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 2人は高校3年生になっていて、もうすぐ大学受験を控えていた。千絵と彩子は違うクラスになり、昼食の時、千絵は友達どうしで机をくっつけて、お弁当を食べていた。

「ねえ、千絵はどこの大学受けるの?」

「私、大学行けないわ」

「どうして?」

「居候の身分だから、働かないと」

「彩子の家でしょ。あの子の家、金持ちだから、そんなの気にしなくていいんじゃない」

「でも、そんなこと言えないわ」

 千絵は俯いて喋り、未だにうち解けてない家族に遠慮していた。

「私なら、気にしないけどな。そんなこと気にしてたら、損するよ」

「私2年の時、彩子と友達だったから、言ってあげるよ」

「いいよ」

 そこへ彩子が、ひょっこり教室に入って来た。そして千絵の所まで来た。

「千絵、体操服貸して。朝慌てていたから、忘れちゃったのよ」

「彩子。今、あんたのこと話してたのよ」
 友達が横から口を出した。
「えー、私の話。何の話?」


「2人とも、本当の姉妹みたいに、そっくりね」

「よく言われるけど、そんなに似てる」

 元々の顔立ちは違うが、髪型が同じな上、一緒に住んでいるので表情、笑い方も似ていたから似ているように思えた。

「千絵が大学受験しないって言うのよ」

「どうして?」

「居候だからって遠慮してるのよ」

「お金のことは心配しなくていいのに」

「彩子の家は、お金持ちだからね」

「それはママに言っとくよ。よれより体操着貸して」

 彩子は友達と話ししていたが、彩子の方に向き直り体操着を借りると、急いで教室から出て行った。

 

 授業も終わり千絵は1人で、下を見て、とぼとぼと帰り道を歩いていた。空もどんより暗かったので、性格の暗さに拍車がかかった。

「私、大学受験できないわ。本当の親でもないのに、私の学費を出して貰うなんて、そんな事出来ないわ」

 そう思うと、どんどん暗くなっていった。

「みんな楽しい大学生活をおくっているのに、自分だけはどうして、こう暗い人生をおくらないといけないのだろう。大学に行けばコンパなどして、彼氏も出来て、楽しい生活が送れるかもしれないのに」

 想像だけが膨らむが、遠い夢の話しだった。

「パパが迎えに来てくれたら、私も大学行けるのに」

 しかし暫く考えた後、訂正した。

「でもパパが戻ってきても、大学には行けないわ。パパは今頃、他人の借金で苦しんでいるのよ」

 パパが戻ってきても暗い人生をおくらないと行けないのかと思うと自然と涙が出てきた。足取りも重く、とぼとぼと家に向かった。千絵の気持ちと比例し、空もどんどん暗くなってきて、下を向いて歩いていると、アスファルトの上を雨がポツポツ落ちるのが見えた。

「あ、傘持ってくるの忘れた」

 そう気づくと、走り出していた。雨に濡れないように手を頭に載せて、走っていたが、段々雨が激しくなってきた。

「ゴロゴロ」

 雷が鳴り響いた。

「怖い!」

 また恐怖がぶり返してきた。少し行った所の電車の高架下で雨を避けた。そのとき閃光と共に雷が鳴った。閃光が走ったとき、あのときのパパの姿が鮮明に蘇ってきた。借金を肩代わりした日、黒いレインコートを着て、うつむき加減のパパの姿だ。

「怖い!」

 家までの距離はまだ大分ある。千絵は異常に怯え、パパに貰ったペンダントを握りしめていた。その後は、脇目もふらずに、一目散に家に向かって走った。走っている間中、顔は必死の形相だった。

「早く帰らないと。早く帰らないと」

 そればかりを呪文のように繰り返していた。このまま外に長い事居ると、何か悪い事が起こりそうで怖かった。もちろん手にはペンダントを強く握りしめていた。

 家に着いたときには、息はあれ、髪は雨で濡れ、乱れ、顔にへばりついていた。顔は涙と雨で濡れ、服装はぐちょぐちょだった。玄関を開けると、ママが近づいてきた。

「びちょびちょじゃない!電話したら迎えに行ったのに」

 その時、背後で雷が鳴った。千絵はママに思いっきり抱きついた。

「怖い」

 ママは千絵の突発的な行動にびっくりした。ママに本当に心の底からひたしくできてなかったので、こんな事をしたのは初めてだった。しかし千絵は、そんなことも忘れ、恐怖が先走り、ママの体を強く抱きしめた。千絵の普段とらない行動に、ママは驚いた。

「どうしたの?唯の雷じゃない」

 しかし千絵の体は震えていた。

「体濡れているから、そのままお風呂に入りなさい。着替えは、後で持っていくから」

 

 千絵は湯船に浸かりながらも、体はぶるぶる震えていた。手と手を握りしめ、その手が震え、歯はガチガチ言っていた
 体が温まるに連れ、震えも収まってきて、気持ちも穏やかになってきた。

「私、どうして雷がこんなに怖いのかしら?」

 冷静に考えると不思議に思える。しかし、暫くすると、もう一度雷が鳴った。千絵は慌てて、湯船に頭ごと潜った。あの時の不幸が始まった日のトラウマがぬぐい去れてない。雷の日は、何か悪いことが起こるような感じがした。

 

 今日は彩子の18回目の誕生日だった。パパもママも揃っていて、みんなでテーブルに置いたケーキを囲っていた。千絵はここに来て誕生会を1回も祝って貰った事がないが、彩子は毎年、祝って貰っている。

「彩子,おめでとう」

 パパが言うと、彩子はケーキのローソクを消した。

「18歳の誕生日おめでとう」

 このとき、千絵は子供の頃の誕生日会を思い出していた。あのときと同じイチゴのケーキだった。

「あのころは幸せだったな。いつもニコニコしていて、全ての夢が叶い、世界一の幸せだと思っていた」

「今頃パパどこにいるのかな?もしかしたら、死んでいるのではないか?」

 後藤家が盛り上がっている中、千絵だけは暗かった。

 彩子はパパに貰った、綺麗なドレスを着て、家族の前で披露していた。

「パパ、似合う?」

 彩子は、よく服を買って貰っているが、千絵は、あまり買って貰えない。本当の親ではないので、買って欲しいとも言えず、いつも古いのを着ていた。

「そう言えば私も10歳の誕生日の時に、服を買って貰ったな。パパとママと一緒に、幸せに過ごしていたときがあったな」

 3人が盛り上がっている中で、千絵は昔の良かった思い出ばかりが思い出されてくる。

 

 その日の夜もベットに入ると、布団を頭からかぶり、泣きながらパパのことを考えた。

「パパどこに行ったの。いつ会えるの」

 パパの事は常に頭から離れる事がなかった。普通なら親を嫌う年頃なんだが、千絵にとっては唯一の身内だった。だから世間の女の子が、どうして父親を嫌うのか理解できなかった。

 

 もう夏休みも終わるという頃、2人共、宿題が山のように残していた。時計は夜の11時をさしていたが、2人は仲良くリビングのソファーに座り、夜遅くまで宿題をしていた。

 母が来ると、お湯の入ったカップラーメンを2つ持ってきてくれた。彩子がさっき頼んでいたのだ。

「夏休みの宿題、いつも後に回すから、こうなるのよ」

 ママはテーブルにカップラーメンを置きながら、口うるさく言った。

「ママ、いいのよ、あっち行ってて」

 彩子は鬱陶(うっとう)しそうに言った。

「はい、はい、判ったわ。でもほどほどにして寝るのよ」

「はい」

 そう言うとママは寝室に入った。

「さー、食べよ」

 千絵の前にはそば、彩子の前にはラーメンが置いてあった。

「あー、私そばがいい、交換して」

 千絵は黙って交換した。こういう事はいつものことだったので、千絵も自然に交換していた。食べながら、彩子は言った。

「今日は、朝まで頑張るから。寝ないでよ」

「うん、わかってるよ。今日しないと、2学期には間に合わないからね」

 食べ終わると、また黙々と宿題を始めた。でも夕方からずっとしているし能率も悪くなってきている。時計は12時をさしていたころ、さっきのカップラーメンでお腹も膨れ、彩子は眠くなっていた。

「私、眠くなってきた」

 そう言いながら、目をこすった。

「でも今日やらないと。2学期が始まるまで、後少しよ」

 しかし彩子は気に留めるどころか、驚くことを言った。

「私寝るから、後で答え見せて」

「え!朝までするっていってたじゃない」
「でも、眠たさにはかなわないのよ」


 そう言いながら、座っているソファーに横になった。眠りにつくまでには時間はかからなかった。

「なんでこうなるのよ。でもやらないと2学期には間に合わないわ」

 千絵は欠伸をした後、気合いを入れた。

「よし、がんばろう」

 彩子はもくもくと宿題に取り組んだ。2学期が始まるまでに片づけないと行けないと言う焦りと、みんな寝静まり静かだったので、思った以上に捗(はかど)った。


 6時頃、太陽の光で、彩子は目を覚ました。


「眩しい!」

 彩子は目をこすりながら、上半身を起こした。

「あ、千絵、まだしてたの?!」

 眠い目をこすりながら、テーブルに向かって千絵の様子を見た。

「すごく進んでるじゃない」

 千絵のしていた数学の問題集を取り上げると、驚いた。寝る前は最初の方をしていたのに、もう終わりの方まで進んでいた。

「静かだったから、思った以上にはかどったわ」

「これ見せて」

「ダメよ、今している所よ」

「いいじゃない、他の教科をすればいいじゃない」

 彩子はすねた。しょうがないので、他の宿題を見せて貰うことにした。千絵の国語の問題集を開くと、その答えを自分の問題集に書き込んでいった。

 そのころパパも起きてきた。

「まだ、起きてたのか?頑張ってるな」

「そうでしょ。私、朝まで一睡もしてないから」

 その彩子の発言に、千絵は驚いて彩子の顔を見た。

 

「わー、ママご馳走」

 彩子は喜んだ。それにつられて千絵も久しぶりに笑顔を見せた。今日は4人が揃って、テーブルに向かい、夕食を食べた。

「今日はパパもいるのね」

「いちゃ悪いか!」

「だって、いつも帰り遅くて、遊んでくれないから」

「ごめん、ごめん。これからは出来るだけ早く帰るようにするよ」

「それより、2人とも、もう少しで大学受験だけど、どこを受けるんだ?」

 千絵の顔が急にこわばった。

「私は、六甲大学」

「千絵ちゃんは?」

「私、大学行かない」

「どうして?勉強頑張っているし、成績はよかったじゃない」

 パパは驚いた。

「私、働く」

「千絵は、お金のことを気にしているみたいなの」

 彩子が横から口を出した。

「お金のことで気を遣ってくれているの?そんな事心配しないでいいのよ」

 ママは心配しないように言った。

「うちはお金持ちだから、ゴミ箱に捨てるくらいお金があるのよ」

 パパは千絵が心配しないようにジョークのつもりで言った。そういうとパパとママと彩子は笑った。

「でも?」

 控えめな千絵は、後藤家に甘えるわけにはいかなかったので、静かに言った。

「そんなに気にするなら、出世払いでいいよ。大学卒業してパパの会社に就職して、そこで少しずつ返してくれたらいいから」

 その言葉に千絵は安心したのか、笑顔に戻った。

「そうよ、お金のことは心配いらないから。大学は出てた方がいいし、心配しないで勉強頑張りなさい」

「私、大学行ってもいいのね」

 千絵は喜んだ。胸のつかえたのが取れたかのように喜んだ。楽しい大学生活を想像していたので、大学に行くと幸せが来るように思えたのだ。そして今まで無理だと思っていたので、小躍りしたいほど嬉しかった。それに拍車をかけるように彩子も、すごく喜んだ。

「私も、2人で一緒に大学行けたら楽しいと思う」

「ママは、千絵ちゃんが成績いいから鼻高々なのよ」

「私は?」

 ママが千絵のことを誉めるので、彩子はすねた。

「あなたもよ。一緒の大学を受かると、ママも嬉しいわ」

 この日は、千絵は長く悩んでいた悩みが吹っ飛び、ことのほか楽しい夕食となった。

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7へつづく