵の夢は何?」

「私は、そうね・・、一戸建てを持って、後は普通の生活が出来たらいいよ」

「普通でいいの?」

「でも本当は欲しいものはないの」

「え!」

「一番の夢はパパと一緒に暮すこと」

 そう言うと、泣き出した。涙と鼻水を垂らしながら続けた。

「それがあれば、後は何も要らないの」

「謙虚だね。今の子には珍しいよ」

 2人は店を出ると、酔っぱらいながら、外を千鳥足で歩いた。

 

 亜紀子は千絵の肩に手を回し、2人でふらふら外を歩いていた。そのとき、千絵の足が止まり、呆然と立ちつくし、遠くを見つめた。それに気づいた亜紀子が不思議そうに立ち止まった。

「どうしたの?」

 亜紀子は千絵の顔を覗き込んだ。

「今のパパだわ」

「えー!」

「絶対パパだ」

 そう言うと千絵は顔面蒼白になり突っ走り、亜紀子が気づくと追いつけない距離にいて、人混みの中に消えた。亜紀子は後を追うが、見失っていた。

「幸せが、こんなに早くやってくるとは意外だった」

 1人取り残された亜紀子も、千絵が本当にパパに会える事を願った。自分の事のように、再会する事を喜んでいた。辺りを探すが、千絵の姿はない。

 その頃、千絵は呆然と立ちつくしていた。辺りを行き交う人は多いが、その中に1人寂しく立っていた。悲しそうな顔で、手にはペンダントが握られていた。パパを見失っていたのだ。

「もしかしたら違っていたのかもしれない」

 自分の中で葛藤していた。そんなときに亜紀子からの携帯が鳴り、我に返った。

「今どこにいるの?」

「あー」

 

 亜紀子は千絵が道路でうずくまっている姿を見つけた。様子からパパとは会えなかった事がすぐに判った。亜紀子は、急いでかけより、千絵を強く抱きしめた。今までの千絵の苦しさを知っているだけに、自分の事のように心配していた。

「大丈夫よ、いつか会えるわ」

 更に千絵を強く抱きしめ、一緒に泣いた。


 数日が過ぎた。 


「だだいま」

 亜紀子が仕事から帰ってきた。

「お帰り」

 千絵は部屋の中から返事をした。亜紀子は手に紙袋を持っていた。

「ちょっと後ろ向いてて」

「何?」

 千絵は嬉しそうに答えた。亜紀子と暮らすようになり、少し明るくなっていた。

「いいから」

 亜紀子は靴を脱ぎ、部屋の中に入ってくると、

「絶対見ないでよ」

「見てないよ」

 千絵ははしゃぎながら言った。その間に亜紀子は、いろいろな準備をしていた。

「はい、いいよ、こっち見て」

 そう言って振り向くと、テーブルの上には、ケーキがあり、その上に24本のロウソクが立ち、火がついていた。それを見た瞬間、千絵の目からまた涙が一筋流れた。こんなに親切にされ、愛されていることが判ったからだ。

「ありがとう。今日私の誕生日って、知ってたのね」

 泣きながら千絵は言った。

「こっそり調べたのよ。それより早く火を消して」

「うん」

 千絵は涙を拭き、嬉しそうにし、火を吹き消そうと構えた。そのとき10歳の時の誕生日が脳裏に蘇ってきた。あのときも10本のローソクを立て、火を消した。

「10歳の誕生日おめでとう」

 千絵は喜んでいた。あのころはパパもいたし、ママも生きていた。幸せで、何も悩みのない時だった。

「ほら、千絵火を消せよ」

 パパの言葉に、千絵は嬉しそうに消した。パパもママも嬉しそうな笑顔で見ている。もう一度戻れるなら、あのときに戻りたい。

「ほら、早く消して」

 亜紀子が言った。そのとき千絵の目には涙が溢れていた。亜紀子の優しさに触れ、幸せだった頃を思い出すと涙が出てきた。

「どうしたのよ。そんなに泣く事じゃないと思うけど」

「私、幸せよ」

 涙で前が見えず、火を消そうとするが消せない。それを見て、亜紀子ももらい泣きした。

「亜紀子、消して」

「何言っているのよ、あなたの誕生日でしょ」

 亜紀子も泣きながら言った。

「そんなに泣く程の事じゃないから。早く消して」

「10歳の時の誕生日を思い出したのよ」

 千絵は涙を拭い、ローソクの炎を吹き消した。

「おめでとう」

「有難う」

「涙拭いて、食べましょ」

「うん」

 千絵は涙を拭いて、笑顔になった。

 

 次の日の夕方、亜紀子が仕事から帰ってくると、玄関で靴を脱ぎながら言った。

「今日は、お弁当買ってきたから」

「いつも有難う」

「いいのよ、出世払いよ」

 家に帰ってきて、2人で弁当を食べながら、千絵に聞いてみる。

「パパの名前なんていうの?」

「俊介よ。でも、どうして?」

 どうして亜紀子が千絵のパパの名前を聞いたのが不思議だった。

「やっぱり!」

「え!何かあったの?」

 亜紀子の言葉に、千絵は驚いた表情を浮かべた。

「腕を怪我したって言って、うちの病院に来たのよ」

 千絵の顔色が変わった。

「千絵の名前館林でしょ。名前が同じなので、ひょっとしてと思ったんだけど」

 それを聞いて、千絵は興奮した表情をしていた。

「それでパパはどうしたの?」

「保健所の住所書きとめたから、明日家行ってみれば」

 とメモを渡した。千絵はメモを受け取り、不安そうに住所を見ていた。

「本当にパパに会えるのかな?でも、こんなに簡単にパパに会えないと思う。まだこれから茨の道を1本か2本通らないと、会えないように思えるのよ。幸せが、そんなに急に来るわけないわ」

 今までの人生が辛かっただけに、辛くない人生など考えれなかったのだ。だから簡単に願いが叶うようには思えなかった。

「もうパパはすぐ側にいるのよ。この前、飲みに行った帰りに見た人も、パパだったのよ」

 亜紀子はニコニコしながら、励ました。

 

 次の日、千絵は住所の所に行ってみた。夜は、不安と興奮であまり寝れなかった。もしかしたらパパに会えるのかと思うと、ドキドキした。豪邸を出て行き、もう会えないと思っていたのに、再会できるんだ。そう思うと胸は高鳴っていた。

 住所を手がかりにしていくと、同じ作りの部屋が1階に5件、2階に5件ある作りの安アパートだった。

「こんな所に住んでいたのね」

 近づくに従いドキドキしてきた。恐る恐るドアまで近づき、もう一度住所を見、間違いない事を確認すると、ベルを押す手が震えていた。ベルを押す為に前に突き出した人差し指に大量に血液が流れるのを感じ、指が熱い。もう一歩の所で緊張で人差し指が動かなくなり、小刻みに揺れた。心臓もドクンドクンとなっている。

 意を決して、ベルを押した。待っている時間が長く感じた。暫く待つが反応がない。

「どうしたんだろう?出かけているのかな?」

 もう一度ベルを押した。待っている間、心臓がドキドキ鳴っていた。

「仕事に行っているのかな?」

 少し待つ事にした。待っている間も、不安と興奮は続いた。1時間ほど経ったとき、隣の家の人が出てきた。まだ新婚で、若そうな奥さんに見えた。その人に、恐る恐る近づいて聞いてみた。

「1ヶ月ほど前に引っ越しましたよ」

「えー!」

 今日会えると思ったのに、今まで高まっていた不安と興奮は一気に冷めた。

「どこへ行ったんですか?」

「さー、ちょっと判らないです」

 やはり千絵が考えていたように、パパとの再会は簡単なものではなかった。千絵は帰り道いろいろ悩んだ。

「この家も追い出されたのかな。それとも、まだ借金で苦しんで夜逃げをしたのかな?」

 悪い方にばかり考えてしまう。行きは不安もあったが明るかった。しかし帰り道は暗かった。がっくり肩を落とし、とぼとぼと歩いた。

 

 ホームで肩を落として立っていると、上下2本の電車が同時に入ってきた。千絵は電車に乗り込み、ドアの近くでもたれて、ボーと外を見ていた。パパに会えると思ったのに、ショックは大きかった。どうしてあの家、出たんだろう。あそこに本当にパパが住んでいたのかな。でも亜紀子が住所を控えてくれたし間違えてないと思う。

 ドアが閉まったとき、反対の列車のドア付近にも男の人が立っているのが見えた。千絵はボーと、その男の人を見ていた。

「パパに似ている」

 そう思った瞬間、我に返った。そのとき電車は走り出した。千絵の目は見開き、焦ったが、既に遅かった。お互いの列車は、反対方向に走っていった。暫くパパを目で追い、動く電車の中を反対に歩いた。

「あれはパパだ。間違いなかったんだ」

 しかしパパは、どこか寂しそうだった。
「パパは借金がまだ返せず、あの家も追い出されたんだ。パパが幸せになってくれないと、私も幸せになれないじゃないの」


 また悲しくなってきた。

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15へつづく